東レは、炭素繊維と柔軟な異種繊維を併用することにより、強度や剛性を高いレベルで維持しながら、耐衝撃性を大幅に向上した射出成形用の炭素繊維強化熱可塑性プラスチックを開発した。
同品は既存の射出成形機を用いて成形できるほか、各種インサート成形など複合成形への対応も可能。軽量化・高性能化に寄与できる材料として、今後ますます重要となる自動車・航空機などの輸送機器や家電・モバイル製品などの用途に向けて、今後2年以内の実用化を目指す。
一般に射出成形で得られる炭素繊維強化熱可塑性プラスチックの耐衝撃性は、含まれる炭素繊維の繊維長に大きく依存し、繊維長が長いほど耐衝撃性が高くなることが知られている。そのため、特に自動車部品や家電筐体などの耐衝撃性が求められる用途においては、射出成形材料として炭素繊維の繊維長が長く残存する長繊維ペレットが用いられているという。
同社はこれまで、長繊維ペレット「TLP(Toray Long carbon fiber reinforced Pellet)」を独自に開発し、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリフェニレンサルフィド(PPS)などの各種樹脂をマトリックスとした材料を展開しており、様々な用途で採用が広がっている。しかし、炭素繊維は硬いため射出成形時に折損しやすく、成形品中で充分な繊維長を維持することが困難なため、耐衝撃性のさらなる向上には限界があったという。
今回はこうした課題に対して、TLPに炭素繊維よりも柔軟な異種繊維を併用することで、炭素繊維強化による高い強度や剛性を維持しながら、耐衝撃性を大幅に高めることに成功した。同品は、柔軟な異種繊維が射出成形時に折損しにくく、成形品中で炭素繊維よりも2倍以上長く残存することで、耐衝撃性の向上を実現した。例えばPP樹脂をマトリックスとした場合、成形品としての耐衝撃性は当社TLPの2倍以上、汎用の炭素短繊維強化ペレットと比較すると4倍以上を達成している。また、異種繊維をマトリックスに応じて適切に選択することで、ポリカーボネートやナイロン、高耐熱PPSなど他の樹脂に適用した場合も、同社TLP比で50%以上の耐衝撃性向上が可能だという。
さらに、通常耐衝撃性を高める目的で添加されるゴムなどのエラストマーを用いないため、0℃以下の低温でも室温同等レベルの耐衝撃強度を維持できるほか、荷重時でも時間経過により変形しにくいという特徴もある。
同社は、今後、実用化に向けた量産化技術の開発を加速し、自動車・航空機などの輸送機器や家電・モバイル製品をはじめとする幅広い用途に向けて展開する予定。