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フェローテック、ペルチェ素子・磁性流体の技術で、自動車の内装、バッテリー、自動運転への対応を促進

オートモーティブプロジェクト

 フェローテックは2018年1月に「オートモーティブプロジェクト」を立ち上げた。それから3年目を迎えるが、この間、自動車用温度調節シート向けで多くの採用実績を持つ「サーモモジュール(ペルチェ素子)」、さらには創業の技術であり車載スピーカーで実績のある「磁性流体」を中心に自動車市場の攻略を進め、徐々に具体的な適用案件が増えてきている。

 ここでは、本年1月15日~17日に東京都江東区の東京ビッグサイトで開催される「オートモーティブワールド2020 第11回EV・HEV駆動システム技術展」で出展予定の電子デバイス製品の技術について、自動車分野で検討が進んでいるシステム分野別に、同社の現状の取組みをまじえて、同社サーマルマテリアル部 部長の八田貴幸氏とマグネティックマテリアル部 部長の廣田泰丈氏、サーマルマテリアル部 オートモーティブ営業課 課長の二ノ瀬 悟氏 に話を聞いた。

 

左から八田 氏、二ノ瀬 氏、廣田 氏
左から八田 氏、二ノ瀬 氏、廣田 氏

 

フェローテックのコア技術

ペルチェ素子

 ペルチェ素子(サーモモジュール)は、対象物を温めたり冷やしたりする半導体冷熱素子のことで、N型とP型という異なる性質を持った半導体素子を組み合わせたモジュールに、直流の電気を流すと熱が移動し、一方の面が吸熱(冷却)し、反対の面が放熱(加熱)するというペルチェ効果を応用したもの。電源の極性を逆にすると、吸熱と放熱を簡単に切り替えることができる。

 ペルチェ素子のこうした特性を活かし自動車分野でフェローテックは、温調シートで多数の実績を持つ。

 

 

磁性流体

 磁性流体は、流体でありながら外部磁場によって磁性を帯び、磁石に吸い寄せられる機能性材料で、磁性微粒子、界面活性剤、キャリアとなるベース液(潤滑油)からなる。直径約10nmの極小の酸化鉄粒子が、凝集を防ぐ界面活性剤で被膜され、安定的に分散したコロイド状の液体となっている。

 自動車分野ではすでに、磁性流体の放熱効果やダンピング効果などによる高音質化や小型化などからスピーカーに採用されている。

 

 

絶縁放熱基板

 絶縁放熱基板は、セラミックス基板に銅回路板を接合したもので、放熱性・絶縁性・耐久性が高いアルミナセラミックス基板に銅製(Copper)の回路と放熱板を共晶反応で直接接合させた構造のDCB(Direct Copper Bonding)基板を自社開発している。自動車のエンジンやモータ、パワーステアリング、ヘッドランプなどの制御装置の基板として採用されている。

 新たに窒化ケイ素や窒化アルミニウムを基板とした、より拡張性の高いAMB(Active Metal Brazing:活性ロウ付け法)方式の技術を開発。新工場に量産設備を導入してサンプル出荷を開始している。特に窒化ケイ素基板を用いたAMBは、高い信頼性に加えて、車載のパワーデバイスとして用いられる炭化ケイ素(SiC)と熱膨張係数の点で相性が良いといったことから、車載向けでの引き合いが増えてきている。自動車メーカーからは、-55~300℃といった温度変化を1000~2000サイクル実施しても、銅パターンのはく離やセラミックス基板のクラックが発生しないといった、強度の向上や寿命の延長を要求されており、設備や工程の改善、技術の確立を急いでいる状況だ。

 

絶縁放熱基板
絶縁放熱基板

 

システム分野別のソリューション

 本年1月15日~17日に開催される「オートモーティブワールド2020 第11回EV・HEV駆動システム技術展」では、自動車分野で検討が進んでいる内装分野、バッテリー分野、自動運転関連分野というシステム分野別に分けて、フェローテックのコア技術であるペルチェ素子および磁性流体、さらには絶縁放熱基板の適用について紹介、提案する。

