第178回 三菱自リコール問題に包括的な研究開発の復活を求める
第178回 三菱自リコール問題に包括的な研究開発の復活を求める三菱自動車はミニカなど複数の軽自動車のエンジンについて、クランクシャフト部オイルシールからのエンジンオイル漏れによるリコール(回収・無償修理)に消極的だったとして、国土交通省から異例の厳重注意を受けた。国交省は今後、道路運送車両法に基づく立ち入り検査を行い法令違反がなかったかを確認する。
同社は2005年にエンジンオイル漏れの不具合を把握しながら、2010年までリコールに踏み切らなかった。同じ不具合を理由に届け出たリコールは今月までに計4回に及び、対象車種は10車種約176万3000台と国内で過去最多にのぼる。幸い事故は起きていないものの、走行を続けた場合、オイルが流失することでエンジン部品が焼付いて走行できなくなる恐れがあるという。これに対し国交省は、リコールを検討する三菱側の姿勢が消極的で、原因究明も不適切などとして厳重注意した。
三菱自動車では、エンジンフロントケースに装着しているクランクシャフトオイルシールにおいて、 車両生産時と異なる材質の補修用オイルシールに交換された場合に、エンジンフロントケースの加工ばらつきや、オイルシールの圧入量ばらつきなどの複合要因により、当該オイルシールの保持力が低下しているものがあるため、該当するオイルシールが抜け出し、エンジンオイルが漏れ、油圧警告灯が点灯し、そのままの状態で使用を続けると、 エンジン内部部品が焼付き、走行不能となるおそれがあるとしている。これに対する改善措置の内容は全車両、当該オイルシールの取付部を点検し、車両生産時と異なる材質の補修用オイルシールに交換されたものについて、 オイル漏れが無い場合は、フロントケースにオイルシール抜け止め用プレートを追加装着し、オイル漏れがある場合は、オイルシールを新品に交換するとともに、フロントケースに抜け止め用プレートを追加装着するもの。なお、改善措置用部品の供給に時間を要することから、当面の暫定措置として、すべての使用者に不具合の内容を通知し、 交換部品の準備が整うまでの間、エンジンオイル量の点検を啓発し、運転時の注意事項を周知するとしている。
オイルシールは金属環にシールリップを構成する合成ゴムを焼付け接着し、組み込んだバネによりリップ部を軸に適度に押し付けホールドすることで、運動している部分のシールを可能とする。今回問題となったオイルシールは、エンジンのフロントケースの溝に挿入し、回転するクランクシャフトに密着させてエンジンオイルが外に漏れるのを防ぐ機能をもたせるもの。
正常な取付状態にあるオイルシールは大気側からわずかな空気を吸い込んでいて、この吸い込み現象によって油が外に漏れない仕組みになっている。日本製のオイルシールは高品質でグローバルに流通している。特にクランクシャフトは高速回転するために封入する油温は高くなり、高温に耐えるフッ素系のオイルシールが用いられる。また、リップ部に低いネジ山を設け、漏れようとするオイルを軸の回転によって内部に送り戻す作用を実現する「ネジ付きオイルシール」が使用される。このようにオイルシールは、適確な適用がなされれば、大量の不具合が出るはずのない信頼性の高い技術である。
今回のオイルシールの不具合により一部でエンストに至ったというが、最終的に焼付いたと思われるエンジンベアリングは、本来エンジンオイルの油膜が介在する流体潤滑状態で機能するものだが、近年の省燃費エンジンオイルの低粘度化やアイドリングストップ機構による油膜のできにくい状況に対応して、二硫化モリブデンなど固体潤滑被膜を採用して摩擦抵抗を低く抑え、希薄潤滑下でも、そう簡単には損傷しない技術を確立している。それが焼付いたとすれば、クランクシャフト部で長期にわたり完全に油膜が切れたということなのだろう。
オイルシールメーカーによれば、オイルシールが確実に機能を発揮するには、油との適合性や、軸の表面粗さや外周公差、ハウジングのはめ合い面の表面粗さやはめ合い公差などが厳密に管理されなくてはならないとしている。修理で交換した際のオイルシールと軸やハウジング溝の粗さや寸法は適切だったのか、そのオイルシールは油で膨潤し硬度の低下や耐摩耗性の低下を引き起こすような材料ではなかったか、ぜひとも深く細やかな検証を進めてほしい。
上述したオイルシールやベアリングは世界中で適用されている、日本の誇る優秀な技術だ。しかしこれを適切に用いなければ今回のような事故につながり、社会的には、それらの製品技術に非があるように思われてしまいかねない。グローバル市場での我が国製品の優位性は、その技術と品質にある。技術と品質の保持は製品単体でなく、アプリケーションにあった適用手法の確立も含めて可能になるが、ここにきてエレベータ事故など、過去に指摘された問題が改善されずに起こった事故が各分野で多数報告されているのは、産業界で研究開発予算が縮小傾向にあることのマイナス面が露見してきているのだろうか。こうした中、安倍晋三次期政権が経済成長を税制面から後押しする方針として検討している、企業の研究開発投資を促進する「研究開発減税」の拡充などの施策にも期待したいところだ。その研究開発を拡大する中では、製品単体でなく、その適用法の確立も含めた包括的な取り組みにぜひとも努めていただきたい。