第151回 東京スカイツリーがギネスに認定、高さ世界一と安全性を誇る機械要素技術
第151回 東京スカイツリーがギネスに認定、高さ世界一と安全性を誇る機械要素技術2012年5月にグランドオープンを目指す高さ634mの「東京スカイツリー」がこのほど、世界一高いタワーとしてギネス世界記録に認定された。11月17日にギネス世界記録認定式が開かれ、ギネス・ワールド・レコース社社長のアリステア・リチャーズ氏から東京タワースカイツリー社長の鈴木道明氏に認定書が渡された。これまでの世界一高いタワーは高さ600mの中国・広州塔だったが、スカイツリーでは今年3月に634mの最高到達点を達成した。
さて、この世界一高いタワーの長期信頼性を高めるため、様々な材料や機械要素が適用されている。
まず材料だが、スカイツリー最上部の放送用アンテナを取り付けるゲイン塔には、神戸製鋼所の円形鋼管が採用されている。これは肉厚が最大80㎜で1m2あたり780N級の引っ張り強度(従来の引っ張り強度は590N級)を持つ。降伏比(引っ張り強度に対する降伏強度の比)が通常の95%に対して90%と低いため、外力が加わっても破断するまでの耐性が強く、倒壊に対する安全性が高いという。
また、三菱重工鉄構エンジニアリングは、その放送用アンテナを支えるゲイン塔を600m超の高層部で風から生じる共振現象である渦励振から守る制震装置を納入した。これは倒立振り子型で、ウェイトとウェイトフレームからなる振動体の基部をユニバーサルジョイントが支える構造で、ほかに押し引きバネ、オイルダンパーなどで構成され、制震振幅縦横±70cm(最大振幅±125cm)を実現する。
世界一高い東京スカイツリーでは、日本最長の昇降距離となる464mを昇降する東芝エレベータ製トラクション式業務エレベータが採用されている。巻上機を機械室に設けた機械室付きトラクション式エレベータでは、一方にかご、他端につり合おもりをつるしたロープを巻上機の綱車にかけ、ロープと綱車の間の摩擦を利用して駆動する。東京スカイツリーでは、テザックワイヤロープが製造する摩擦特性と潤滑剤の保持力に優れた高強度・高寿命ロープが採用されている。また、その昇降距離464mのエレベータと、地上高350mの第1展望台まで国内最高速となる分速600mで昇降する最大40名を収容する大容量タイプエレベータの巻き上げ機では、日本精工製の専用の静音・低振動自動調心ころ軸受が採用され、巻上機の静音・低振動化を図るとともに、高速化での安全性を確保している。
材料に戻るが、東京スカイツリーは634mという高さに組み上げられた鉄骨を100年間、錆から守り、強度確保だけでなく美観維持を実現する防食性能の高い塗膜が求められる。634mの高さを組み上げるために必要な鋼材が膨大な量になることや鋼材のサイズが直径2m超、長さ10m超など巨大になること、また高張力鋼でめっき時の熱割れの懸念があることなどから、溶融亜鉛めっきは適用できない。また、金属溶射は溶射業者が限られ処理能力不足で工期に支障が出ることなどから見送られ、重防食塗装が採用されている。上塗りでは旭硝子製のVOC(揮発性有機化合物)を低減した高耐候性水溶性フッ素樹脂塗料が使われ、1回の塗装で25年以上のライフサイクルを実現する見込みという。長大な建築物では、締結部での防食ももちろん重要になる。外周部の鉄骨造塔体本体や最上部ゲイン塔での部材の締結には、神鋼ボルト製の防錆処理高力ボルトが採用されている。
東京スカイツリーはその600m級の電波塔を持つことで、デジタル放送において良好な電波を効率よく配信するという第一の役割に加えて、高さ450mの展望台からは関東一円を見渡す広大なビューが楽しめるなど、国内外から多くの観光客が見込まれている。観光スポットともなる東京スカイツリーでは、制震装置による安定した電波配信や、高耐久性フッ素樹脂塗料による建築物の耐久性と空にとけ込む白を基調とした美観、高耐久性ワイヤロープや静音・低振動ベアリングによるエレベータの安定した高速昇降など、世界一高い自立式電波塔であり続けるとともに、超高層建築物での多数の観光客の安全性・快適性を実現するであろう。