物質・材料研究機構(NIMS、 http://www.nims.go.jp )は、人が与える力に応答して薬物を放出するゲル材料の開発に成功した。
薬物投与は経口摂取や注射などによるものが一般的だが、一般的な投与法では副作用や利便性の点で問題となることがある。開発した刺激応答性ドラッグデリバリーシステムは、患者自身が自ら力を加えることで薬物が放出される新しい投薬法を想定したゲル材料。このゲルに制吐剤であるオンダンセトロンを保持させ、患者による指圧を想定した刺激を与えると、それに応じて薬物が放出されることを確認した。
この効果は、少なくとも3日間持続することが分かったという。抗がん剤治療時に吐き気を催している患者が、口から薬物を摂取することは困難だが、この材料を皮下に埋め込めば、それを押したりさすったりするだけで薬物が放出されると期待される。
同材料は特殊な機械や電気などを必要としないため、実用化されれば、災害のためにライフラインが途絶えた環境や、もともとライフラインが整備されていない発展途上国などでも、利用が可能。また患者が自分の意思で、どのような環境下にあっても、薬物投与ができる。他にもガンの痛み緩和や花粉症、喘息など、患者の意思で速やかに薬物投与を行いたい状況は多く想定できる。
ゲルは、藻類などに含まれる天然由来成分であるアルギン酸を、糖類の一種であるシクロデキストリンで架橋することにより作製した。これらは、いずれも医薬品にすでに利用されている材料。シクロデキストリンがホストとなり、これに薬物がゲストとして取り込まれる。ホスト-ゲスト相互作用の力学刺激による制御は、過去に報告がないという。
人の力で薬物を放出するドラッグデリバリーシステムの概念図