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産総研など、-196℃~350℃の温度範囲で高いシール性能を示すガスケット

 産業技術総合研究所とジャパンマテックス、住友精化は、粘土とポリイミドからなるコンポジット膜と膨張黒鉛シートを交互に積層させた産業用シートガスケットを開発した。極低温から高温までシール性能に優れ、電気絶縁性であるため、フランジが腐食しにくいという。

開発したガスケットの構造開発したガスケットの構造

 今回開発したガスケットでは、コンポジット膜が膨張黒鉛シートの細かい隙間に入り込んで一体化した構造とすることにより、金属を使わずにシール性を著しく向上できた。極低温(-196 ℃)におけるシール性は、従来最もシール性に優れているステンレス膨張黒鉛多積層構造ガスケットを上回り、シートガスケットとしては世界最高レベルであるという。今回、多積層シートガスケットの製造方法を確立し、室内リークテストにより、高いシール性能を確認したが、さらに実プラントの高温蒸気配管に使用して性能評価を行い、高いシール性と耐久性を確認した。

 開発では、コンポジット膜と膨張黒鉛シートとの多積層化により、幅広い温度範囲で使用でき、電気絶縁性のガスケットの開発に取り組んだ。粘土とポリイミドからなるコンポジット膜と膨張黒鉛シートを積層する場合、充分な密着性を得ることが重要である。そこで、種々の候補材料の中から適した粘土とポリイミドを選択し、これらの混合比率や混合方法を決定した。さらに多積層化するプロセスの条件を最適化するなどして、コンポジット膜が膨張黒鉛シートに侵入した微細構造の、1m×1mの大判多積層シートの製造に成功した。用いた粘土の結晶は平板形状であり、結晶が針状のアスベストとは異なり人体に対し無害である。

各種ガスケットのシール性比較各種ガスケットのシール性比較 次に、室内評価試験によって、シール性などガスケットとしての基本性能を確認した。得られた多積層シートを打ち抜き、ガスケットを試作し評価を行ったところ、強度や圧密などの各種試験の全てで良好な評価結果が得られた。さらに-196 ℃~350 ℃までの広い温度範囲において、高いシール性能を示すことを確認した。以前に開発したガスケットに比べリーク量を3割~5割低減できた。特に低温領域では、これまでに開発した膨張黒鉛粘土膜コート製品、ステンレス膨張黒鉛積層タイプ製品を上回る良好なシール性能を発揮する。

 今回開発した多積層シートは絶縁性に優れた疎水性の粘土を用いているため、高い電気絶縁性を示し、電蝕によるフランジ腐食を防止することが期待される。地熱発電所での使用を想定して、硫黄を含む酸性模擬地熱水を用いた腐食実験を行ったところ、金属板を使用した従来のガスケットではフランジ表面に腐食が発生したのに対し、今回開発した多積層ガスケットでは腐食が観察されなかった。

実プラント実証試験の実施箇所とはく離後の様子実プラント実証試験の実施箇所とはく離後の様子 以上の結果を受けて、住友精化別府工場の実際のプラントの高温配管部で今回開発したガスケットの実証試験を行った。流体は、温度200℃、圧力25気圧の水蒸気であるが、2カ月の試験期間中、高いシール性を示し、取り出した後もガスケットの劣化やフランジ表面への焼付き、さびの発生は見られず、高い易交換性を実証した。

 今後さらに広範な性能評価試験や長期耐久性の評価を行うと同時に製品の大量生産技術を確立し、ジャパンマテックスから6カ月以内の製品化を目指す。用途としては地熱発電所、車両用ガスケットをはじめ、石油精製、石油化学、電力、製鉄、製紙プラントなど多くの産業分野で、幅広い温度条件下の配管部分のシール材としての使用が期待される。