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九州大学、産総研、材料疲労強度特性への水素の影響を解明

 九州大学の村上敬宜理事・副学長(産業技術総合研究所・水素材料先端科学研究センター長)の研究グループは、水素が金属材料の疲労強度特性を低下させる「水素脆化」について、材料中の水素の量と繰り返し与える力の速度が材料の疲労特性に与える影響を解明した。村上氏の研究グループは、水素の影響を強調して調べるため著しく多量の水素をステンレス鋼中に侵入させて実験、その結果、予想に反して疲労強度特性の著しい向上を示すことを発見した。この発見は、水素ステーションや水素燃料電池車の開発など安全な水素エネルギー社会構築への貢献が大きいと見られている。同研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「水素先端科学基礎研究事業(平成18~24年度)」として行われたもの。

 水素エネルギー社会の実現には、水素脆化の問題解明と水素に対して安全なインフラ・機器の開発が必要だが、水素脆化が起こると30年間使用可能と想定されていたインフラや機器が1年ほどで壊れてしまう可能性もあり、水素脆化事故を防止する上で、材料中に水素を侵入させない技術や、水素が侵入しても影響が少ない材料の開発が課題となっている。しかし、水素の材料中への侵入を防ぐのは困難なため、ある程度の水素侵入を想定して安全な設計・製造方法を確立する研究が世界的に展開されている。

 従来「材料中に侵入する水素の量が多いほど材料の強度特性は劣化する」というのが常識とされていたが、今回九州大学・伊都キャンパスに設置された産業技術総合研究所・水素材料先端科学研究センターで、水素の効果を強調することによる水素脆化現象の基本メカニズム解明を目的に、極めて多量の水素を材料中に侵入させて強度特性を調べたところ、逆に極めて優れた特性を示すことが分かった。疲労き裂の進展状況のミクロな観察に基づいて、水素脆化の謎を解明でき、また繰り返し与える力の速度を変化させることで水素脆化現象の程度が著しく変化する理由も解明された。 材料中の水素の量と繰り返し与える力の速度が材料の疲労強度特性に及ぼす影響が解明されたことで、水素ステーションや水素燃料電池車などの設計・製造の信頼性向上とコスト削減に貢献するとともに安心・安全な水素エネルギー社会の構築に大きく貢献すると期待されている。

 産総研では、水素量によっては疲労強度特性を著しく向上させることが明らかになったことから、この現象を疲労に強い部品の開発に応用することが期待されるほか、材料中から水素を除去することによっても疲労強度特性が著しく改善されることも発見しているため、水素の影響の最悪の条件も予測可能になり、より安全な機器の設計・製造の指針を産業界に提供できるとしている。