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早大・岩瀬准教授ら、亀裂を自己修復する金属配線 金属ナノ粒子の電界トラップ実現へ

デバイス応用のデモンストレーション。柔軟基板(ポリイミド基板)上にチップLEDが載ったデバイスを貼り、一定電圧3Vを印加、自己修復を実行した。デバイス応用のデモンストレーション。柔軟基板(ポリイミド基板)上にチップLEDが載ったデバイスを貼り、一定電圧3Vを印加、自己修復を実行した。 早稲田大学理工学術院の岩瀬英治 准教授(基幹理工学部機械科学・航空学科)、大学院基幹理工学研究科修士1年の古志知也氏は、金属ナノ粒子の電界トラップを用いることで、配線上に一度クラック(亀裂)が生じた場合でも電圧印加によりクラックを自己修復する金属配線を実現した。

 本研究の成果は、フレキシブルデバイスに用いる伸縮配線や、環境の温度変化により疲労を受ける電子基板上の金属配線などに自己修復機能を付与することが社会的に期待される。

 近年、フレキシブルデバイスが盛んに研究されており、伸縮配線はその基本要素として様々な研究がなされている。しかしながらそれらの研究は、導電性材料をゴムなどに混ぜたり、金属を湾曲させた形状として伸縮性を持たせたりするなど、材料や形状に着目したものがほとんどである。一般的に、導電性材料をゴムに混ぜたものは金属に比べると導電率が低く、また湾曲させた金属配線は繰り返し変形や過剰な変形によって断線するという問題点がある。また、実際に配線を使用する状況において、クラックの場所やクラックの大きさを知ることは困難であることがほとんどである。そのため、それらを知らずともクラックを修復することは非常に重要である。加えて、クラック部以外やクラックが修復した後にも修復が行われてしまうことは、過度の望ましくない修復であるため、避けるべきである。このように、クラックのあるなし、クラックの場所、大きさをヒトが知らずとも、自ら診断したように適切に修復する自己修復は非常に有益な機能である。

 今回の研究成果では、金属配線に 自己修復機能を付与することによって、高い導電率と高い伸縮耐性を兼ね備えた配線を実現しようと試みた。これは、伸縮配線を実現するために、従来の研究では材料や形状に着目したアプローチが試みられてきたのに対し、機能に着目した新たなアプローチであると言える。

 今回の研究では、修復するための電圧を100kHz、3.2V以下の交流電圧とした場合、幅が1.3μm(1μmは1mmの1000分の1)以下のクラックは自己修復できることを示した。 配線のインピーダンス(交流抵抗値)としては、クラックが生じているときには104Ωオーダであったのに対し、自己修復後はクラックのない金配線と同じ101Ωオーダとなった。また、電子顕微鏡(SEM)での観察により、電界トラップされた金ナノ粒子がクラック部を架橋していることを確認した。さらに、柔軟基板(シリコーンゴム基板)上での配線の自己修復も、ガラス基板上と同様に可能であることを確認した。

 研究成果は、高い導電率を有する金属配線に、高い伸縮耐性を持たせることができるという点で大きな利点を有する。例えば、フレキシブルデバイスに用いる湾曲した金属配線に自己修復機能を持たせるという利用が可能となる。 また、フレキシブルデバイスのみならず、通常の電子機器においてもこの自己修復機能は有用性が期待される。具体的には、外気温の変化および基板と配線の熱膨張率の差により、電子機器内の基板上の金属配線は伸縮変形をするため、長時間の使用において配線にクラックが生じるという問題がある。しかし本研究の自己修復機能はこれらの問題も解決することができるようになる。

 今後、さらに大きなクラック幅の修復の実現や、さらに高い自己修復機能を目指して改良を行っている。 また、現状の構成では液体の封止が必要となるが、液体の封止が構造上、製造上問題になることも考えられるため、金属ナノ粒子をゲル中に分散させた構成での自己修復機能の研究を試みている。

金配線上のクラックを金ナノ粒子(半径20 nm)により自己修復した様子金配線上のクラックを金ナノ粒子(半径20 nm)により自己修復した様子