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高機能トライボ表面プロセス部会とドライコーティング研究会、合同研究会を開催
表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会(代表幹事:岐阜大学 上坂裕之氏)とドライコーティング研究会(事務局:近畿高エネルギー加工技術研究所(AMPI))は6月7日、尼崎リサーチ・インキュベーション・センターにおいて、「高機能トライボ表面プロセス部会 第13回例会・第55回ドライコーティング研究会 合同研究会」を開催した。
合同研究会のもよう
高機能トライボ部会は、自動車の低燃費化・高性能化などへの高機能トライボ表面の寄与が増してきていることを背景に、自動車関連・コーティング関連企業や、大学・研究機関などが参加しての分野横断的な議論を通じ、低摩擦/高摩擦、耐摩耗性などに優れた高機能トライボ表面のためのプロセス革新に向けた検討を行う場として、2014年に設立された。
また、AMPIでは所有する各種のレーザ装置やプラズマ装置を利用した加工技術や表面改質技術の研究開発、中小企業の技術支援、という二つのミッションを通じニーズとシーズを常に探っているが、ドライコーティング研究会はこうした観点からAMPIを母体にして、ドライコーティングなどの技術について研究会を開催することで、産官学問わず幅広い有識者の参加により、専門家の講演や保有技術の紹介など、活発な情報交換や勉強会の場を提供している。
今回の合同研究会では、ドライコーティング研究会の島崎浩一郎氏(近畿高エネルギー加工技術研究所)と高機能トライボ部会の上坂氏からの開会挨拶に続いて、「DLCコーティング」をテーマに以下のとおり講演が行われた。
挨拶をする島崎氏
挨拶をする上坂氏
「小径長尺チューブ内腔へのDLCコーティング技術の開発と医療・バイオ応用」中谷達行氏(岡山理科大学)…ePTFEを素材とした人工血管に対して、生体適合性と耐久性を併せ持つ細管内面用DLCコーティングの適用について解説。医療応用の課題解決に向けて交流高電圧バーストプラズマCVD法を用いたa-C:H膜が①DLC膜に展性を付加②常温でコーティング③管状物内面へのコーティングを可能にする、としてDLC膜の評価を実施。その結果、人工血管の物理特性に影響を及ぼすことなくDLC膜が安定していたため、ePTFE人工血管(内径4mm、全長150mm)の内面にDLCを成膜し、犬の頸動脈人口欠陥置換術を施行した実験結果を報告した。動物実験では、免疫系細胞の付着抑制効果が確認され、人工血管の内皮が非常に薄く均一になっており、DLC膜が人工血管内の内膜形成に良い影響を与えていることが示唆される、とした。
講演をする中谷氏
「DLC膜の構造分析法とISO20523」神田一浩氏(兵庫県立大学)…カーボン膜の分類についての国際規格であるISO 20523の制定までとその内容、放射光吸収分光法によるsp2比の決定、兵庫県立大学が運営するニュースバル放射光施設について、これからのDLC膜の構造分析について解説。ISO 20523については、分類のための性質と基準や結晶性の評価方法、水素量の評価方法、sp2/sp3比の評価方法などについて紹介した。また、sp2/sp3比の評価方法の一つとして挙げられたNEXFASでは軟X線領域での連続光源が必要として、軟X線利用に特化したニュースバルの利用分野などについて講演を行った。
講演をする神田氏
「MoDTC添加油中におけるDLCの摩擦摩耗特性」吉田善明氏(トーヨーエイテック)…カソーディックアークイオンプレーティング法によりDLC膜を形成する自社製の装置でta-C膜とta-C:H膜を形成し、MoDTC添加油中における機械的特性などを評価した結果について解説した。評価の結果、MoDTC添加オイルとDLCの併用でDLC膜が摩耗する現象を確認したこと、水素含有量が増加するとDLCの密度が疎になり比摩耗量が増加すると推定されたことなどを紹介した。また、MoDTC添加油中の試験では、sp2/sp3の比率が増加するとモリブデン酸化物との酸化反応が進み、比摩耗量が増加すると推定される、とした。さらに、sp3組成が多く水素含有量が少ない場合に、摩耗せずにMoDTC添加オイルとの併用が可能であることを報告した。
