第181回~第190回
第181回~第190回第181回 震災によるコンビナート火災を防ぐメカ技術
第181回 震災によるコンビナート火災を防ぐメカ技術東日本大震災を教訓にした気象庁の新しい津波警報注意報が、3月7日から運用開始された。東日本大震災の地震直後に発表された津波警報注意報では、地震の規模をマグニチュード7.9と推定して、実際の津波(宮城県・岩手県・福島県など広いエリアで10m)を大きく下回る高さが発表された。そのため住民の避難が遅れ被害を拡大させたことから、今回、気象庁では地震の規模がすぐに分からない巨大地震が発生した場合、直後の津波警報注意報では予測の精度が低いため、数字でなく「巨大」、「高い」と発表し危険が迫っているというメッセージを分かりやすく伝える手法に変えた。東日本大震災の経験を活かした津波リスク回避の取り組みに期待したい。
津波は海溝や沖合の活断層で地震が起きて海底が隆起したり沈んだりして海面が大きく変動した際に発生する波をいう。そのため沿岸にある施設への被害は甚大で、東日本大震災の津波でも石油タンクが被害を受け膨大な油が流出したが、タンクの炎上もあった。気仙沼湾岸では石油タンク23基のうち21基が炎上した。
長くゆっくり揺れる「長周期地震動」では、石油タンク内の石油が共振して液面が大きく波打つ「スロッシング現象」が発生し、揮発防止を目的に液面に薄肉の鋼板(浮き屋根)の外周で可燃性ガスを密封するシールが追従できず、ガスが漏れ出し、またタンク上部と浮き屋根の接触による衝撃火花で発火しタンクが炎上、コンビナートでの延焼が拡大するという事故につながる。先ごろ早稲田大学・浜田政則教授らが、東海地震、東南海地震の連動時に想定される長周期地震動に東京湾岸のコンビナートが見舞われた場合に、スロッシング現象によって115基から大型タンクローリー6000台分の石油が溢れ出し、また同時多発的に火災が起きる可能性を示した。
浮き屋根式石油貯蔵タンクでは、貯蔵油にポンツーンと呼ばれる浮きが付いた屋根を浮かべた構造となっており、貯蔵油の増減に伴って屋根が上下動する。その上下動の際に可燃性ガスが浮き屋根の上部に漏れ出ることのないよう、外周にゴムシールが取り付けられている。また浮き屋根がタンク内で回転することのないよう回り止めの機構もある。
つまり浮き屋根とタンクの(上)壁との接触による火花発生、発火を避けるには、一つには浮き屋根外周シールのタンク側壁への追従性の向上が求められる。可燃性ガスの漏洩防止だけでなく、浮き屋根の異常な上下動も抑制できる。現在は耐油性や摺動特性などに優れるニトリルゴム(NBR)や、その反発力に基づく圧着によるシール性を発揮するウレタンフォームなどが用いられるが、異常な上下動に耐える機械的特性とさらなる追従性(シール性)が求められよう。
もう一つは、浮き屋根とタンクの壁が接触した際に火花が散ることのない表面を装飾することが考えられる。以前、タンク内の清掃時に摩擦による発火事故などの対策として、メカノケミカルポリシングなどによってタンク内の表面粗さを制御して静電気や火花の発生を抑えようという研究があったが、加工や表面改質による表面特性の制御を検討しても良いと思う。先日埼玉県和光市の理化学研究所で開催されたトライボコーティングシンポジウムで三愛プラント工業から発表があった「真空装置用各種金属材料の精密化学研磨技術」などもタンク内の部材を超平滑化する技術として応用できるかもしれない。
東日本大震災の悲劇から2年を迎えたが、依然として復旧のスピードは緩慢だ。それでも天災、人災の怖さを経験し、いつ訪れるかわからない災害に対して多方面からの備えを急がなくてはならない。新しい津波警報注意報のような人災を回避するシステムと、転載に備える信頼性の高い堅牢なメカ技術に期待したい。
第182回 INTERMOLDなど開催、高品質な日本の金型を支える表面改質技術
第182回 INTERMOLDなど開催、高品質な日本の金型を支える表面改質技術今月17~20日、東京・有明の東京ビッグサイトで日本金型工業会が主催する「INTERMOLD2013(第24回金型加工技術展)」「金型展2013」、日本金属プレス工業会が主催する「金属プレス加工技術展2013」が開催され、四日間で約46000人を動員した。2011年は東日本大震災の発生により開催が中止になったため、東京での開催は4年振り。当日は工作機械・機器メーカーや、切削工具、CAD/CAM、CAE関連、測定機器、表面改質技術、金属プレス加工事業者などが一堂に会した。
5軸加工機やレーザ加工機を中心に最先端の工作機械4機種を展示することで、最新の金型加工技術を紹介した森精機製作所は、工程集約や被削材、ワークなど様々な観点から金型加工の効率化を実現する技術を紹介した。「HSC 55 linear」は、高速主軸とリニアドライブが特長の5 軸制御マシニングセンタで、リニアドライブによる最高80m/minの高速送りにより切削送り速度を高め、切削加工でありながら研削加工に匹敵する面粗度Ra 0.23μmを達成していることなどをPRした。また、CNC旋盤「NLX2000SY/500」では、旋盤でありながら多彩なツーリングを使用し、旋削・ミーリング加工の工程集約を披露した。回転工具主軸の最高回転速度は 10000 min-1を達成し、マシニングセンタに匹敵するミーリング加工を実現した。
金型の生産では、アジア地域の台頭もあり加工技術の平準化が進展している。そんな中、日本国内では高度な技術、緻密な品質管理による高い信頼と品質などで優位な立場を維持している。そうした要求に応える工具として、日進工具では精密・微細加工分野を得意とするエンドミルを紹介。今回、金型材料として期待されている超硬合金への直彫り加工用エンドミルとして、PCDボールエンドミル「PCDRB」を発表。また昨秋に販売を開始したPCDスクエアエンドミル「PCDSE」や各種cBN小径エンドミルシリーズなど、付加価値のものづくりに貢献する各種小径エンドミルを展示した。
