第183回 医療の緩和推進で期待される医療機器市場
第183回 医療の緩和推進で期待される医療機器市場安倍政権の規制改革会議は先ごろ、中間報告をまとめ、健康・医療、エネルギー・環境、雇用、創業等という4分野で規制を緩めるよう求めた。医療機器に関わる規制改革の推進では、欧米等の医療機器先進国に比べ医療機器の実用化の遅れ「デバイス・ラグ」が大きいわが国で、健康に長生きしたいという国民の期待に応えるためには、医薬品とは異なる医療機器の特性を踏まえた制度を構築し、いち早く先進的な医療機器を国民に届けることが必要、と述べ、現在検討中の薬事法改正法案を踏まえ、さらにわが国の医療機器産業を発展させる観点から、認証基準の見直しや計画的な策定をはじめとする種々の改革を求めるとした(主な検討項目:医療機器に関わる認証基準、医療機器に関わる保険制度、医療機器に関わる登録認証機関)。
本稿では、こうした中、先ごろ開催された医療機器の設計に関する展示会・セミナー「MEDTEC JAPAN 2013」と「BIO tech 2013」の出展を通して、医療機器を支える要素技術を紹介する。
工作機械技術
医療機器、特にチタン・チタン合金など生体適合性のある材料が人工歯根や骨折固定用プレート・スクリュー、人工股関節などに多用されている。チタンは欧州で数千万トンの需要があるのに対し、日本では100~200万トンと推察されるが、増加傾向にあるという。しかし、チタンは難削材であり、医療機器では高精度を保持しながら生産性を高め、製品競争力を高めることが求められている。
森精機製作所では、たとえばチタン製骨プレートを10μm以下の精度と表面粗さRa0.3μmで完全加工できる5軸装置を出展した。生産性の面から主軸回転数は2万rpm程度が一般的だが、4万rpm程度が可能な装置も開発しており、精度と生産性を維持するのに、加工工具も適宜推奨しているという。
加工工具
チタン合金の難削性を示す材料特性としては熱伝導率が低く、切削温度の上昇が大きい。化学的に活性であり、工具材との親和性が高い、鋸刃状の切りくずを生成し、切削抵抗の変動による切り刃のチッピング、欠損を引き起こすといったことが挙げられる。そこで切削熱を逃がすコーティングなどを施した超硬エンドミルなどが用いられる。これに対し、日立ツールでは潤滑性・耐熱性・耐摩耗性に優れたコーティングを施したエンドミルを紹介した。
インプラント機器向けコーティング
上述のようなインプラント機器を加工する技術だけでなく、インプラント機器の生体適合性を高めるコーティング技術も紹介された。
市販のステント(薬剤溶出型)は、薬剤コーティング層の金属基材との接着性や、薬剤が完全に放出された後のステントの生体適合性などに問題があり、ステント基材の表面機能の見直しが急務となっている。これに対しトーヨーエイテックでは、ステントの生体適合性を高めるDLCコーティングを開発しているが、用途別に被膜を細分化、フレキシブルDLCや超親水性DLC、耐熱DLCなどを紹介した。
医療機器では機器表面を保護するとともに、生体適合性を持たない機器材質を人体組織から完全に遮断するため、安全で信頼性の高いコーティングの適用が不可欠となっている。機器とコーティングの生体適合性を見るには、細胞毒性や感作性、刺激性/皮内反応性、急性毒性、血液適合性、体内埋込みなどのISO-10993生物学的評価要件をクリアする必要がある。日本パリレンでは、これら要件をクリアしたパラキシリレン系ポリマーコーティング「パリレンC」などを紹介した。ステントや人工関節、ペースメーカー、人工心臓など幅広く適用され、パリレン気相蒸着重合(VPD)の成膜装置なども受注が増えてきているという。
溶射メーカーのトーカロでは、歯科用インプラントでは人工歯根としてチタン、アパタイト材料などを用いたプラズマ溶射などで実績を持つが、さらに人工股関節などへの適用としてプラズマ溶射による多孔質チタンコーティングを紹介した。溶射プロセスを使用することで気候率を10~50%程度にコントロールすることで、多孔質コーティングと生体骨が強固に結合できるという。
医療機器の出荷額は、平成13年に2兆2900億円だったのに対して、平成23年には2兆8300億円と拡大基調にある。すでに経済産業省は、中小企業のものづくり力を活用した医療現場の課題解決に資する医療機器の開発・改良を促進し、もってわが国における医療の質の工場とモノづくり産業の新たな事業分野の開拓を目的とした「課題解決型医療機器等開発事業」を平成22年度補正予算から実施しているが、今回の規制改革会議の中間報告を受けて、医療機器分野での規制緩和が進み、これによって医療機器の開発が加速され、わが国の医療機器市場の拡大が助長されていくことに期待したい。