講演をする吉田氏
「薄膜の機械的物性評価 密着性・硬さ・トライボロジー」田代直也氏(アントンパール・ジャパン)…同社が取り扱う硬さ試験機(インデンテーション試験機)、スクラッチ試験機、摩擦摩耗試験機、膜厚測定機について講演。ナノインデンテーション試験機では、800℃と高温環境で測定ができる装置を用いてTiN膜の測定事例を示し、顕微鏡で圧痕観察が不要であることや、硬さ・弾性率の面内・深さ方向のマッピングが行えることを解説した。また、スクラッチ試験機では、ポリマーやフィルムといったソフトマターからDLC膜など硬質薄膜を測定できる装置ラインナップを紹介。スクラッチ後にパノラマ撮影を行うことで、グラフデータとスクラッチ痕の写真を重ね合わせて分析を行うことができることが特徴と述べた。さらに摩擦摩耗試験機では、装飾用TiCNコーティング膜や酸窒化物コーティング膜、ボールベアリング向けにDLCコーティングを施したゴムシールの測定例を示した。
講演をする田代氏
日本精工、VW社とステアリング事業における協業に合意
日本精工とVolkswagen社(VW)は、両社のイノベーション力を高めることを目的に、ステアリング事業における協業に合意、最初のステップとして、製品開発における協業契約を締結した。
写真左から、Schmall氏、Sommer氏、麓氏VW社取締役のStefan Sommer氏は、「ステアリングのグローバルサプライヤーである日本精工との協業に合意できたことは、当社のシャシービジネスにおけるグローバルな開発と生産を拡大させ、イノベーション力をさらに強化する、戦略的に重要なステップとなる」と語っている。
また、VWグループ、コンポーネント部門CEOのThomas Schmall氏は、「両社が持ち寄ったノウハウを製品開発の協業の中で徹底的に活用していくことで、両社の製品がより素晴らしいものになることを期待している」と述べている。
日本精工 執行役専務 自動車事業本部 ステアリング&アクチュエータ本部長の麓 正忠 氏は「VWとの協業合意は、当社の製品ポートフォリオとグローバル生産を拡大するために、戦略的で重要な意味を持つ合意。多くの分野で補完関係にある両社が、将来のさらなるイノベーションに向けて、よりよい関係を構築していくことを期待している」と語っている。
日本滑り軸受標準化協議会、第29回総会を開催
日本滑り軸受標準化協議会(PBSA)は6月12日、東京都千代田区の学士会館で「2019年度 第1回総会(通算 第29回総会)」を開催した。
開催のもよう
当日は、開会の挨拶に立った林 洋一郎会長(オイレス工業)が、「1年前に会長に就任して以来、すべり軸受メーカーとそのユーザー企業、大学・研究機関のアカデミアという三者で育んできた当会の交流を維持しつつ、それぞれにメリットのある標準化作業を進めるとともに、標準化以外の活動・情報交換も拡充していくことを考えてきた。たとえば総会時の特別講演をこれまでの1件から2件に増やす、これまでと切り口の違うテーマや産業全般のテーマの話題提供をお願いするといったことで、講演件数2件は今後も確保したい。このような機会を増やすことで新しい規格のヒントが生まれてくると考えている。会員である3者がともに魅力を感じてもらえる会へと一層発展させたい」と述べた。
林PBSA会長