 

内装分野

 自動運転時には、車内空間で乗員が快適に過ごせるように車内環境を快適にコントロールする必要がある。たとえば、より静粛性・静音性を保とうとすれば振動・騒音などを解消するダンパー技術が要求され磁性流体の出番となり、シートや飲料のカップホルダーの温度を心地よく調整しようとすればペルチェ素子の技術が有効となる。

 

振動制御用磁性流体

 フェローテックでは、磁気応答性や印加磁場によるせん断力(粘性)変化、分散性(再分散性)、潤滑・摩耗特性などで優位性のある「MCF(Magnetic Compound Fluid:磁気混合流体)」を開発し、セミアクティブダンパーへの応用を提案している。新開発のMCFは、従来の磁性流体よりも大きい磁性粒子を主成分とすることで、印加磁場によって磁性粒子の配列を制御し、アクティブダンパーや様々な振動吸収に適用できる。市場にある類似の磁気粘性流体はおしなべて粒子が均一に分散せず沈殿してしまう。これに対し、同社の新MCFは分散性が良好で1ヵ月以上経過しても沈殿が少ない。

 現在は一般自動車向けに先行して、特殊なダンパーや産業機器向けで検討が進んでいる。同社のMCFの配合を最適化し様々な要求に応じた具体的な提案ができる段階となっており、フィールドで実績を重ね、一般自動車分野での案件にフィードバックして適用を拡大していきたい。 自動車には足回りやエンジン回りの振動のほか、あらゆる振動系が組み込まれている。同社ではMCFの優れた分散性と耐摩耗性能で差別化を図り、採用を促していく考えだ。

 

MCFの優位性の例:良好な分散性
MCFの優位性の例:良好な分散性

 

スピーカー用磁性流体

 フェローテックの磁性流体は車載用スピーカー向けでシェアが圧倒的に高い。これはトータルの特性・性能のバランスが車載要求仕様をしっかりと満たすことができる技術の賜物であり、特に耐熱性に優れていることも採用を後押ししていると思われる。

 自動運転の普及に伴い、快適な車内環境への要求からスピーカーでもさらなる高音質化が求められる。一方で、限られた車内空間からスピーカーに許されるスペースはますます制約される環境下で、200℃に達すると言われるスピーカーの駆動発熱部の放熱が必要となるが、当社の磁性流体は他社製に比べて非常に高い耐熱性を有するため、長期間にわたり安定に放熱の役割を果たし、高い音質を実現できる。

 

ハプティックデバイス

 磁性流体の粘性ダンピング制御を必要とするリニア振動・触覚(ハプティック)デバイスが普及してきている。タッチスクリーンパネルなど、触覚によって人が情報を積極的に取り入れるデバイスは 今後大きく伸びていく分野である。  現時点ではスマートフォン向けを中心に適用されてきているとのことだが、車載のタッチスクリーンや操作パネル用に適用は拡大していくと思われる。

 

ハプティックデバイス
ハプティックデバイス

 

車載用カップホルダー

 フェローテックのペルチェ素子を用いた車載用カップホルダーはすでに、海外の自動車OEMで採用実績がある。 ドリンクを冷えたままに、あるいは温かいままに保つカップホルダーを車載する車両では、HVACユニット (Heating Ventilation Air Conditioning unit:暖房・換気・空調ユニット)が採用されるケースが多いが、エアコンの風を利用して冷却・加熱を行うこの方式では、冷却・加熱効率が悪く、また電力消費もばかにならない。これに対しペルチェ素子は小型・軽量・省電力のシステムで、冷却・加熱機能を0.1℃単位で設定できる。

 このペルチェ素子を利用した省電力で積極的に温度制御が可能なカップホルダーに対し、国内の自動車OEMも関心を示しており、自動車OEMでの評価が始まっている。

 

