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第30回散乱研究会が開催

 散乱研究会(事務局:大塚電子)は11月22日、東京都台東区のHULIC HALLで、「第30回散乱研究会」を開催した。

第30回散乱研究会のもよう第30回散乱研究会のもよう
 
 光散乱法は1944年のデバイの論文を契機に高分子やコロイドの研究に応用され始め、その後1940年代後半にジムらが高分子溶液の光散乱測定を始め、高分子溶液物性の主力研究の手段となり、日本でも1960年頃から光散乱測定装置の開発が始まった。ところが、光散乱法を利用するには散乱理論の知識が不可欠で、またその測定も容易でなかったため、装置の普及はそれを専門とする大学や一部の企業の研究室に限られていた。そうした状況下で、この光散乱法を一人でも多くの人に知ってもらおうと、加藤忠哉氏(当時、三重大学教授)を中心とした世話人の熱意と、我が国の光散乱測定装置メーカーの草分けである大塚電子の支援により「散乱研究会」が1989年に発足、第1回研究会が東京で開催された。30回目となる今回の研究会は、柴山充弘氏(東京大学)と佐藤尚弘氏(大阪大学)、木村康之氏(九州大学)、岩井俊昭氏(東京農工大学)を世話人として、大塚電子の光散乱製品の紹介・展示会を含めて、以下のとおり開催された。

・光散乱基礎講座「動的光散乱法」柴山充弘氏(東京大学)…数nm~数μmに及ぶ広い範囲の大きさの粒子の運動や、媒体の密度(濃度)の揺らぎなどを非接触で、かつ高感度、高精度で調べることができる「動的光散乱法」について説明。基礎編では、時間相関関数の概念や希薄粒子系の動的光散乱、ホモダイン法とヘテロダイン法、実験と解析法などについて概説。応用編では、二様分布系の解析における注意点、ゲルの動的光散乱、プローブ動的光散乱法、そして新しい手法の一つである顕微動的光散乱法を紹介した。装置の性能の進化によって誰でも簡単に動的光散乱実験を行え、解析も容易になった。その一方で、動的光散乱実験のブラックボックス化にもつながった結果、実験結果の誤った解釈が散見されることから、今一度、動的光散乱法の基礎を学び、原理・理論を理解した上で動的光散乱実験を行ってほしい、と呼びかけた。

柴山氏柴山氏

・「超音波散乱法による微粒子分散系の構造とダイナミクス」則末智久氏(京都工芸繊維大学)…DLS法で知られる相関関数法に加え、超音波独自の位相法を開発、その運動状態を様々な観点で調べることが可能になった。特にFD-DSS法は、波長分布の問題を克服するほか、沈降や拡散のような物理的起源の異なる運動モードを識別して解析できる。電気泳動超音波散乱法は泳動速度・ゼータ電位測定法で、超音波ならではの、その場解析、濃厚系への適用が期待される。超音波を用いて粒子の運動状態や粒子径分布だけでなく、粒子の表面特性や、個々の粒子の弾性率を評価できるシステムを構築したことなどを紹介した。

・「コロイド粒子の電気泳動と凝集速度を考える」小林幹佳氏(筑波大学)…コロイド粒子は電場下で電気泳動する。電気泳動の測定からゼータ電位が得られる。ゼータ電位はコロイド分散系の安定性の指標とされている。これらのことについて実験結果の定量的な解析に基づいて議論した。

・「深海極限環境にヒントを得たボトムアップのナノ乳化プロセス」出口 茂氏(海洋研究開発機構 海洋生命理工学研究開発センター)…深海底から湧き出す温泉(深海熱水噴出孔と呼ばれる)に見られる超高温・高圧の極限環境では、油と自由に相溶するなど水の性質ですら大きく変化する。講演では、熱水噴出孔を模擬した環境を実験室内に再現した装置を利用した、従来法とは全く異なる原理に基づくナノエマルションの生成プロセスを概説した。

・「酸化還元高分子によるナノメディシンの設計」長崎幸夫氏(筑波大学)…活性酸素種は細胞内電子伝達系などのエネルギー産生に関与する重要なガス状分子であるものの、一方で多くの疾病に関与する、いわゆる「諸刃の剣」となる。我々が設計してきた抗酸化ナノメディシンは安全に(つまり正常な活性酸素種を破壊することなく)、疾病に関与する活性酸素種を選択的に消去するため、様々な活性酸素障害に適応が期待できる。これらの材料設計と機能に関して概説した。