開発した導電性接着剤 昭和電工と産業技術総合研究所は、導電性接着剤として長期絶縁信頼性に優れた塩素フリーのエポキシ化合物を開発した。今回の技術開発はNEDOの基盤技術開発プロジェクトの一環。
通常、電子部品回路の配線にはハンダが用いられるが、高温処理を避けたい用途には、銀を導電剤とする導電性接着剤が使用されている。しかし銀にはマイグレーションを起こしやすいという問題があるという。今回開発した塩素フリーのエポキシ化合物を使用することにより、銀のマイグレーションを大きく低減できる導電性接着剤を開発した。これにより、塩素系化合物の存在による製品の性能低下の防止が可能となる。
開発では、従来知られているエポキシ化合物よりも低粘度で、加えて銀粒子との親和性も高いエポキシ化合物として、3か所以上のグリシジルエーテル構造を同一分子内に有する化合物(多官能グリシジルエーテル)に着目した。グリシジルエーテルはアリルエーテルの酸化反応により製造できるが、グリシジルエーテル構造が増えるにつれて加水分解を起こしやすくなるため、多官能グリシジルエーテルの合成は難易度が飛躍的に高まる。これまでに知られている触媒では目的とする多官能グリシジルエーテルをほとんど得ることがでなかったという。
この課題を解決するために産総研でさまざまな検討を行った結果、これまで塩素フリーエポキシ化に用いてきたタングステン触媒-リン系添加剤-アミン系添加剤に、さらに2種類の固体触媒を混合した触媒を使用すると、高効率に多官能グリシジルエーテルを合成できることを見出した。この、過酸化水素を利用したクリーンな酸化プロセスを利用して得られる多官能グリシジルエーテルは、不純物として塩素系化合物を含んでいない。また、この製造方法は、触媒によって直接的に過酸化水素酸化を行うため、有機溶媒などの有機化合物を使用する必要のない、クリーンで低コストのプロセスとして優位性がある。
新触媒による過酸化水素酸化技術
昭和電工では、塩素フリーの多官能グリシジルエーテルを接着性樹脂とし、配合を最適化することで、これまで課題とされてきた塩素系化合物の存在による製品の性能低下の防止が可能な導電性接着剤を開発した。
開発した多官能アリルエーテルなどの多官能性原材料の高効率酸化により製造されたエポキシ化合物は、塩素を使用しない製造法により作られているため、不純物として塩素系化合物が含まれることがない。そのため、本開発のエポキシ化合物を用いた導電性接着剤は、従来問題となっていた銀のマイグレーションが起きにくく、配線とデバイスの接合信頼性を高めるのに極めて有用で、低耐熱基材の使用を可能にし、デバイスへの熱負荷も低減するもの。
本開発の塩素系化合物を含まない低粘度液状のエポキシ化合物は、導電性接着剤のような金属や無機フィラーを高充填する必要がある用途への使用適性が高いため、今後、さらに高伝熱材料や封止材への適用も期待される。
昭和電工は、子会社の昭光通商を通じ、今月より導電性接着剤のサンプル出荷を開始する。