フェローテック、オートモーティブワールドでペルチェ素子と磁性流体の新技術を提案
フェローテックホールディングス( http://www.ferrotec.co.jp/ )傘下のフェローテック( http://www.ferrotec.jp/ )は1月16日~18日に東京都江東区の東京ビッグサイトで開催された「第11回オートモーティブワールド」に出展、自動車向けのペルチェ素子(サーモモジュール)および磁性流体の新技術について、動態展示を含めて紹介、ペルチェ素子と磁性流体の適用による各種のメリットを提案した。
自動車分野でのペルチェ素子の適用とメリット
ペルチェ素子(サーモモジュール)は、対象物を温めたり冷やしたりする半導体冷熱素子のことで、N型とP型という異なる性質を持った半導体素子を組み合わせたモジュールに、直流の電気を流すと熱が移動し、一方の面が吸熱(冷却)し、反対の面が放熱(加熱)するというペルチェ効果を応用したもの。電源の極性を逆にすると、吸熱と放熱を簡単に切り替えることができる。
ペルチェ素子のこうした特性を活かし自動車分野では温調シートで多数の実績を持つが、今回の展示会では温調シート以外の適用を拡大すべく、電気自動車(EV)など電動化対応へのソリューションを中心に、各種適用の提案と適用によるメリットを打ち出した。
キャビンのヒーター
これまでの抵抗式ヒーターはジュール効果によって発生する熱エネルギー(ジュール熱)を利用したもので、発熱効率(COP)が80~90%程度にとどまっている。
これに対しペルチェ素子ヒートポンプによる熱移動を利用したヒーターでは、放熱される熱量がジュール熱と、大気の熱量(環境温度が0℃以下の場合でも大気から熱を吸収)との総和となるため、COP100%超を実現できる。つまり、抵抗式ヒーターに比べて小さな電気で大きな加熱ができ、EV用バッテリーの電力消費を大きく削減でき、EVの航続距離延長に寄与することが可能となる。
今回展示した、ペルチェ素子を用いた自動車車室内の暖房(キャビンヒーター)のモックアップ品では、青色の管を通過する冬場の冷たい外気(吸収熱量)が心臓部のペルチェモジュールによって加熱。加熱された空気が赤色の管を通って運転者のいる車室に送られる様子を示した。キャビンに手を入れてみると、確かに暖かい。
加熱した空気でキャビンを温めつつ、冷却した空気は冷たい飲み物の温度を最適に保つ温調カップホルダーに利用するといった複合的な温調システムを構築できるという。
バッテリーヒーター
同じメカニズムで、ペルチェ素子には、バッテリーを冷やす機能/温める機能が期待されている。
EVのバッテリーとなるリチウムイオン電池は温度にセンシティブで、高温の場合、常温に比べ内部抵抗が上がり劣化が促進しやすく、低温の場合パフォーマンスが低下して航続距離に影響を及ぼす。ラジエータを用いた水冷などの自然冷却では細やかな温度制御ができず、微妙な温度制御が可能でバッテリーを最適な温度に保つことが可能なペルチェ素子が有効と見られる。
EVでは重量の増加も電力消費の増大、航続距離の低下につながることから、展示会では軽量の温調システムとしてのペルチェ素子のメリットがアピールされた。
ADAS向けCMOSイメージセンサ用クーラー
先進運転支援システム(ADAS)では、全周囲の距離や画像認識を行い、死角を少なくして安全性を確保するために、1台当たり20個程度のカメラが搭載されると予測され、その機能を担うCMOSイメージセンサ (相補性金属酸化膜半導体を用いた固体撮像素子)の市場拡大が見込まれている。
このセンサは熱に敏感で、熱によって引き起こされるダークショットノイズ(暗電流)は、発熱量とともに増大して画像の精細さを欠く結果となる。これに対して展示会では、CMOSイメージセンサに冷却用ペルチェ素子を装着し、実際にカメラで撮像できる状態に組み上げて展示、高精細な画像を得るのに寄与できる冷却用ペルチェ素子のメリットを提示した。
ADASカメラ用GPU用クーラー
GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)は画像処理用に特化して開発され、CPUよりも効率的な画像処理が可能な半導体チップだが、ADASでは情報処理量が膨大で発熱が大きくなり、熱によって処理周波数の低下もしくは処理の停止等の処置を講じる必要がある。
このことから展示会では、ADASで安全性を担保するカメラの撮像の高応答・高速処理を行う上で、ペルチェ素子を用いてGPU冷却アッセンブリーを構築することで、GPUの高応答・高速処理実現に寄与できることを提案した。
自動車での磁性流体の適用とメリット
磁性流体は、流体でありながら外部磁場によって磁性を帯び、磁石に吸い寄せられる機能性材料で、磁性微粒子、界面活性剤、キャリアとなるベース液(潤滑油)からなる。直径約10nmの極小の酸化鉄粒子が、凝集を防ぐ界面活性剤で被膜され、安定的に分散したコロイド状の液体となっている。
自動車分野ではすでに磁性流体の放熱効果やダンピング効果などによる高音質化や小型化などからスピーカーに採用されているが、今回の展示会では、ドライビングフィール向上や電動車両に対応した省電力化や給電などでの適用を提案、適用によるメリットを示した。
熱輸送システム
