物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)のMrinal Dutta博士研究員および深田直樹グループリーダーを中心とする研究グループは、直径5nm以下のシリコンからなるナノ粒子を利用することで、シリコン系太陽電池の変換効率を向上させる簡便な方法を見出した。
現在、太陽電池材料の主流はシリコンだが、さらなるコスト削減と変換効率の向上を目指して、シリコンの使用量を格段に減らせるシリコンナノワイヤを用いた太陽電池が注目を集めている。シリコンナノワイヤ単独では、光の吸収効率が低いが、シリコンナノ粒子と併せて利用することで変換効率を増大させることができると考えられている。しかし、シリコンナノ粒子の表面には、結合相手がなく反応性が高いダングリングボンド型と呼ばれる欠陥が存在するため、太陽光の吸収により誘起された電子と正孔が再結合する際に発生するエネルギーを有効に取り出すことが困難だった。
今回の研究グループは、特殊な材料および構造を使用することなく、表面がある種の分子で終端処理された直径5nm以下のシリコンナノ粒子を、シリコンナノワイヤ型の太陽電池表面に塗布することで、簡単に変換効率を向上させる方法を開発した。シリコンナノ粒子の表面に、分子を結合させて終端処理を行うと、界面には欠陥が形成されず、効率よく光を吸収する材料として利用できるようになった。このシリコンナノ粒子内部で発生した光誘起キャリアの再結合エネルギーが、下地のシリコン太陽電池に伝達されることで、太陽電池のエネルギー変換効率が向上したと考えられる。今回の実験により、これまで10%程度であった変換効率を最大で12.9%まで向上させることができたという。
これまでにも、化合物の半導体ナノ粒子を利用した効率向上の可能性は報告されていたが、毒性のある物質が使用されているなど問題があった。今回開発した技術は、シリコンを中心として環境にやさしい物質で実現可能であり、さらにシリコンナノワイヤ型だけでなく、現在使用されている一般的なシリコン系の太陽電池にも簡単に応用可能と考えられ、シリコン系太陽電池の変換効率を向上させる有用な方法の一つとして提案できる。今後は、シリコンナノ粒子のサイズおよび表面を終端する分子種の最適化を行うことにより、変換効率向上のさらなる効率化を目指す。
分子終端シリコンナノ粒子を利用した太陽電池構造の模式図