表面改質関連は、コーティングメーカーとしてナノコート・ティーエスが「セルテスDCY」を発表。新プラズマ源採用により180℃以下の低温でDLCコーティングが可能で、PVDとプラズマCVDのハイブリッドプロセスにより高密着を実現した。また、鋼と強い密着力のCr系下地層と、靱性に富んだバッファー層で耐荷重性・耐衝撃性が向上し、高面圧・繰り返し衝撃でもはく離しないとした。清水電設工業は、硬さHv3500の耐摩耗性と耐熱性に優れた「ZERO-1」コーティングを中心に、各種コーティングを冷間鍛造や冷温間プレス、抜き金型などの用途に向けて提案した。
こうしたコーティングの下地処理として使用される各種ブラスト技術も紹介された。東洋研磨材工業は、エアを使わず遠心力を応用した噴射加工マシン「SMAP」を紹介した。複雑な三次元異形状の鏡面仕上げおよび微細加工における微小バリ取りと外周面のエッジ仕上げが行える。また不二機販では、金属に微粒子を高速衝突させることで疲労強度向上を向上させる「WPC処理」を紹介。金型の疲労寿命延長や耐摩耗性・耐チッピング性の向上、応力腐食防止などに貢献するとした。新東工業はダイカスト金型において、製品の不良低減技術として「D-FLOW」、ヒートチェック寿命向上技術として「D-CHECK」、応力腐食割れ寿命向上技術として「D-SCC」と、必要な機能に対してそれぞれショットピーニングの受託加工を提案した。
製造業の海外移転、韓国や中国を始めとするアジアの金型産業の躍進により、日本の金型産業は低迷を強いられている。しかし、表面改質をはじめとした高い技術を適用することで付加価値を高め、日本国内での金型の生産量増加、かつ海外製品の受注増加が期待される。
第183回 医療の緩和推進で期待される医療機器市場
第183回 医療の緩和推進で期待される医療機器市場安倍政権の規制改革会議は先ごろ、中間報告をまとめ、健康・医療、エネルギー・環境、雇用、創業等という4分野で規制を緩めるよう求めた。医療機器に関わる規制改革の推進では、欧米等の医療機器先進国に比べ医療機器の実用化の遅れ「デバイス・ラグ」が大きいわが国で、健康に長生きしたいという国民の期待に応えるためには、医薬品とは異なる医療機器の特性を踏まえた制度を構築し、いち早く先進的な医療機器を国民に届けることが必要、と述べ、現在検討中の薬事法改正法案を踏まえ、さらにわが国の医療機器産業を発展させる観点から、認証基準の見直しや計画的な策定をはじめとする種々の改革を求めるとした(主な検討項目:医療機器に関わる認証基準、医療機器に関わる保険制度、医療機器に関わる登録認証機関)。
本稿では、こうした中、先ごろ開催された医療機器の設計に関する展示会・セミナー「MEDTEC JAPAN 2013」と「BIO tech 2013」の出展を通して、医療機器を支える要素技術を紹介する。
工作機械技術
医療機器、特にチタン・チタン合金など生体適合性のある材料が人工歯根や骨折固定用プレート・スクリュー、人工股関節などに多用されている。チタンは欧州で数千万トンの需要があるのに対し、日本では100~200万トンと推察されるが、増加傾向にあるという。しかし、チタンは難削材であり、医療機器では高精度を保持しながら生産性を高め、製品競争力を高めることが求められている。
森精機製作所では、たとえばチタン製骨プレートを10μm以下の精度と表面粗さRa0.3μmで完全加工できる5軸装置を出展した。生産性の面から主軸回転数は2万rpm程度が一般的だが、4万rpm程度が可能な装置も開発しており、精度と生産性を維持するのに、加工工具も適宜推奨しているという。
加工工具
チタン合金の難削性を示す材料特性としては熱伝導率が低く、切削温度の上昇が大きい。化学的に活性であり、工具材との親和性が高い、鋸刃状の切りくずを生成し、切削抵抗の変動による切り刃のチッピング、欠損を引き起こすといったことが挙げられる。そこで切削熱を逃がすコーティングなどを施した超硬エンドミルなどが用いられる。これに対し、日立ツールでは潤滑性・耐熱性・耐摩耗性に優れたコーティングを施したエンドミルを紹介した。
インプラント機器向けコーティング
上述のようなインプラント機器を加工する技術だけでなく、インプラント機器の生体適合性を高めるコーティング技術も紹介された。
市販のステント(薬剤溶出型)は、薬剤コーティング層の金属基材との接着性や、薬剤が完全に放出された後のステントの生体適合性などに問題があり、ステント基材の表面機能の見直しが急務となっている。これに対しトーヨーエイテックでは、ステントの生体適合性を高めるDLCコーティングを開発しているが、用途別に被膜を細分化、フレキシブルDLCや超親水性DLC、耐熱DLCなどを紹介した。
医療機器では機器表面を保護するとともに、生体適合性を持たない機器材質を人体組織から完全に遮断するため、安全で信頼性の高いコーティングの適用が不可欠となっている。機器とコーティングの生体適合性を見るには、細胞毒性や感作性、刺激性/皮内反応性、急性毒性、血液適合性、体内埋込みなどのISO-10993生物学的評価要件をクリアする必要がある。日本パリレンでは、これら要件をクリアしたパラキシリレン系ポリマーコーティング「パリレンC」などを紹介した。ステントや人工関節、ペースメーカー、人工心臓など幅広く適用され、パリレン気相蒸着重合(VPD)の成膜装置なども受注が増えてきているという。
溶射メーカーのトーカロでは、歯科用インプラントでは人工歯根としてチタン、アパタイト材料などを用いたプラズマ溶射などで実績を持つが、さらに人工股関節などへの適用としてプラズマ溶射による多孔質チタンコーティングを紹介した。溶射プロセスを使用することで気候率を10~50%程度にコントロールすることで、多孔質コーティングと生体骨が強固に結合できるという。
