マグネシウム・カルシウム合金薄膜を用いた調光ミラー(透明状態) 産業技術総合研究所(以下産総研、 http://www.aist.go.jp )の山田保誠主任研究員らは、透明状態での無色性と高い可視光透過率を両立させた新しい調光ミラー用の薄膜材料を開発した。
調光ミラーを用いた複層窓ガラスは、通常の透明な複層窓ガラスと比べて30%以上の冷房負荷低減効果があり、その実用化が期待されている。しかし、産総研がこれまでに開発したマグネシウムと遷移金属との合金を用いた調光ミラー用薄膜材料は、透明状態では少し黄色を帯びていたり、無色であっても可視光透過率が低いなど、建物や自動車の窓ガラスとして実用化するには光学特性が不十分であった。
マグネシウム・カルシウム合金薄膜を用いた調光ミラー(鏡状態) 今回開発した調光ミラー用薄膜材料は、マグネシウム・カルシウム合金で、8cm×8cmのガラス上に均一に成膜することに成功した。調光ミラーは2重ガラス構造となっていて、鏡状態のガラスの内側空間に低濃度の水素(約4%)を含むガスを導入することで透明状態に変化する。また、酸素(約20%)を含むガスを導入することで鏡状態に戻すことができる。
本研究開発では、調光ミラー用薄膜材料として、マグネシウム・カルシウム合金が有力であることを見いだした。この合金を用いることで、マグネシウム・チタン合金薄膜材料と同じように無色であり、かつ、マグネシウム・ニッケル合金薄膜材料のような高い可視光透過率を実現できた。
また、マグネトロンスパッタ装置を用い、ガラス板上に金属マグネシウムと金属カルシウムを同時にスパッタして、厚さ約50nmのマグネシウム・カルシウム合金薄膜を蒸着させ、さらに真空中でごく薄く(約4nm)パラジウムをスパッタ・蒸着して作製した。
ガラス上の薄膜は、作製時は銀色の鏡状態であるが、酸素を含まず水素を含んだ雰囲気にさらすと透明になり、逆に水素を含まず酸素を含んだ雰囲気にさらすとまた鏡状態に戻るという変化を示した。このマグネシウム・カルシウム合金を用いた調光ミラー用薄膜材料の透明状態における光学特性は、可視光透過率が60%で、着色も認められなかった。従来の、少し黄色みが残るマグネシウム・ニッケル合金材料や可視光透過率の低いマグネシウム・チタン合金材料と比較して非常に良好な光学特性を持つことが確認された。
今後は、耐久性を向上させる技術や調光ミラーを用いた複層窓ガラスの省エネルギー効果の評価手法の開発を進め、オフィスビルの窓材などへの実用化を目指す。