EVではバッテリーなど発熱を伴う機器の冷却が重要だが、ループ循環系の熱輸送システムを構築するには一般的に流体を循環させるためのポンプなど機械的駆動力が必要となり、バッテリーを消費させることになる。
これに対し展示会では、温度に反応して磁化が大きく変化する「感温性磁性流体」を用いたループ状の流路を持つ熱輸送システムのデモ機を展示した。
感温性磁性流体を用いた熱輸送システムのデモ機では、流路の高温側と低温側の間に磁石を設置。ペルチェ素子で加熱された磁性流体は温度上昇に伴い磁化の大きさが減少し磁石にあまり反応しないが、低温側の磁性流体では磁化の大きさが上昇し、磁石に強く引き寄せられる。これによって低温側から高温側へと、感温度磁性流体の流れ(駆動力)が発生し、この流れにより熱を輸送できる。機械的な動力なしに流体の自己循環が可能となる。実験では、全長6mの長い流路を電力なしで自己循環できるという。
高圧バッテリーに蓄えた直流電力を交流に変換し走行用モータを駆動するための動力変換装置IGBTなど放熱が必要なアプリケーションで、電力を用いないポンプレスの未来の車載用熱輸送手段として有用なことをアピールした。
振動制御用磁性流体
アクティブに振動を抑制する「アクティブダンパー」への適用では磁気粘性流体(MRF)の採用が先行しているが、これに対しフェローテックが開発した、磁気応答性や印加磁場によるせん断力(粘性)変化、分散性、潤滑・摩耗特性などで優位性のある「MCF(Magnetic Compound Fluid:磁気混合流体)」を封入したアクティブダンパーを紹介した。
新開発のMCFは、磁性流体よりも大きい磁性粒子を主成分とすることで、印加磁場によって磁性粒子の配列を制御し、アクティブダンパーや様々な振動吸収に適用できる。市場にあるMRFはおしなべて粒子が均一に分散せず沈殿してしまう。これに対し、MCFは分散性が良好で1ヵ月以上経過しても沈殿することがない。
また、粒子が粗いMRFは研磨材のようにダンパーのピストンを攻撃し摩耗させる。これに対しMCFは潤滑性の良好な粒子を、さらに界面活性剤の一種でコーティングしてあるためピストンを攻撃せず、摩耗量が少ない。ダンパーメーカーでは性能の長期保証を重視していることから、ピストンが削れることのないMCFに注目しているという。フェローテックではMCFの優れた分散性と耐摩耗性能で差別化を図り、採用を促していく。
磁性流体コンポジット材料
直径約10nmの磁性流体をベースとして、高い周波数領域でも磁気応答性が優れ磁気ヒステリシスが極めてゼロに近い磁性コア材料「Hzero®コンポジット」は、磁気ヒステリシスがない磁性樹脂(接着剤・シーラント)として、磁場による誘導によって、クラックの検出や補修、漏洩磁束の抑制などで、エネルギー効率を改善できる。Hzero®コンポジットによる漏洩磁束の改善により、省エネ、バッテリー寿命延長に貢献できる。
将来的にはEVの非接触充電のための材料としても期待されているという。フェローテック FF営業部 部長の廣田泰丈氏は、「シート状の磁性材料は、使用している粒子が大きかったり、複合材料内部に空隙が存在することで、磁束の分布が不安定になり、電磁誘導での給電の効率を伸ばせない要因となっている。直径10nmの磁性流体コンポジット材料を用いることで、すき間を埋めて磁気特性を向上、充電効率を向上できると考えている」と強調する。
同社 オートモーティブプロジェクト 課長の二ノ瀬 悟氏は、「このメカニズムを応用して、ボリュームゾーンの改良製品だけでなく、高効率のパワーインダクタ製品のさらなる改良など、ハイエンドの用途にも展開できると考えている」と述べた。
磁性流体シール
フェローテックは、HDDの防塵シール、半導体製造装置での真空シールで実績があるが、今回、同社の磁性流体技術を活用している釣具リールメーカーとの協力により、防水目的の磁性流体シールを参考出品した。接触式ゴムパッキンを用いた回転シリンダーとの比較では、回転に伴ってゴムパッキンからは水漏れが確認されるのに対して、磁性流体シールを用いた回転シリンダーでは磁性流体により非接触で水を完全に密封、同時にシャフトとの固体接触がないため低トルクを実現する。現在、ハブベアリングの密封機構として採用されている接触式オイルシールなどに対し、より低トルクで高密封を実現できることをアピールしていく。
今後の展開
フェローテックでは、コンプレッサーなどの外部装置を必要とせず、小型・軽量、低消費電力、低コストで、フロンを必要とせず環境負荷のない温度制御が実現できるといったペルチェ素子の長所をアピールしながら、自動運転を見据えた自動車分野での適用の提案を進めていく。
磁性流体は、機械的駆動力を必要としない軽量・コンパクトな熱輸送システムや、長期安定性に優れた材料でアクティブな振動制御を可能にするMCF、非接触充電を含む漏洩磁束改善によるエネルギー効率を改善できることなど、新たな材料技術をアピールし、採用を促していく。
さらに、ここで紹介したペルチェ素子や磁性流体のほか、DCB基板(セラミックス基板に銅板を直接接合した絶縁放熱製品)など、同社独自技術を組み合わせたアプリケーションの拡大によって、自動車分野向けのビジネスを強化していく考えだ。
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