フェローテック、真空シールの適用分野を拡大
フェローテックホールディングス( http://www.ferrotec.co.jp/ )傘下のフェローテック( http://www.ferrotec.jp/ )は磁性流体とその応用製品の真空シールを日本市場に広げることを目的に、1980年9月に米国フェローフルイディクス社の子会社として設立された。その後、1987年には米国親会社から独立、生産拠点を中国に設置するとともに、米国の元親会社の買収を含むM&A戦略を進め、サーモモジュール、石英製品、セラミックス、シリコンパーツといったマテリアル製品を中心に事業を広げている。
一方、1980年代から販売を手掛けてきたシリコン単結晶引き上げ装置の技術をベースに、2002年からは6インチ以下の半導体用シリコンウェハーを、2017年からは8インチウェハーを単結晶インゴットから一貫生産している。
さらに、真空シールで培ったステンレスなど精密金属加工技術やシリコン結晶引き上げ装置で培った装置生産技術をベースに、中国の杭州工場・上海工場で成膜装置・チャンバーなどの加工・組立・検査といった受託製造事業を展開しているほか、中国の五つの工場で高純度の半導体やプロセスパーツなどの受託洗浄事業を手掛けている。
このように、インゴット引き上げ装置で世界に先駆けて採用された真空シールを皮切りに、半導体製造工程に不可欠な部材から加工までの幅広いサービスを提供することで、長年にわたり半導体製造プロセスを支えてきている。
ここでは、フェローテック 真空機器営業部 部長代理 折原大輔氏に、真空シール事業に関する半導体製造プロセスでの最近の状況との他分野での新しい事業展開について話を聞いた。
磁性流体と真空シールの技術
磁性流体
磁性流体は、流体でありながら外部磁場によって磁性を帯び、磁石に吸い寄せられる機能性材料。基本成分は、磁性微粒子、界面活性剤、キャリアとなるベース液(ベースオイル)で、直径約10nmの極小の酸化鉄粒子が、凝集を防ぐ界面活性剤で被膜され、安定的に分散したコロイド状の液体となっている。
真空シール
磁性流体の磁界への反応を効果的に利用した真空シール「フェローシール」は、シャフトとポールピースの形成する隙間に磁界をかけ、このギャップに磁性流体を導くことにより、磁性流体は液体Oリング形状となり、ギャップを完全に充たし回転軸の密封を完全にする。
真空シールは、液体によりシールされており、固体同士の接触がないため、次のような特徴を持つ(参考までに、真空シールと各種接触式シールとの特性比較を以下の表に示す)。
①クリーン:シール材に液体を使用するため、回転軸とポールピースとの間に固体同士の接触がなく、摩擦によるパーティクルが発生しない。このため、シールされた雰囲気からの漏れは、ヘリウムリークディテクタの最高感度10-12Pa・m3,/sec以下でテストしても検出されない。
②真空:低蒸気圧の磁性流体を使うことにより10-6Pa以下の超高真空領域でも使用可能。
③寿命:回転軸とポールピースとの間に固体接触がないため摩擦による損耗がなく、省メンテナンスで長寿命なシールを実現。これにより10年以上もの間、メンテナンスフリーで運転中の機器も数多い。
④回転:液体でシールするため、損失トルクが少なく、高速回転にも対応できる。
半導体製造プロセスにおける真空シールの適用
半導体ウェハーやフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造工程では、超精密な成膜加工を実現するため、密閉された真空空間で加工が行われている。空気、ガス、蒸気、微細粒子などの不純物が紛れ込むことは、回路パターンの品質を落とすことにもつながりかねないためで、真空シールは加工が行われる密閉空間を外部から隔離するとともに、密閉空間の作業に必要な回転運動を伝える役割も担っている。
半導体製造プロセスにおいて真空シールは、真空と大気との隔壁、あるいはクリーン環境と大気との隔壁を作らなくてはならない、前工程のほぼあらゆるプロセスで採用されている。
①単結晶インゴット引き上げ