医療機器の出荷額は、平成13年に2兆2900億円だったのに対して、平成23年には2兆8300億円と拡大基調にある。すでに経済産業省は、中小企業のものづくり力を活用した医療現場の課題解決に資する医療機器の開発・改良を促進し、もってわが国における医療の質の工場とモノづくり産業の新たな事業分野の開拓を目的とした「課題解決型医療機器等開発事業」を平成22年度補正予算から実施しているが、今回の規制改革会議の中間報告を受けて、医療機器分野での規制緩和が進み、これによって医療機器の開発が加速され、わが国の医療機器市場の拡大が助長されていくことに期待したい。
第184回 人とくるまのテクノロジー展2013でEVから表面改質技術までを展示
第184回 人とくるまのテクノロジー展2013でEVから表面改質技術までを展示自動車技術会は5月22~24日、横浜市西区のパシフィコ横浜で第22回自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2013」を開催、475社(986小間)で製品・技術の展示が行われた。
車両展示では、電気自動車(EV)ベンチャー企業のSIM Driveが一般向けには初公開となる試作EV「SIM-CEL」を展示。0から100km/h加速4.2秒という加速性能の他に、世界最高レベルの効率となる電力消費量を実現した車両を紹介した。また、先行開発車事業第3号参加企業の中からは宇部興産がPP製樹脂製の軽量、高剛性が特徴の「ツインコーン」など、三五がハイドロフォーミング加工による軽量高剛性スティールスペースフレームなど、GMBが電動式ウォータポンプやサスペンションなど、大同工業が軽量化部材など、日本特殊陶業がハブベアリング向けに供給したSiN(窒化ケイ素)製のボールなどのパネル出展を行い、SIM-CELに実際に搭載されている新しい技術を紹介した。日産ブースでは、同社が省エネ大賞・経済産業大臣賞を受賞した「LEAF to Home」電力供給システムや1.2GPa級高成形性超ハイテン材を使用した車体骨格モデル、エルグランドに搭載した世界初の新技術「踏み間違い衝突防止アシスト(駐車枠検知機能付)」等の最新技術を展示し、同社の環境、安全への取り組みを紹介した。
自動車メーカーからEVやHEV、省燃費技術が中心に紹介された中、自動車用変速機(AT・CVT)の専門メーカージヤトコでは、新世代CVTである世界初の副変速機付CVT「Jatco CVT7」、中型と大型FF車用の2台の「Jatco CVT8」やそのハイブリッド車対応モデル「Jatco CVT8 HYBRID」などのCVTフルラインナップを展示、CVTの優れた環境性能を紹介した。また、第63回自動車技術会賞 技術貢献賞を受賞した「トライボロジー技術を通じたAT・ベルトCVT技術の進歩発展への貢献」(加藤芳章氏)の業績としてカットモデルを展示した。
要素技術では、大豊工業が二硫化モリブデンとバインダーであるポリアミドイミド樹脂による固体潤滑剤コーティング「RAコーティング」を成膜したすべり軸受やエンジン用スラストワッシャ、トランスミッション用スラストワッシャなどの展示を行った。同コーティングを施したエンジン用部品は低燃費用エンジンへの採用が広がっているという。またNTNでは車両1mmの動きを検知する「広域・高分解能小型センサ」とタイヤからの検知反応時間を5分の1に短縮する「多軸荷重センサ」を内蔵した「高機能センサ内蔵ハブジョイント」や、HV等の協調回生ブレーキ用としてモータの回転運動を精度良く直線運動に変換し、油圧ブレーキ力の調整でより多くの走行エネルギーを回生し航続距離が向上する「ボールねじ駆動モジュール」などを紹介した。
表面改質関連では、パーカー熱処理工業がリニア・イオン・ソースとUBMスパッタ、FCVAソースの適切な組み合わせで基材との密着性が高く多様なDLC膜をコーティングできる「ハイブリッドDLCコーティング」、また自動車・部品メーカーに多く採用実績のある熱処理装置としてコールドウォール・システムを採用し作業環境や人への影響を軽微にしたセル型低圧浸炭設備「ICBP」などの提案を行った。神戸製鋼所は、ハイテン材冷間プレス加工等の高負荷のかかる成形金型において金型の耐久性を向上させるPVDコーティングとして「MACHAONコート KS-G」を提案。この技術は基材上に密着・基材保護層としてCr系被膜を5μm、耐摩耗・耐熱層としてTi系被膜5μmの二層で構成することにより、VC(TD)処理と同等の耐面圧性、VC(TD)やTicを上回る耐熱性を有しているという。
東洋ドライルーブは、二硫化モリブデンやグラファイト、フッ素樹脂等の潤滑物質と各種バインダーを配合し、各種溶剤または水に分散させた有機結合型の機能性被膜を紹介。自動車業界で多数実績のある固体被膜被膜潤滑剤として処理を行った様々な部品の展示を行った。スルザーメテコジャパンでは最新の溶射装置、溶射ガンおよびサンプルを展示。欧州等で豊富な実績を誇るスルザーメタプラスのPVD/DLCサンプルや、スルザーフリクションシステムズのシンクロナイザーリングおよび摩擦材の展示と技術紹介等を行った。フランスパビリオンの一角として出展したH.E.Fグループは、耐摩耗性や耐食性を高める塩浴軟窒化処理「タフトライド処理」やPVDプロセスによるDLCコーティングの処理品をサンプル展示し、日本国内でも同グループの技術を導入した企業による受託加工が可能であるとPRした。
日本自動車工業会が公表している2012年度の国内需要は5,210,291台で、前年度の4,753,273台に比べ9.6%の増加となり、2年連続で前年度を上回った。生産拠点の海外移転が進んでいるとはいえ、依然として自動車産業は裾野が広く我が国産業の中枢であるといえる。近年、HEVやEVに加えてFCV(燃料電池車)などの開発も進んでおり、これらに関連する要素技術も多岐に渡る。機械要素技術に関わる中小製造業としては、自動車に求められる高度な研究・開発能力をさらに高めた上で、他産業への応用を進めていくことが望まれる。
