第1回ソフトロボット創世シンポジウムが開催
「第1回ソフトロボット創世シンポジウム」が3月20日、東京都千代田区のTKPガーデンシティPREMIUM神保町で開催された。同シンポジウムは、科研費新学術領域「ソフトロボット学」と山形大学OPERA「ソフトマターロボティクスコンソーシアム」の合同企画によるもの。
当日はまず、開会の挨拶に立った山形大学OPERA領域統括代理の高橋辰宏氏が「ソフトマターロボティクスコンソーシアムの活動とロボット学の活動とは、オーバーラップする部分としない部分があり、相補的な関係にあると思う。本日参加された各位のアイデア・ひらめきも反映しつつ新しい概念・新しい領域をつくっていければと思う」と述べた。
続いて、来賓挨拶に立った科学技術振興機構(JST)調査役の伊藤哲也氏が「ソフトマターロボティクスコンソーシアムのこれまでの研究成果を今後活動が本格化するソフトロボット学の先生方に活用いただくとともに、前者もまた後者の研究成果を活用するといった、双方の良い相乗効果に期待したい」と語った。
その後、以下のとおり講演がなされた。
・基調講演「ソフトロボット学がめざすもの」鈴森康一氏(東京工業大学)…生体システムのもつ「やわらかさ」に注目して生体システムの価値観に基づいた自律する人工物を創造する新学術領域「ソフトロボット学」の概要について説明。「いい加減」を許容・活用し、「好い加減(E-kagen)」に仕事を行えるE-kagen科学技術という新しい価値観を体現するソフトロボット学について、自身の研究事例をまじえて紹介。今後、学術展開としてはソフト人工物学会の創成やE-kagen科学技術の確立・発展などを目指し、社会展開としては赤子をやさしく抱擁するロボットといった介護・人間共存、さらには人にぶつかっても車のボディーが変形して人を包み込んで怪我させることがないといったソフト人工物の開発につなげたいとの構想を掲げた。
・研究発表①「やわらかいロボット」新山龍馬氏(東京大学)…やわらかさと硬さを持たせた筋骨格ロボットや昆虫規範ロボットといった研究から、生物に迫り生物を超える新学術領域「ロボット学」への取組み、高分子フィルムで創るパウチモータなど印刷できるロボットの研究などを紹介した。
・研究発表②「Physical reservoir computing for soft machines」中嶋浩平氏(東京大学)…制御系なしに複雑なダイナミクスを設計・操作できるReservoir Computingについて説明。非線形、メモリーが利点となるReservoir Computingのソフトロボティクスへの活用研究について紹介した。
・研究発表③「超柔軟素材を用いた分岐・伸展トーラス機構を基軸とするロボット駆動体の設計と具現化」多田隈建二郎氏(東北大学)…ロボットが3Dゲルプリンターにより形状記憶機能を持つ構造を自由に成形するコア技術に基づき、自由位置で自由な方向に分岐・分裂が可能な膨張式の枝分かれロボット機構を実装するための設計論・具現化手法の確立を目指す取組みを紹介した。
・研究発表④「ソフトマターロボティクスと社会実装」古川英光氏(山形大学)…ソフト機能材料・デバイス、ソフトセンシング、ソフトメカニクス、ソフト蓄電デバイスという基盤技術の構築によってロボット分野で人・モノ・情報・人工知能を優しくつなぐ新領域ソフトマターロボティクスの取組みについて紹介。ゲルという最先端材料を誰でも希望する形に短時間でつくれる3Dゲルプリンターを用いたクラゲロボットの開発など、自身の研究を紹介。今後の社会実装の例としては例えば、深海のクラゲをくわえ込んで捕らえる生物模倣ドローンの開発などを目指したいとした。
・研究発表⑤「ソフトセンシング技術とソフトロボティクスへの応用」時任静士氏(山形大学)…垂直圧力やせん断応力、温度などを検出できるマルチセンサを組み込んだPDMS製ソフトハンドを作製。把持力1Nでは検出されたスティックスリップによるすべりが、同3Nでは検出されなくなることなどを示した。そのほか、全方向インクジェット(OIJ)法を用いたソフトマター(PDMS)表面への歪みセンサ形成の話題などを紹介した。
その後、古川英光氏がモデレーターを務め、鈴森康一氏、新山龍馬氏、中嶋浩平氏、多田隈建二郎氏、時任静士氏、山口昌樹氏(山形大学)、重田雄基氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)をパネリストにパネルディスカッションが行われた。
パネルディスカッションの途中には、重田氏の「ソフトマターロボティクス関連市場」と題するショートプレゼンテーションがなされ、市場として物流用途が有望視されていること、人と融和するソフトマターロボティクスの市場も期待されていること、性能がアップデート可能なソフトマターロボティクスを考える際の、デジタル上で把握しうるソフトマターの耐久性など、ハードウェアとしてのビジネスモデルを念頭に置いて議論を進める必要があることなどが紹介。
やわらかいロボットの価値・差別化を一般の人にも示せるようなキーワードについて、議論がなされた。やわらかさゆえの当たっても痛くないといった「安全性」(ただし出力を上げると弾性エネルギーがある分かえって危険)、「人・生き物とのインターフェース」、接触してなじませることのできる「自由度の多さ」、「人に備わっていない機能を付加できる可能性」、外観・デザインの自由度の「やわらかい和ませるイメージを付与できる可能性」など、多様な意見が出された。
パネルディスカッションの総括として、ソフトロボット学を代表して鈴森氏が「ロボットはインテグレーションであり、特に新しい機能性材料を欲している。材料技術とともに、世界トップの研究を目指したい」と述べ、ソフトマターロボティクスコンソーシアムを代表して時任氏が「材料が表舞台に出る時代が来たらうれしい。日本の材料メーカーは新材料開発の点で優秀でフレキシビリティを有しているので、要求が提示されればそれに応える材料を作る能力は充分ある」と述べた。
また、閉会の挨拶に立った古川英光氏は、「ソフトマターロボティクスコンソーシアムはあと2年で終了するが、5年間活動を継続する新学術領域「ソフトロボット学」へとバトンタッチでき、ソフトロボットの材料を供給して使ってもらえる、いい流れができている。本シンポジウムが新しいソフトロボットによる創世につながることを期待したい」と語った。さらに、第2回ソフトロボット創世シンポジウムが9月12日(木)に山形大学工学部(山形県米沢市)で開催される予定であることがアナウンスされた