当社の製品ラインナップにもある単結晶インゴット引き上げ装置は、高温・低圧の真空炉内の石英るつぼでシリコン原料を溶解後、単結晶の核となる種結晶をシリコン融液に浸漬し、その種結晶を回転させながら引き上げることで単結晶インゴットを製造するが、炉内の真空状態を維持しながら回転運動を伝える真空シールが用いられている。
②酸化・拡散
ウェハーを高温の酸化・拡散炉(900℃~1100℃)の中で酸化性雰囲気にさらし、表面に酸化膜を成長させるが、多数のウェハーを積載したボート(冶具)等を回転させたりする機構で真空シールが用いられている。
③フォトレジスト塗布
フォトレジスト(感光液)をウェハー表面に塗布するスピンコーターでは、ウェハーを回転させ、遠心力で均一なレジスト膜を形成するが、大気との隔壁を作りクリーン空間を保持するために真空シールが採用されている。
④パターン露光
パターン露光システムでは、真空中でレーザー源のガス攪拌用として真空シールが用いられている。
⑤イオン注入・CVD
イオン注入では、必要とされるイオンを均一にウェハーに注入し、特にCVDプロセスでは膜を均一にウェハーに成膜するために、プロセスチャンバー内でウェハーを回転させる機構に真空シールが採用されている。
⑥平坦化
平坦化CMP(化学機械研磨)装置では、ウェハーを回転させながら研磨するヘッドの軸の部分に、クリーン環境を保持する真空シールが用いられている。
⑦ウェハー検査
インプロセスでウェハーの検査を行う検査装置への受け渡しのロボットや、検査装置内で検査視野内にウェハーを移動させるテーブル部分などに、真空シールが用いられている。
⑧搬送ロボット
そのほか、上記各プロセスの装置内・装置(プロセス)間でウェハーの受け渡しを行う真空搬送ロボットの回転部分、関節部分で、真空シールが活躍している。
半導体製造プロセスにおける真空シールへの近年の動向とニーズ
半導体製造装置の需要と真空シールの動向
近年、従来からのPCやスマホ向けに加えてデータセンター、5G通信、自動運転向けなどで長期的に投資が進む半導体製造装置の中でも、特に3D NANDフラッシュメモリーの生産の伸びからその生産に関わるエッチング装置とCVD装置への投入が進んでいる。エッチング工程ではウェハー搬送ロボットに真空シールが採用されており、CVDとエッチングを繰り返す3D NANDフラッシュメモリーでは、エッチング装置の数もCVDの炉も増えるため、使われる真空シールの数が増えている。3D NANDフラッシュメモリーではまた、消耗品である当社の石英製品のほか、セラミックス製品の需要も伸びている。
一方、露光装置では、微細化の伸展からEUV(極端紫外線)リソグラフィーの導入も部分的に始まっているものの、大勢はArF液浸露光リソグラフィーを用いた多重分割露光の方式をとっている。上述のとおり、磁性流体を用いた真空シールは一般的に接触式シールに比べて大幅な長寿命化を図れ、マイクロパーティクルの侵入を防止する高い密封性能を実現できることなどから、この露光装置にも採用されている。しかしながらさらなる微細化を目的とした近年の多重分割露光では、磁性流体の寿命が低下する数少ない環境下である、フッ素ガス環境下に度々置かれるため、図らずも真空シールのオーバーホール需要が増える結果となっているという。
真空シールへの要求事項
半導体製造装置向け真空シールに対する要求としては二極化してきている。
一方では、現状の真空シールの性能はすでに装置の必要要件を満たしているのでこれ以上の高性能化は必要ないが、コストを下げてほしいという要求だ。高品質の磁性流体やベアリング、ステンレス部材などを用いていることから、対応が難しい問題だ。
もう一方では、汚染物質の発生をより少なくしてほしいという要求がある。半導体製造プロセスでオイルが積極的に使われる例はほとんどないが、前述のとおりクリーンに回転を導入させたいというアプリケーションで磁性流体が広範に用いられ、その磁性流体の構成成分の一つであるベース液には、オイルが使われている。ユーザーの本音としてはオイルを使わないでほしいというところだろうが、液体でシールするという機能上オイルは必要不可欠のため、できる限り汚染物質の発生を防ぐよう、半導体製造プロセス向けの真空シールでは低蒸気圧のフッ素系ベースオイルを用いた磁性流体をメインに適用している。さらなる低蒸気圧化を図ることは勿論のこと、フッ素系ベースオイルを嫌う要求に対しては、炭化水素系、エステル系などの磁性流体を改質・開発するなどの取り組みを日米の研究開発拠点で進めている。
