フェローテック、「オートモーティブワールド2020」で、自動車の内装、バッテリー、自動運転へのソリューションを披露
フェローテックは1月15日~17日に東京都江東区の東京ビッグサイトで開催された「オートモーティブワールド2020 第11回EV・HEV駆動システム技術展」に出展した。
同社は2018年1月に「オートモーティブプロジェクト」を立ち上げ、以降、自動車用温度調節シート向けで多くの採用実績を持つ「サーモモジュール(ペルチェ素子)」、さらには創業の技術であり車載スピーカーで実績のある「磁性流体」を中心に自動車市場の攻略を進め、徐々に具体的な適用案件が増えてきている。
今回の展示では自動車分野で検討が進んでいるシステム分野別に、同社のコア技術を活かした各種のソリューションを提示した。
内装分野でのソリューション
スピーカー用磁性流体
磁性流体は、流体でありながら外部磁場によって磁性を帯び、磁石に吸い寄せられる機能性材料で、磁性微粒子、界面活性剤、キャリアとなるベース液(潤滑油)からなる。直径約10nmの極小の酸化鉄粒子が、凝集を防ぐ界面活性剤で被膜され、安定的に分散したコロイド状の液体となっている。
フェローテックの磁性流体は、生産工程においてボイスコイルのセンタリング(中心保持)が不完全なことからコイルの断線などによる低い生産歩留まりに悩んでいたスピーカーメーカーが、磁性流体をエアーギャップ(磁気空隙)に注入したところセンタリング効果が現れ、生産歩留まりが大幅に向上したことで採用が始まった。磁性流体を充填したスピーカーを従来のスピーカーと比べると、最大許容入力の向上(放熱効果)や周波数特性の改善(ダンピング効果)、システムコストの低減、高調波歪の減少など多くのメリットが得られることから、車載用スピーカー向けでも採用が進み、今や圧倒的な高シェアを誇る。
今後の自動運転の普及に伴い、快適な車内環境への要求からスピーカーでもさらなる高音質化が求められる一方で、限られた車内空間からスピーカーに許されるスペースはますます制約される環境下で、200℃に達すると言われるスピーカーの駆動発熱部の放熱が必要となる。同社の磁性流体は他社製に比べて非常に高い耐熱性を有するため、長期間にわたり安定に放熱の役割を果たし、高い音質を実現できる。
振動制御用磁性流体
車内空間での快適性向上につながる静粛性・静音性への要求から、振動や騒音などを解消するダンパー技術が求められている。
フェローテックでは、磁気応答性や印加磁場によるせん断力(粘性)変化、分散性(再分散性)、潤滑・摩耗特性などで優位性のある「MCF(Magnetic Compound Fluid:磁気混合流体)」を開発し、セミアクティブダンパーへの応用を提案している。
従来の磁性流体よりも大きい磁性粒子を主成分とすることで、印加磁場によって磁性粒子の配列を制御し、アクティブダンパーや様々な振動吸収に適用できる。市場にある類似の磁気粘性流体(MRF)はおしなべて粒子が均一に分散せず沈殿してしまうのに対し、新開発のMCFは分散性が良好で1ヵ月以上経過しても沈殿が少ないというデータを得ている。
自動車には足回りやエンジン回りの振動のほか、あらゆる振動系が組み込まれている。同社ではMCFの優れた分散性と耐摩耗性能でMRFなどとの差別化を図り、採用を促していく。
車載用ドリンクホルダー
ペルチェ素子(サーモモジュール)は、対象物を温めたり冷やしたりする半導体冷熱素子のことで、N型とP型という異なる性質を持った半導体素子を組み合わせたモジュールに、直流の電気を流すと熱が移動し、一方の面が吸熱(冷却)し、反対の面が放熱(加熱)するというペルチェ効果を応用したもの。電源の極性を逆にすると、吸熱と放熱を簡単に切り替えることができる。
フェローテックのペルチェ素子を用いた車載用ドリンクホルダーはすでに、海外の自動車OEMで採用実績がある。ドリンクを冷えたままに、あるいは温かいままに保つドリンクホルダーを車載する車両では、HVACユニット (Heating Ventilation Air Conditioning unit:暖房・換気・空調ユニット)が採用されるケースが多いが、エアコンの風を利用して冷却・加熱を行うこの方式では、冷却・加熱効率が悪く、また電力消費もばかにならない。
