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産総研など、粘土とポリイミドを原料とする耐熱フィルムを開発

開発した耐熱フィルム(右はロール品)開発した耐熱フィルム(右はロール品) 産業技術総合研究所(産総研、 http://www.aist.go.jp )は、住友精化、東京理科大学(東京理大)山下俊准教授と共同で、粘土とポリイミドを原料とする耐熱フィルムを開発した。

 産総研では従来から、粘土を主成分とする膜材料「クレースト」を研究しており、実用化に取り組んでいる。今回、粘土膜は用いる粘土やプラスチックの種類に特に制限はないため、多くの粘土とプラスチックを組み合わせて試作を行った。その結果、特殊加工した非膨潤性粘土とポリイミドを最適な配合比率で混合すると、脆さが改善された強い膜になるとともに、加熱処理の前後で大きさがほとんど変化せず、さらに水蒸気バリア性も格段に向上することが分かった。一般に粘土とプラスチックのナノコンポジット材料は、厚さ約1nmの板状粘土結晶が完全にばらばらな状態でプラスチックと混合していると良いとされ、粘土結晶とプラスチックの極性が近いことが求められる。今回用いた非膨潤性粘土は非極性の粘土であり、極性プラスチックであるポリイミドとの相性が好適とは考えられないが、混合方法の改良などによって、粘土の優れた特性とポリイミドの取り扱い性の良さを併せ持つ膜材料が実現できた。

 この膜材料は、ポリイミドを溶解させた溶剤に特殊加工した非膨潤粘土を分散させた原料ペーストを流延し、溶剤を乾燥させた後、加熱処理を行うことにより製造する。これまでは、均一な原料ペーストにするために必要な溶剤量が多く、乾燥工程に時間がかかり連続製造が難しかったが、特殊加工した非膨潤粘土を用いることで溶剤量を低減させることができた。さらに、350 ℃までの高温加熱炉を有する製造装置での試作を繰り返し、厚みは30から120マイクロメートル(µm)まで、幅は50cmまでの大きさのロール品の製造方法および製造条件を確立した。

 開発した膜材料(厚さ80µm)は、450 ℃の耐熱性を持ち、室温から350 ℃まで加熱した後の収縮率が0.04%と非常に小さいことが特徴である。これらの特性から、膜上に印刷法などで非常に微細な電子回路を作製することができる。また、約10ppm/℃の低い線膨張係数(温度の上昇に対する長さの変化の割合)、プラスチック材料の中で最高レベルの難燃性、ポリイミド並みの電気絶縁性、ポリイミドよりも優れた低吸湿性などの特性を持つ。この膜材料は、結晶シリコン太陽電池バックシートとして用いるのに十分なレベルの水蒸気バリア性を持つが、膜材料を作製する際、粘土の結晶を膜表面に対して平行に配列させることにも成功し、水蒸気バリア性をさらに向上させることができた

 今回開発した材料について、さらに広範な性能評価試験を行うとともに、長期耐久性の評価ならびに製品の大量生産体制を確立し、6か月以内の製品化を目標としている。また、住友精化よりテストサンプルの提供を開始し、膜材料の特性を生かした用途の探索を行っていく。具体的には、プリンタブルエレクトロニクス用基板材料、センサー用基板材料、蓄電池、パワーエレクトロニクス用材料などへの利用を検討中である。太陽電池バックシートへの応用に関しては、耐久性評価、耐候性評価を行う予定である。