第185回 表面改質展2013開催、機能性付与や耐久性の向上で市場拡大狙う
第185回 表面改質展2013開催、機能性付与や耐久性の向上で市場拡大狙う
日刊工業新聞社の主催する表面改質展2013が5月29~31日の三日間、大阪市・南港北のインテックス大阪で開催された。トーヨーエイテック 表面処理事業部 主幹の中谷達行氏が「自動車から医療へ。表面改質の大いなる可能性」と題して特別講演を行ったほか、富士高周波工業が「レーザクラッディングとレーザ焼入れ」、ハウザーテクノコーティングが「ハウザーのPVDコーティング技術」、八田工業が「真空熱処理について」などの出展者によるワークショップが館内で行われた。展示会では、同時開催の微細・精密加工技術展と併せて、自動車部品や電機部品の機能性向上や、金型・工具の耐久性向上等の目的で使用される表面改質技術が多数紹介された。
熱処理では、エア・ウォーターNVが自動車・部品メーカーを中心に採用が進んでいる「NV窒化」を紹介。ガス活性化(フッ化)処理とガス窒化処理を組み合わせることにより、400℃~600℃と幅広い温度設定が可能で、炭素鋼や低・高合金鋼、ステンレス、鋳鉄、Ni基合金等と適用鋼種が広いことをPRした。また、各熱処理分野に特化し東海地方を中心に活動している4社共同体の「金属熱処理ソリューション(幹事会社:菱輝技術センター)」は、真空処理、塩浴処理、高周波処理、浸炭処理、窒化処理の専門家集団が素材選択から熱処理、仕上げまでトータルに加工を提案できる体制で品質や納期、コストの問題を解決する、とした。今回の展示会を機に関西圏での受注を目指すという。TD処理を専業でとしている豊島技研では、自動車メーカーの金型を中心に同処理を行っている強みを活かし、他社に比べて短納期で処理できることや寸法精度の変化が少ないことなどを強調し「PVDコーティングの代替処理としても適用が可能」とした。
コーティングでは、丸紅情報システムズが従来から行っている高硬度のDLC(Diamond‑Like Carbon)コーティング「ULFコート」に加えて、「ULF-Bコート」を参考出品した。ULFコートは炭素のみで構成され、sp3比率が高くHV6500と高硬度のta-c(tetrahedral amorphous carbon)構造だが、ULF-Bコートはsp2比率が高く硬度がHV1500のa-c(amorphous carbon)構造だという。用途としては、クロムめっきやニッケルめっきなど黒色の表面処理の代替処理や高硬度を必要としない精密機械部品や光学系部品をターゲットに受託加工の検討をしているという。また、日本電子工業 大阪工場では、DLC膜にシリコンを含有し高い密着性と摺動性を実現した「NEO Cコーティング」やセラミックコーティングの受託加工を紹介した。コーティング装置では、ハウザーテクノコーティングが最新のアーク成膜技術として「CARC+」や各種PVDコーティング装置の紹介を行ったほか、シーケービーが独・VTD社のPVDコーティング装置「DREVA600」によるコーティングサンプルを展示した。
コーティングなどの前処理として行われるブラスト関連では、不二機販とオカノブラストが出展。前者は精密ショットピーニングとして従来の硬度アップを目的とする表面処理のほか、摺動性の向上、疲労寿命の延長、 耐摩耗・耐ピッチング性の向上などサンプルを展示して提案を行った。後者は、精密ショットピーニングにより処理された機械部品や金型、工具をサンプル出品したほか、樹脂成形用金型におけるラッピング技術やブラスト処理によるバリ取り技術を紹介した。このほか、三愛プラント工業は大物配管などの酸洗浄や、真空装置部品など先端技術で使用されている精密洗浄や電解研磨、化学研磨について紹介。三恵ハイプレシジョンでは、遠心力を利用して精密なバリを取る揺動式遠心バレル研磨機を出展した。研磨用のタンクを回転テーブル上に傾斜させて設置し、揺動するように回転させることにより、被加工物が常に水と研磨材に囲まれ、傷や歪みが抑えられる処理を実演した。
テレビ報道や一般紙などではアベノミクス効果による景気回復が喧伝されているが、会場で話を聞いた限り、中小企業が大勢を占める表面改質関連企業では、まだその恩恵に与る企業は少ない。特に、熱処理を生業とする企業は、電気・ガス料金の値上げなどのエネルギーコスト増大により、苦しい経営が続いている。また今回会場となった大阪ではエレクトロニクス産業の不振により、製造業そのものの生産量が減少している。こうした展示会で各分野に向けて表面改質の有用性を訴えることにより、全体のパイを広げていく努力をすることが今後の表面改質の展望を明るくするものと思われる。
第186回 第17回機械要素技術展開催、部品や金型などの精度・性能を高める技術
第186回 第17回機械要素技術展開催、部品や金型などの精度・性能を高める技術軸受や直動案内機器、歯車などの機械要素や、金属や樹脂などの材料とその加工技術、表面改質技術やそれらの計測・評価技術に関する専門技術展「第17回機械要素技術展」が6月19~21日、東京・有明の東京ビッグサイトで開催された。メンテナンスフリー化を図る軸受や直動案内機器の技術、エッジ品質を向上し部品や金型の精度や性能を高めるバリ取りなど加工技術、部品や金型の性能を高める表面改質技術などの最新の製品技術が出展された。
直動案内機器のメンテナンスフリー技術
軸受や直動案内機器など摺動する箇所では、一般に摩擦を軽減する潤滑油やグリースが必要となる。しかし食品機械や半導体製造プロセスなど潤滑油の使用を避けたい用途や、潤滑油の補給が難しい用途では、潤滑油剤を用いずに稼働することが求められる。
