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日本トライボロジー学会、2019年度学会賞を発表

 日本トライボロジー学会(JAST)はこのほど、「2019年度日本トライボロジー学会賞」の受賞者を発表した。ベアリング、潤滑管理関連では、以下などが受賞した。

技術賞

「建設機械用オイル状態監視システムの開発」秋田秀樹氏、倉迫 彬氏、櫻井茂行氏(日立建機)

 本研究は、油圧ショベルの実稼動下におけるセンサを用いたオイルの状態監視技術に関するものである。近年、建設機械業界ではICT(情報通信技術)を活用した機械稼動情報提供サービスを逐次開始している。情報提供サービスのーつで潤滑油の継続的な状態監視が行われているが、現在の潤滑油の状態監視は一定間隔でオイルを採取し分析を行うオフライン分析手法であるため、状況に応じた的確なサービスを提供できないことや、故障前駆現象に起因する突発的なオイル性状変化を捉えることが難しいのが実情である。この解決策としてセンサを用いたオンラインでのオイル性状の常時監視が求められている。

 そこで本研究はセンサによるオイルの状態監視、およびその運用に関する技術についての検討を行った。主な検討内容は、建設機械に対応可能なオンライン形式の性状監視センサの選定、そのセンサの最適な設置方法の検討、これまでオフラインで行っているオイル分析のオイルの汚染、劣化、オイル中の摩耗を示す指標との相関関係についての検証である。この結果を受けて、計測値の統計的処理をはじめ、IoT(モノのインターネット)を活用したセンサデータ収集ロジック、従来から行われているオイル分析手法を基とした状態判断基準の作成、これらを用いた自動オイル性状判断ロジック構築を行い、さらにWeb等デジタルデバイスを活用した顧客への情報通知システムを整備することでオイル状態監視の運用システムの構築、運用を行った。これにより潤滑油状態の“見える化”が可能となり、顧客や同社にとってスピーディな対応が可能となったのみでなく、顧客で使用している建設機械のダウンタイム低下、機体ダメージの低減、適切なサービスの提供などにより一連のエコシステムの構築ができた。

 今回のオイル状態監視システム(ConSite OIL)は建設機械業界としては初のシステムである。今後は同社内の機種展開を図るのみではなく、トライボロジー的観点から潤滑油の状態監視をキーとした機械の稼働状監視保全技術の最適化に寄与していく。 

建設機械用オイル状態監視システムの特徴(画像提供:日立建機)
建設機械用オイル状態監視システムの特徴(画像提供:日立建機)

 

奨励賞

「EHD接触における膜厚と破断率の同時測定-グリース潤滑の場合」前田成志氏(日本精工)

 本研究は、電気インピーダンス法を用いて、転がり軸受における接触域内の膜厚と破断率の同時測定を行い、油潤滑下とグリース潤滑下の比較から、低速度域におけるグリース潤滑のメカニズムを考察したものである。
近年、地球温暖化を背景として、軸受のさらなる低トルク化が求められており、潤滑剤の粘度を下げる、あるいは潤滑剤の封入量を減らすといった手段が講じられている しかし、それらの方法はEHD(elastohydrodynamic)接触域における油膜の破断を促し、軸受しゅう動面における様々な表面損傷の原因となる。そこで、研究グループでは、従来の電気インピーダンス法を改良し、EHD接触域における膜厚を光干渉法と同等な精度で測定でき、さらに、破断率も同時に測定できる手法を開発した。本手法は、実際の転がり軸受に適用可能であることから、軸受のさらなる低トルク化と長寿命化を両立する上で非常に重要な技術である。

 本研究では、アキシアル荷重を負荷した深溝玉軸受を用い、内輪の回転数を低速から高速へ変化させた際の軸受トルク、軸受外輪温度および電気インピーダンス法から得られるEHD接触域の平均膜厚と破断率を同時に測定した。潤滑剤には、ウレアを増ちょう剤としたグリースと、その基油(ポリアルファオレフィン油)を用いた。基油の試験から、軸受外輪温度が上昇しない低速度域において、膜厚がHAMROCK-DOWSONの式による理論値と一致し、破断率が上昇する低速度域において、同じタイミングで軸受トルクが上昇する結果を得た。一方、ウレアグリースの試験から、低速度域において、膜厚が理論値および基油の膜厚よりも厚くなり、破断率が上昇しないにも関わらず、軸受トルクが上昇する結果を得た。これらの結果から、基油を用いた場合、低速度域で油膜が破断し、金属接触が生じるため、軸受トルクが上昇したと推察される。一方、ウレアグリースを用いた場合、低速度域において      接触部における増ちょう剤濃度が上昇し、グリースの等価粘度が増加することで軸受トルクが上昇したと推察される。

 以上のように、本研究では開発した電気インピーダンス法を用いて、転がり軸受で広く用いられているグリース潤滑のメカニズムの一端を、実験結果に基づいて考察した。今後、本手法は様々な条件下において、転がり軸受の潤滑メカニズム解明に貢献し、低トルクかつ長寿命を両立する転がり軸受の実現に貢献することが期待されている。 

 

奨励賞

「転がり接触によるピーリングの発生メカニズムとピーリング抑制に及ぼす黒染処理の影響(第1報・第2報)」長谷川直哉氏(NTN)

 自動車や産業機械の摩擦低減の取組みの中で、潤滑油の低粘度化の動向がある。これに伴い、転がり軸受は希薄潤滑条件で使用される機会が増えるため、当該条件での転動疲労はく離のメカニズム解明とその対策技術の確立は機械部品の信頼性向上のための重要な技術課題と考えられる。
ピーリングは希薄潤滑条件で発生する転動疲労はく離の代表であり、大きさが10μm程度の微小はく離の集合体のことを指す。従来の研究から、ピーリングの原因は転動部で油膜切れが起こり、真実接触部の直下に過大な繰返し応力が作用することであると分かっているが、初期き裂の発生メカニズムについては不明な点があった。

 本研究の第1報では、ピーリングのき裂発生メカニズムを転動面の高倍率観察、表面形状と残留応力の測定、および表面粗さ解析の結果に基づいて多面的に考察した。その結果、ピーリングの初期き裂が転動面の塑性変形の繰返しによって形成された切欠き部から発生することを明らかにした。また、転動面に化成処理の一種である黒染処理を行うことでピーリングが抑制される効果についても検討し、黒染品では運転中の表面粗さの低下(なじみ)が促進されるため、相手面の塑性変形が軽減してピーリングが起こりにくくなることを明らかにした。さらに、このなじみの促進が黒染処理時に母材表面の凹凸が小さくなる現象と、転動中に凸部の黒染層が摩耗することの両方によってもたらされることも明らかにした。

 本研究の第2報では、第1報で得られたピーリングのき裂発生メカニズムと黒染処理によるピーリング抑制効果を、転動面の真実接触部直下に繰り返される応力(繰返し応力)の推定結果に基づいて定量的に検討した。繰返し応力の推定では、転動面に生成される3軸の残留応力の影響も考慮している。検討の結果、第1報で得られた結論は繰返し応力の観点からみても妥当性が高いと考えられた。

 上記の研究成果は、ピーリングの発生メカニズムに対する理解を深める新しい知見であるだけでなく、ピーリング対策の指針となる実用的にも有用な知見と考えられる。