また、上記の汚染防止にもつながるが、CVDプロセスなど高温環境で適用できる耐熱性の高い磁性流体の開発や高温環境でも密封性を低下させないシール機構の開発なども進めている。
真空シールの新しい用途展開
真空シールは上述のとおりの半導体製造装置やFPD製造装置を中心に適用されているが、「スーパーサイクル」と言われる半導体関連分野の好況が一旦落ち着き、またFPD関連需要の伸びが鈍化する中で、真空シールのビジネスを維持・拡大する上では、新しい分野での真空シール採用に向けた取組みを進める必要がある。
半導体製造プロセスでも、フォトレジスト工程や平坦化工程で用いられる洗浄システムで真空シールが採用された実績があるが、真空シールは真空と大気との隔壁を作るだけでなく、クリーンな環境と大気との隔壁を作ることができることから、洗浄装置に限らず、乾燥装置など洗浄分野において真空シールが適用できるアプリケーションは多いと見て、フェローテックでは本年10月17日~19日に東京ビッグサイトで開催された「洗浄総合展2018」に初出展した。
産業洗浄は半導体に限らず自動車分野など幅広く、真空シールに関して、さらには磁性流体という技術についても、認知されている企業は多くないと感じる。こうした観点から、同展では、磁性流体の磁界への反応を表現したオブジェを展示して磁性流体の非接触での密封を可能にする特性を説明したほか、磁性流体を用いた真空シールの隔壁が2個ある(回転部軸が2軸ある)カットモデルを置いてシールの機構を説明した。カタログ製品にない、大型FPD製造での適用をイメージして製作した大型真空シールなども展示。こうした真空シールのカスタム製品を並べることによって、回転部分のシール技術に関する様々なユーザーニーズに対してカスタムメイドで細かな対応が可能なことを提示した。
一方で、真空分野や半導体製造などで用いられるCVDやPVD(物理蒸着)などの成膜装置では、チャンバー内に被膜が堆積すると除去が困難となり真空への悪影響を及ぼすほか、製品への汚染源となる可能性があるため、チャンバー自体に被膜が堆積しないように防着板を取り付けるが、当社ではユーザーで使用している防着板を預かって受託洗浄して再生し納入するサービスを行っている。この受託洗浄サービスでも産業洗浄分野に貢献できることをアピールしていく。
また、真空シールの生産で培ったステンレスなど精密金属加工を活用して展開している受託加工の事業でも、洗浄システムで用いられる洗浄槽や蒸留再生槽、乾燥槽といった構成部材の加工・組み立てでも役に立てる可能性があると考えている。
ものづくりの現場が海外へと移行していく中で、フェローテックグループでは、マーケティングやR&Dが得意な米国、生産技術の得意な日本、量産展開の得意な中国、独自の開発力を有する欧州、インフラ技術が拡大するアジアと、製造と販売を見据えて世界各国に拠点を設けている。
たとえば磁性流体とその応用製品である真空シールの研究開発拠点は米国と日本にあり、日米で設計した真空シールは中国・杭州工場をメインに生産、グローバルに供給し、現在約65%のトップシェアを持つ。また、オーバーホールも日米、ドイツ、中国、台湾、シンガポール、韓国とユーザーの進出する現地で即応できる体制をとっている(表2)。
エンドユーザーが当社の真空シールについて現地の補修業者に依頼して粗悪な品質の磁性流体やベアリングが組み込まれることも少なくないが、こうしたケースでは装置が要求する密封性能や回転性能を実現できない。こうした点からは、設計から、製造、販売、および補修まで含めた一貫したグローバルサービス体制を唯一構築している相談してもらうよう、強く訴求している。
フェローテックグループではトランスナショナルカンパニーとして、真空シールをはじめとする部材の研究開発・製造・供給から、受託加工、受託洗浄まで、グローバルな産業界の新しいニーズに対して、幅広いサービスで応えていく。
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