THKでは、直動案内にボールリテーナを採用するとともに、ボールねじに潤滑装置QZを採用した電動アクチュエータを出展した。潤滑装置QZは、ボールねじ軸の転動面に適切な量の潤滑油を供給、ボールと転動面の間に油膜が常に形成され、潤滑性の向上とメンテナンス間隔の大幅な延長を可能にするという。 日本トムソンでは、熱硬化形固形潤滑剤「Cルーブ」を充てんした直動案内を出展した。Cルーブは、多量の潤滑油と微粒子の高分子ポリオレフィン樹脂を熱処理固形化した潤滑剤で、直動案内の稼働とともに潤滑剤が軌道面に常時適量しみだし、長時間にわたって直動案内の潤滑性能を維持する。
高精度部品・金型を作る加工技術
機械要素技術展では軸受や直動案内など部品や金型の精度や品質を高める様々な加工技術が紹介されたが、中でもエッジ機能を満足させるためのバリ取り・エッジ仕上げ技術が多数出展された。
三共理化学では、バリ取りのほか、はく離、粗し・下地処理、研磨などに適用できる「ブロワ式ブラスト装置」を提案した。研磨メディアを変えることで微細バリだけを除去できるほか、薄膜、塗膜のはく離、溶接焼けなどの研磨処理、さらには下地処理として面粗度を調整することでコーティング膜の密着性を向上させる役割を果たすという。また、コンプレッサー式に比べて電気消費量が70%削減できる省エネ性、付帯設備・機器が不要なため省スペース性に優れている点などを強調した。同社はこのほか、精密研磨材「ミラーフィルム」や「ラッピングフィルム」などの展示を行ったことで、来場者からは研磨全般についての相談が寄せられた。スイス・イエプコ社のブラスト装置を取り扱うプラストロンは、粒子を吹き付けることで微細なひびや空孔を閉塞させて金型や部品等、金属表面の平滑化・緻密化を行う処理を実機を展示して紹介した。この工程で、トリボフィニッシュ処理と呼ばれる専用の粒子を使用すると表面にすべり性が付与され、金型などの離型性向上やかじり・チッピング防止につながるという。
コーティングなどの表面改質技術
表面改質関連技術としてコーティングでは、日本コーティングセンターが親会社のトーカロと共同出展し、耐摩耗性に優れたPVDやDLCコーティングのサンプルを展示したほか、新技術として超硬基材上のTi系被膜の除膜を紹介、表面粗さの変化が少ないことをPRした。アルバックテクノは、硬質アルマイトにフッ素樹脂を複合させた「タフラム」をアルミニウムおよびアルミニウム合金に適用することで、耐摩耗性・摺動性の向上やかじり防止などの特性に加えて電気絶縁性、離型性、耐食性の機能付与が可能とした。同じく硬質アルマイト被膜である「イーマイトUH処理」の紹介を行った熊防メタルは、従来の硬質アルマイトよりも1.7倍の硬度(HV600以上)を有し、耐摩耗性および耐熱・耐クラック性に優れることから半導体や医療関連などの幅広い分野に適用できるとした。
表面改質の試験・評価技術では、パルメソが薄膜などの表面改質層から基材までを連続して精密評価する「MSE試験法」を紹介。展示では、DLC薄膜や樹脂系材料の試験事例のほか、このほど新たに可能になった鉄鋼系の焼入れ材の硬さと摩耗率の相関を測定した結果をパネルにして展示。研磨で削りながら表面を摩耗させることで、深さ分解能100nmごとに硬さと摩耗率の相関を高精度に測定できる。同社では国内で唯一同試験の受託測定を行うとともに、装置の販売も行っていることを強みに来場者にPRを行った。
第187回 JASIS2013開催、新ビジネスを支える試験・評価機器
第187回 JASIS2013開催、新ビジネスを支える試験・評価機器日本分析機器工業会と日本科学機器協会は9月5日~7日、千葉市の幕張メッセ国際展示場で、「JASIS2013」(旧・分析展/科学機器展)を開催した。今回は「未来発見。-Discover the Future-」をテーマに、医療やバイオ、環境などを中心に、「イノベーションを生み出し将来のビジネス発展につなげるための材料や表面改質層の開発を支える分析装置や試験装置などが多数展示された。
環境ビジネスの一つのテーマとして、省エネルギー・省資源があるが、この省エネ・省資源につながる材料特性としては、摩擦・摩耗特性(トライボロジー特性)がある。このトライボロジー特性を評価する摩擦・摩耗試験機では新東科学やCSM Instrumentsなどが出品したが、新東科学では荷重変動型摩擦摩耗試験システムトライボギア「TYPE:HHS2000/3000」を出展、1個の試験片による1回の測定で摩耗回数、垂直荷重、摩擦力、摩耗体積の関係を示す3次元摩耗形態グラフ作成、摩耗の遷移に対応する臨界荷重を決定ができるため、複数の試験片を必要としないだけでなく、試験時間を大幅に短縮し、煩雑なデータ解析を解消できつつ、信頼性の高い試験データが得られる。これによりユーザーの材料やコーティング開発の期間短縮が図れることを提案した。
トライボロジー特性に優れるコーティングの一つに、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜があるが、堀場製作所ではこうした薄膜の測定や分析に有用な装置を出展、分光エリプソメータ「UVISEL 2」では、非接触・非破壊で薄膜試料にダメージを与えることなく高感度に膜厚や屈折率を測定でき、DLCを分類・評価できる可能性について、グロー放電発光表面分析装置(GD-OES)「GD-Profiler 2」では、前処理なしで薄膜試料中の元素分析を数10ppmオーダーの感度、深さ方向数nmの高分解能で迅速に行えることなどを示した。
各種の機能性薄膜が登場する中で、母材の物性に影響されず、薄膜の機械的特性のみを評価する手法にナノインデンテーション法があるが、この評価装置であるナノインデンターはオミクロン ナノテクノロジー ジャパンやCSM Instruments、東陽テクニカなどから出品された。