ペルチェ式カップホルダー
ペルチェ式カップホルダー

 

バッテリー分野

バッテリーの温度コントロール

 特にペルチェ素子の吸熱面となるバッテリー表面の温度が80℃で、放熱側が水冷で60℃といった場合には温度差が-ΔTとなり冷却効率(COP)が100を超える高効率クーリングシステムを構成できる。さらに、EVでは重量の増加も電力消費の増大、航続距離の低下につながることから、軽量の温調システムとしてもペルチェ素子が評価されている。

 

バッテリーおよびキャビンの温度コントロールのモックアップ
バッテリーおよびキャビンの温度コントロールのモックアップ

 

感温性磁性流体を用いた熱輸送システム

 バッテリーなど発熱を伴う機器の冷却において、ループ循環系の熱輸送システムを構築するには一般的に流体を循環させるためのポンプなど機械的駆動力が必要となり、バッテリーを消費させることにつながる。 これに対しフェローテックでは、温度に反応して磁化が大きく変化する「感温性磁性流体」を用いた熱輸送システムを提案している。

 感温性磁性流体を用いた熱輸送システムでは、流路の高温側と低温側の間に磁石を設置。熱源により加熱された磁性流体は温度上昇に伴って磁化が減少し磁石にあまり反応しないが、低温側の磁性流体は磁化の大きさが変わらず、磁石に強く引き寄せられる。これによって低温側から高温側へと、感温度磁性流体の流れ(駆動力)が発生し熱を輸送できる。すなわち機械的な動力なしに流体の自己循環が可能となる。

 すでに各業界で適用に向けた基礎研究が始まってきており、同社では実用化に必要な感温性磁性流体を鋭意開発中である。

 

感温性磁性流体を用いた熱輸送システムのデモ機
感温性磁性流体を用いた熱輸送システムのデモ機

 

自動運転関連分野

CMOSイメージセンサ用クーラー

 自動運転車では、全周囲の距離や画像認識を行い、死角を少なくして安全性を確保するために、1台当たり20個程度のカメラが搭載されると予測され、その機能を担うCMOSイメージセンサ (相補性金属酸化膜半導体を用いた固体撮像素子)の市場拡大が見込まれている。このセンサは熱に敏感で、熱によって引き起こされるダークショットノイズ(暗電流)は、発熱量とともに増大して画像の精細さを欠く結果となる。これに対して車載カメラのCMOSイメージセンサに冷却用ペルチェ素子を装着することで高精細な画像を得ることを可能にしている。OEMでの具体的な検討が始まってきている。

CMOSイメージセンサ用クーラー
CMOSイメージセンサ用クーラー

 

今後の展開

 上述したとおり、バッテリーの冷却による保護や走行距離延長、さらには2026年に商用車から始まるとみられる完全自動運転で必至とされるCMOSセンサやLiDARシステムなどの搭載時では、軽量・省スペースで高効率な温調システムであるペルチェ素子への需要がますます高まると見られる。車内空間でますます求められる快適性に対しては、優れた音響特性やダンピング特性を実現する磁性流体の様々な製品・技術が対応できるだろう。 自動車分野における各種の技術課題や量産キャパシティー、コストなどに対して、フェローテックはペルチェ素子および磁性流体のNo.1サプライヤーとして、引き続き応えていく考えだ。 本年1月15日~17日に開催される「オートモーティブワールド 2020 第11回EV・HEV駆動システム技術展」のフェローテック ブース(青海展示棟A4-54)では、上述のような最新技術を紹介するほか、ペルチェ素子、磁性流体、絶縁放熱基板とテーマを変えて技術セミナーを実施する(下表参照)。

 ぜひ会場に足を運んで、自動車の諸課題に対応する最新ソリューションに触れていただきたい。

 

製品プレゼンテーションプログラム
製品プレゼンテーションプログラム

 

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