続いて2018年度の活動報告がなされ、2019年度の活動計画が発表された。2019年度の活動計画として、会議開催関連では2019年度第2回総会を来年2~3月ごろに開催。また、理事会を2回程度開催するほか、ISO/TC123国際標準関連プロジェクトおよび委員会等への参加と支援を行う。国際会議関連では、本年11月に中国・杭州で開催予定のISO/TC123および各SC国際会議の支援や、SC8のタイ国とのツイニングに関して、タイ国との交流を深めるための活動およびそれに係る経費等の支援、ISO/TC123における国際標準新規提案事項の調査、特に表面改質およびすべり軸受計算法に係る標準化作業の支援などを行う。国内関係では、日本機械学会ISO/TC123平軸受国内委員会活動の支援、PBSAおよび同会員に寄与する講演会・研究・調査などの実施、PBSAの会員増強対策、標準化作業を円滑に進めるための会員が活用しやすいホームページの作成・整備などを行う。さらには、その他の国内規格(JIS)および国際標準(ISO)開発に係る活動などを行う。
上記の活動計画のうち今回は特に、PBSAの会員増強案について活発な議論がなされた。たとえばISO/TC123国際議長の山本隆司氏(東京農工大学名誉教授)からは、「転がり軸受メーカーがトレインチャンネルなどで転がり軸受の魅力を発信しているように、水中で低摩擦を示すといった、すべり軸受の多くの利点について、会員各位の専門知識を活用しながら広く宣伝していくことが、すべり軸受に関わる人口を増やす上で有用ではないか」といった提案がなされた。
山本ISO/TC123国際議長
さらに、日本機械学会ISO/TC123平軸受国内委員会の2019年4月~2022年3月の活動の提案について、同委員会幹事の畑中雅憲氏(大豊工業)から報告された。発熱・変形を考慮した軸受計算技術の国際標準化やすべり軸受に関する流体潤滑理論の基礎事項の国際標準化、MoS2を応用した表面改質技術の国際標準化、DLCを応用した表面改質技術の国際標準化、エンジン軸受試験機の国際標準化などを掲げた。また、TC123関係国との連携強化案として、欧州関係国との連携強化や、タイ(SC8ツイニング)との交流などアジア諸国との技術交流を挙げた、
畑中ISO/TC123平軸受国内委員会幹事
総会終了後には、以下2件の特別講演がなされた。
①「TC8/SC6の紹介と海運界の動向について」庄司るり氏(東京海洋大学)…ISO/TC8(船舶および海洋技術専門委員会)の技術的な方向性として安全性や環境、セキュリティー、海洋教育、海洋技術などを掲げ、庄司氏が議長を務めるISO/TC8/SC6(航海および操船)ではISO 19847およびISO 19848を活用した船陸オープンプラットフォームの構築など各種の日本提案を積極的に実施している状況を紹介。今後は船内情報の情報符号拡張のための調査研究や、船内LANに関する調査研究、電子海図表示装置(ECD)の国際標準化に関する調査研究などを進めていくとした。さらに海運の動向として、環境保全や自動運航船、IoT、ビッグデータ、AIなどの利用、造船分野の新技術、新素材、人材不足への対応などについて説明。さらに、航行環境情報や自船情報などの欠落や陸・船間の情報の伝達不良など、船長・当直航海士が情報解析・行動決定を行う上での各種の課題を紹介、SC6ではそれら課題に対応する標準化作業に取り組んでいく必要があると総括した。
講演する庄司氏
②「接触・凝着の計算力学」古口日出男氏(新潟工科大学)…Hertz接触理論など接触解析の歴史や、JKR理論など凝着解析の歴史について説明。接触の解析事例としては、金型などに微細パターンを加工することで鋼板の流入特性を制御でき自動車のドアの型成形などを効率化できるとして、摩擦を考慮した接触解析および実験を用いて微細パターンを有する面の摩擦特性の解明を試みた事例を紹介した。また、凝着の解析事例としては、ヤモリが表面に張り付くのが足先の構造とvan der Waals力によるものであるとして、ヤモリの凝着機構を模倣した、壁面を登るロボットやヤモリテープなどバイオミメティクス研究開発の事例を紹介した。現在も、ソフトマターであるポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いての凝着解析(ヤモリの凝着機構のバイオミメティクス研究)と、ナノマテリアルの応力解析について研究を継続していると述べた。
講演する古口氏