オミクロン ナノテクノロジー ジャパンは、ダイヤモンド圧子を使用し600℃以上の加熱測定が可能な高温ナノインデンテーション装置「高温ステージ xSol 600付き TI 950 」を紹介、インデンテーションによる硬さ・弾性率測定はもとより、スクラッチ機能による膜の密着強度、圧子を動的に振動させる粘弾性測定で貯蔵・損失弾性率・tanδ等、多種のオプションを取り付けることが可能で、セラミックスコーティングなど各種薄膜の物性への温度依存性の評価などにも有用であることを示した。
また、CSM Instrumentsはナノインデンテーション試験のデモンストレーションを交えて、各種ナノインデンターを紹介した。現在、800℃対応の高温ナノインデンターを開発中であることや、最近開発された「バイオインデンター(BioUNHT)」が、超低荷重と大きな深さ方向の変位が可能なことから、バイオ材料だけでなくソフトマテリアルの評価が可能であることを示した。
新ビジネス、たとえば医療ビジネスの我が国における産業規模はまだそう大きくないが、国が注力する長期的な成長分野の一つである。そうした新分野における材料および表面改質層の開発では、紹介したような試験・評価機器による信頼性の高い評価データは不可欠である。各種の試験・評価機器の有効な活用を通じて、わが国が発信する新ビジネスが一つでも多く生まれることを、強く期待してやまない。
第188回 東京モーターショーが開催、世界にまだない、部品・材料技術を発信
第188回 東京モーターショーが開催、世界にまだない、部品・材料技術を発信日本自動車工業会( http://www.jama.or.jp )は11月22日~12月1日、東京・有明の東京ビッグサイトで「第43回東京モーターショー2013」を開催した。乗用車、商用車、二輪車、カロッツェリア、車体、部品・機械器具関連製品、自動車関連サービス、SMART MOBILITY CITY 2013を含む総合ショーとして開催。世界12ヶ国から合計177社180ブランド(展示面積38239m2)が参加、すべての国内自動車メーカー14 社・15 ブランドが出展し、海外からは18 社・20 ブランド(乗用車・商用車・二輪車)が出展した。
今回のショーテーマは「世界にまだない未来を競え。」で、環境、安全、エネルギーなど世界の様々な問題を解決するハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)など新しいエコカーを、日本のお家芸の部品・材料技術を含めて世界に向けて発信した。
実用化目前、FCVの軽量・高耐久材料
トヨタ自動車では、2015年に市販予定のセダンタイプの次世代燃料電池自動車(FCV)のデザインコンセプト「FCVコンセプト」を出展した。床下に小型・軽量化した新型の燃料電池(FCスタック)や70MPaの高圧水素タンク2本を搭載している。このFCスタックは、実証実験車「FCHV-adv」に搭載されているものの2倍以上となる出力密度3kW/Lを実現している。セル数を削減し小型・軽量化したが、高効率の昇圧コンバータを搭載することで、モータージェネレーターの大出力化と小型化を実現した。タンク質量あたりの水素の貯蔵量を示す貯蔵性能(wt%)と世界最高水準の水素タンクは、ポリアミドなど水素を透過させない内部構造と、カーボン材複層による外部構造で、実際には100MPaの高圧に耐えるほか、米国仕様として、銃弾にも耐えるという。約3分で水素をフル充填でき航続距離が500km以上という実用性能の一方で、水素ガスが満タンであれば一般家庭の使用電力(10kWh)を1週間分以上供給できるなど、非常用電源としても提案された。
走りを改善するEVのインホイールモータ―技術
日産では、三角翼をイメージしたEVコンセプトカー「ブレイドグライダー」を出展した。ドライバーがクルマの中心に座り、その後方に2人用シートを配置した3人乗り。シャシーはカーボンファイバー製で軽量化を図った。リチウムイオンバッテリーでリアタイヤに搭載した左右独立制御のインホイールモーターを回して駆動することで、コーナーリング性能を向上させた。
このインホイールモーターでは、ベアリングメーカーのNTNが、モーターと減速機を一体化してホイール内に配置することでモーターの駆動力をタイヤに直接伝達して高効率化を図るとともに、車両の軽量化などに貢献する小型インホイールモーター「IWM」を開発している。その特徴を実証するために今回、4輪すべてにIWMを組み込み、左右輪を転舵する新しいステアリング装置を搭載したコンセプトカー「Q‘moⅡ」をデモし、その場回転や横方向移動を披露した。小型モビリティなど次世代EVに向けてシステムを提案した。
HEVの高出力・高効率化を実現する軸受・材料技術
ホンダは、軽量なボディに次世代の直噴 V型6気筒エンジンをミッドシップレイアウトで配置するとともに、走りと燃費性能を両立した高効率・高出力のハイブリッドシステムを搭載した新しい走りの価値を提案するスーパースポーツモデル「新型NSXコンセプト」を出展した。新型ハイブリッドシステムは、エンジンと高効率モーターを内蔵したデュアル・クラッチ・トランスミッションを組み合わせるとともに、前輪の左右を独立した二つのモーターで駆動する電動式の四輪駆動システムを搭載している。ハイブリッド車(HEV)の出力向上、燃費向上では、小型・軽量化を実現する駆動用モーターとそのトルクを高めるリダクションギヤ、駆動用モーターに大電力を供給する発電機用モーターの高速回転化が進められている。
このHEV用モーターの高速化、小型化に伴い、プラネタリ機構向けのピニオンギヤには、さらなる高速回転への対応のニーズが高まっている。これに対し日本精工では、保持器に特殊皮膜を施した超高速プラネタリ用ニードル軸受を開発、出展した。軸受の保持器の母材であるクロムモリブデン鋼に浸炭窒化処理した後、特殊皮膜を施すことで、ピニオンギヤと保持器の摺動部における摩擦熱を低減させ耐摩耗性を向上、この結果ピニオンギヤの対応可能な回転速度を超高速プラネタリ用ニードル軸受標準品に対し約2倍、高速仕様に対し約1.5倍に高速化させた。これにより変速機の効率化を図った。