これに対しペルチェ素子は小型・軽量・省電力のシステムで、冷却・加熱機能を0.1℃単位で設定できる。この省電力で積極的に温度制御が可能なドリンクホルダーに対し、国内の自動車OEMも関心を示している。
バッテリー分野でのソリューション
バッテリーの温度コントロール
ペルチェ素子の吸熱面となるバッテリー表面の温度が水冷されている放熱側よりも高い場合には、温度差が-ΔTとなり、冷却効率(COP)が100を超える高効率クーリングシステムを構成できる。さらに、電気自動車(EV)では重量の増加も電力消費の増大、航続距離の低下につながることから、軽量の温調システムとしてもペルチェ素子が評価されている。
小型・軽量・省電力の特長を活かしたシステムとしては、48Vを使ったマイルドハイブリッドシステム向け小型バッテリーや超小型モビリティ向け小型バッテリーなどへの提案を強化している。
自動運転関連分野でのソリューション
CMOSイメージセンサ用クーラー
自動運転車では、全周囲の距離や画像認識を行い、死角を少なくして安全性を確保するために、1台当たり20個程度のカメラが搭載されると予測され、その機能を担うCMOSイメージセンサ(相補性金属酸化膜半導体を用いた固体撮像素子)の市場拡大が見込まれている。このセンサは熱に敏感で、熱によって引き起こされるダークショットノイズ(暗電流)は、発熱量とともに増大して画像の精細さを欠く結果となる。これに対して車載カメラのCMOSイメージセンサに冷却用ペルチェ素子を装着することで高精細な画像を得ることを可能にしている。2026年に商用車から始まると見られる完全自動運転導入を控えて、OEMでの具体的な検討が始まってきている。
自動車分野での新たな展開
フェローテックでは今回、アルミナセラミックス基板に銅製(Copper)の回路と放熱板を共晶反応で直接接合させた構造のDCB(Direct Copper Bonding)絶縁放熱基板に続き新開発した、窒化ケイ素や窒化アルミニウムを基板とした、より拡張性の高いAMB(Active Metal Brazing:活性ロウ付け法)方式の絶縁放熱基板を披露。新工場に量産設備を導入してサンプル出荷を開始していることをアナウンスした。中でも窒化ケイ素基板を用いたAMBは、高い信頼性に加え、車載のパワーデバイスとして用いられる炭化ケイ素(SiC)と熱膨張係数の点で相性が良いといったことから、特に需要の高まってきているハイブリッド車(HEV)/EV用モータの制御用インバータ向けでの引き合いが増えてきているという。
さらに、同社のペルチェ素子がソニーのインナーウェア装着型 冷温両対応ウェアラブルデバイス「REON POCKET」や富士通の「ウェアラブル冷却装置」に採用されている実績をもとに、二輪レースジャケットや工場での作業服での温度調整をイメージし開発したペルチェ素子利用のウェアラブルジャケット「ThermoArmour(仮称)」を参考出品した。本展での反響を見ながら、ウェアラブル分野における用途拡大も模索していく。
バッテリーの冷却による保護や走行距離延長、さらには完全自動運転で必至とされるCMOSセンサやLiDAR(光による検知と測距)システムなどの搭載時では、軽量・省スペースで高効率な温調システムであるペルチェ素子への需要がますます高まると見られ、車内空間でますます求められる快適性に対しては、優れた音響特性やダンピング特性を実現する磁性流体の様々な製品・技術が対応できると見られる。さらに電動化の進展に対しては、量産体制の整った絶縁放熱基板「AMB」も高温環境における高い信頼性などから注目が集まってきている。
フェローテックはペルチェ素子および磁性流体のNo.1サプライヤーとして、また高信頼性AMB基板のリーディングサプライヤーとして、自動車分野における各種の技術課題へのソリューションを引き続き示していく考えだ。
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