住友電気工業は、次世代パワー半導体として有望視される炭化ケイ素(SiC)を材料とする、独自構造のパワートランジスタを開発し、EV/HEV(電気自動車/ハイブリッド電気自動車)や太陽光パワーコンディショナなどの用途に適した低オン抵抗、高安定性などの優れた特長を実現した。
近年、省エネルギー化の要求に伴い、パワー半導体には電力変換損失の低減が強く求められている。これまで、パワーデバイスには珪素(Si)が広く用いられているが、SiCはSiと比べて高い電圧に耐えられ、抵抗が小さいという優位性を有し、電力機器の損失を大きく低減することが可能であるため、次世代パワー半導体として期待されている。しかし、化合物半導体であるSiCには、結晶欠陥などに起因する信頼性の問題が課題として残されている。
VMOSFETの構造断面図 同社が開発した「V溝型金属-酸化膜-半導体構造トランジスタ(VMOSFET)」は、電子の流れをオンオフするチャネル部分に特殊な面方位(0-33-8)を利用しているため欠陥の少ない酸化膜界面を形成でき、耐圧1200Vで、オン時の抵抗も2.0mΩcm2と充分な低抵抗を実現した。また、低欠陥特性を反映し、SiCトランジスタの実用上での課題とされている閾値電圧変動についても、高安定性(175℃、1000時間で0.12V以下)を確保した。
こうした特長は、EV/HEVなど車両駆動システムの電子化に伴い需要の拡大が見込まれる車載用途に適したもの。また、太陽光等の再生可能エネルギー関連機器においても、同社パワーシステム研究開発センターで開発中のパワーコンディショナに搭載し、業界最高水準の高効率(97.6%)を実証したという。
同素子は、6インチ基板を使用して当社内にてエピタキシャル成長注を行い、3mm角素子で試作したものです。今後は、国立研究開発法人産業技術総合研究所が運営する民活型共同研究体「つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション(TPEC)」の量産試作ライン等を活用しながら量産製造技術を確立し、事業を立ちあげていく予定です。