ハイブリッド車やアイドリングストップシステムでは、エンジンが頻繁に起動・停止されることから、またエンジン油が低粘度していることから、エンジンベアリングなどの摺動部では油膜が形成されにくい。これに対し大豊工業では、固体潤滑剤である二硫化モリブデンとポリアミドイミド樹脂からなる樹脂コートエンジン軸受を出展、油膜が形成されずに固体接触した場合の摩擦低減の効果(起動摩擦トルク20%減)と耐摩耗性(起動停止摩耗量60%減)を示した。この起動・停止の潤滑性保持のコーティングでは、大同メタル工業はダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜も提案した。
自動車メーカーでは環境、安全、エネルギー問題への対応が必至で、特に今回の出展では、資源に乏しい日本では無尽蔵な水素をエネルギーとするFCVが実用化レベルの形で示された。しかし本質的なテーマとして、自動車メーカーの走りへのこだわりは強い。今回提示された新しい形の車が、日本のお家芸である部品・材料技術のバックアップによって、走りを楽しむ車として世界市場に登場していくことを確信している。
第189回 ASTEC2014/SURTECH2014開催、医療・環境・エネルギーを支える表面改質・評価技術を提案
第189回 ASTEC2014/SURTECH2014開催、医療・環境・エネルギーを支える表面改質・評価技術を提案「nano tech 2014 第13回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」や「ASTEC 2014 第9回 先端表面技術展・会議」、「SURTECH2014 表面技術要素展」などの展示会が、1月29日~31日に東京・有明の東京ビッグサイトで開催、約46000名が来場した。
ナノテクノロジーは情報通信、エレクトロニクスから医療・健康、バイオ、環境・エネルギーまで、様々な重要課題解決のキーとして注目されるが、いずれの展示会においても、特に日本の新産業として注目される医療や環境、新エネルギーの技術革新を支える新技術や新製品が披露された。
特にASTECとSURTECHでは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングやセラミックコーティングなどのドライコーティングから、めっきなどの環境対応の表面改質技術や、その処理による材料の機械的特性などを評価する硬さや密着性、摩擦・摩耗特性などの試験・評価技術などが紹介された。
パーカーグループのブースでは、パーカー熱処理工業が、韓国J&L Tech社製の新型ハイブリッドPVDシステム「CarboZenシリーズ」を出展した。リニアイオンソース(LIS)、UBMスパッター(UBMS)などプラズマ源の適切な組み合わせにより、耐摩耗、高潤滑、高耐食など適切なDLC膜を成膜できる。CarboZen 1000は6ポート(LISが4ポート、UBMSが2ポート)まで、CarboZen 1200は8ポート(LIS、UBMSが各4ポート)、プラズマ源を配置でき、膜の多彩化や成膜効率の向上などが図れるという。
ナノテックでは、DLC薄膜を機能別、用途別に分類した「ICFコーティング」(真性カーボン膜)を紹介するとともに、大電力パルススパッタリング(HiPIMS法)によって高機能水素フリーICFを660nm/minの超高速で成膜できるRoll to Roll成膜装置を紹介した。丸紅情報システムズは、ユニオンツールが開発したDLCコート/ダイヤモンドコート「ULFコート」の受託サービスを提案した。特に、内部応力を緩和しながら高硬度の成膜を実現、従来のULFコートに比べ、鉄系素材に対して耐摩耗性を3割向上させた水素フリーDLC膜「ULF-S」を処理サンプルとともに紹介した。自動車や機械の摺動部品に適用することで、低フリクション化やロングライフ化が可能になると強調した。
めっき関連技術では今回も、有害な重金属としてRoHS指令やELV規制などで規制の進む六価クロムの代替技術が多く紹介された。日本マクダーミッドは、六価クロム化合物を含まない耐食仕様のめっき群、ZinKladシステムを紹介した。同システムは亜鉛/亜鉛合金めっき~三価クロム化成処理~トップコートまでを組み合わせたRoHS指令やELV規制適合のシステムで、GMやフォードなど厳しい塩水噴霧試験をクリアし採用されているという。
また、コーティング薄膜の評価装置も多数出展された。薄膜の機械的特性評価装置を専門に扱うCSM Instrumentsは、昨年アントンパール社が買収、新しい体制のもと、薄膜やコーティング表面の機械的特性、たとえば密着性や破壊特性、変形特性などを評価するための専用試験機「スクラッチテスタ」や、軟質材から硬質材料、脆性材料、延性材料などほぼすべての材料について、硬度や弾性率などの機械的特性が計測・評価できる「インデンテーション・テスタ」、ほぼすべての固体材料の組み合わせについて、速度や周波数、接触圧、潤滑剤の有無、時間や雰囲気(温度、湿度や潤滑剤の種類など)といった試験パラメータが制御でき、実際の摩耗状況といった実用条件下に近い環境を再現した摩擦・摩耗試験が可能な「トライボメータ」などを出展した。
フィッシャー・インストルメンツは、AFM(原子間力顕微鏡)を追加することでナノメートル領域で高解像度の表面三次元画像を取得し、薄膜などの組織の可視化と定量化が可能となる「PICODENTOR HM500」を出展した。ピコメートル領域での高精度の距離測定や数μNまでの小さい荷重調整ができることで、極薄膜の硬質被膜の機械的物性を評価できる。
