京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻の小森雅晴准教授は、トラック・バスなどの燃費向上と変速時に生じる減速感の抑制を両立できる変速システムを開発した。
今回開発した技術は、減速比を滑らかに変化させることができる非円形歯車により、切り替えを行う2組の歯車対の中間的な状況を作り出し、変速中も駆動力を伝えることができるメカニズムを提案し、これに基づく変速システムの開発に成功した。トラックやバスなどで使用されている現在の歯車式変速機では、変速の際に約1~数秒の間、タイヤは駆動力を失ってしまう状態となるが、この変速システムでは駆動力が抜ける時間をゼロにすることができるという。さらに、変速の際にも非円形歯車が回転を伝達するので、正確な回転角度の伝達が可能。
現在の歯車式変速機では変速時にタイヤに駆動力が伝わらないため、その間に無駄にエネルギーが消費されるとともに、速度低下を引き起こす。そのため、運転者は変速後に余分にアクセルペダルを踏み込むこととなり、これが加速時の燃費を悪化させていた。しかし、この変速システムでは、変速時にも非円形歯車が駆動力を伝達しながら減速比を滑らかに変化させるため、エネルギーを有効に利用でき、高い加速性能も実現することができる。さらに変速時の “駆動力抜け”が無いことは、減速感を抑制できるため、運転者や乗客の疲労軽減、そして安全性や快適な運転の実現も期待できる。
現在の変速機では変速時に入力軸と出力軸が遮断された空転状態となるため、回転を正確に伝達することは不可能。しかし、この変速システムでは変速の際にも非円形歯車が回転を伝えるため、回転角度を正確に制御することが可能となる。このため、精密位置決め装置やロボットなど機械に正確な動作が要求される分野などで、この変速システムの応用が可能になる。
変速時に回転が遮断されない本変速システムであれば、これまで変速機を利用できなかった分野でも利用可能であり、これにより、駆動源の小型化や共通化、高い速度と大きな駆動力を実現することができる。例えば、高齢者向け移動装置などに応用すれば、坂道や段差を乗り越える際に、本変速システムによって駆動力を増加させることでスムーズに走行することが可能となるなどのメリットが考えられる。このように、新たなモビリティを実現するための駆動装置としての活用も期待される。
この研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の産業技術研究助成事業(若手グラント)における2009年度採択課題「トラック・バスの変速時の駆動力抜けによるエネルギー損失をゼロにし、変速中も加速可能な低燃費高加速型変速機の開発」の一環として得られたもの。