トリニティーラボは、台で薄膜や厚膜、塗膜などの界面特性(付着・破壊強度)と表面特性(摩擦・引っ掻き強度)が測定できる被膜性能評価システム「フィルメータ ATPro 301」を出展した。基材と膜の界面や多層膜における層間界面において、断面にピンで直線摺動させることにより外的応力を加え、膜のはく離、付着強度を測定する。また、10μmから1mm/secと極低速の速度範囲で摩擦係数を測定できるため、静止状態から摺動開始時に起こる試験体の弾性変形や摺動時の飛び跳ね現象を抑えたデータが得られる。このほか引っ掻き強度も測定が可能、摩擦係数との相関解明なども行える。
パルメソは、微細な粒子と水を投射することで、サブミクロンの薄膜に対し膜厚の1/10~1/50、つまりナノメートルサイズの摩耗分解能が得られる「MSE試験装置」を出展した。薄膜や物体表面の材料強さをGD-OES(グロー放電発光分析)装置のように表面から深さ方向に連続して精密評価できるため、微粒子のサイズ・種類を変えるだけで、硬質薄膜だけでなく軟質材料にも適用できるため、工具などに使われるTiN(窒化チタン)膜やDLC膜、セラミックス、金属めっき、半導体・電子部品や樹脂被膜、ゴム表面などに幅広く適用できるという。
医療関連では先ごろ、トーヨーエイテックが、冠動脈用ステントについてステント加工とDLCコーティングの両方で医療機器製造業許可を取得した。我が国の医工連携もようやく本格化の様相を帯びつつある。今回ASTECやSURTECHで紹介された各種の表面改質は、たとえば材料に乏しい生体適合性や耐久性などを付与することでインプラント製品など医療機器の耐久性・信頼性向上を、耐摩耗性を向上することで省資源化を、摩擦特性を改善することでエネルギー消費の節減を実現するキーテクの一つと期待されている。医療、エネルギー、環境、さらには防災など我が国の新産業の柱を支える各種の表面改質技術とその開発を支援する各種試験・評価技術の発展に注目が集まってきている。
第190回 人とくるまのテクノロジー展2014開催、採用進む低フリクション省燃費技術
第190回 人とくるまのテクノロジー展2014開催、採用進む低フリクション省燃費技術自動車技術会は5月21~23日、横浜市西区のパシフィコ横浜で第23回自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2014」を開催、環境や安全、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)関連などのテーマを中心に出展がなされた。ここでは同展での出展技術のうち、環境、特にフリクションの低減による燃費改善に関わる技術を紹介したい。
自動車メーカーではたとえば、スズキが「ハスラー」に搭載された「R06Aエンジン」の技術を紹介した。燃費改善につながるエンジンのフリクション(メカニカルロス)を低減するため、まずはシリンダーブロックのライナー中心とクランクシャフト軸心をずらすオフセットクランク構造を採用して、膨張行程のピストンサイドフォース低減を図った。また、ピストン回りでは、スカート形状の最適化やスカート部に樹脂コーティングを施すことでフリクションを低減。さらにピストンリングでは、トップリングおよびオイルリングに摺動性能に優れるCrN(窒化クロム)コーティングを施し、フリクションを低減した。
部品メーカーでは、シェフラージャパンが直打式動弁系における表面改質によるフリクション低減の手法として、板金製メカニカルバルブリフターのカム接触面を削り、研磨に加えてCrNコーティングやダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングで表面仕上げしたサンプルを展示した。同社では、水素含有DLC成膜品と水素フリーDLC成膜製品を提供している。水素フリーDLCは硬質で摩耗に強い上、水素含有DLCで問題にされるエンジンオイル中の添加剤によるDLC膜の摩耗促進の心配はないものの、内部応力の高さからストレスが加わった際の膜の剥がれや相手材への攻撃性などが懸念され、水素含有DLCが選ばれることも少なくないという。
このDLCコーティングではフリクション低減を目的に、ピストンリング各社(リケン、日本ピストンリング、TPR)で量産体制が整いつつあるようだ。水素フリーで極めて高硬度のテトラヘデラル・アモルファス・カーボン(ta-C)膜なども検討され、問題となる膜の剥がれがない、内部応力のコントロールも可能になっているという。
低フリクションの表面改質関連では、H.E.FグループのH.E.F Durferrit Japanとナノコート・ティーエスが共同出展、PVDプロセスによるDLCコーティングの処理品を展示した。新技術としては、独自開発のレーザー装置によりマイクロテクスチャーを施すことで潤滑領域を最適化(流体潤滑領域にシフト)する「Micro-Textured DLC」を紹介、クランクシャフトやシリンダーライナーなどへの適用例を示した。F1などのモータースポーツではすでに実績があり、量産車に展開すべく、生産性を高めたレーザー装置を開発中という。
また、パーカー熱処理工業では、リニアイオンソースやUBMスパッターなどプラズマ源の最適な組み合わせで成膜できる「ハイブリッドPVDシステムCarboZen」を提案、基材との密着性が高く、耐摩耗、高潤滑、高耐食など多彩なDLCコーティングを成膜できることを紹介した。東洋ドライルーブは、従来から取り扱っている二硫化モリブデンやグラファイト、フッ素樹脂などの固体潤材をベースにした結合型固体潤滑被膜のラインナップを補う耐摩耗性の高い被膜として、昨年から受託事業に乗り出したDLCコーティングを紹介した。
トヨタ自動車がグループでの世界販売台数が1000万の大台を超えるなど、2013年度の自動車販売は3年連続で前年度を上回る好調を示した。生産拠点の海外移転が進んでいるとはいえ、依然として自動車産業は裾野が広く、我が国産業の中枢で、また、高度な技術で世界と戦える砦とも言える。今回紹介したようなフリクション低減による燃費改善技術をはじめ、日本がリーダーシップをとる自動車分野を牽引し続ける、革新的な技術が絶えず求められている。