第150回 B787が世界初就航 省燃費・ロングメンテナンスに向かう航空機
第150回 B787が世界初就航 省燃費・ロングメンテナンスに向かう航空機全日本空輸(ANA)が世界に先駆けて導入した米国ボーイング社の中型旅客機「B787ドリームライナー」が11月1日、羽田-岡山線、羽田-広島線で定期便として初就航した。ANAでは新型エンジンを搭載し、軽量・高剛性の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を採用したB787を、燃費効率が良く民間航空機市場を活性化させる戦略機材と位置づけ、来年1月には羽田-独フランクフルト線に投入するなど、2017年度までに計55機を導入する計画だ。
こうした中、10月26日~10月28日に東京・有明の東京ビッグサイトで開催された「東京国際航空宇宙産業展(ASET)2011」では、260社・団体が出展、B787に代表されるような高速航行・燃費改善につながる軽量化、安全性を向上させる高耐久性の材料・部品技術、生産性を向上させる加工技術などが多数出展された。
B787の世界初就航記念特別展示として、その1/25スケール模型が展示された傍で、代表的な技術として機体重量の50%に採用されたCFRPの技術が紹介されていた。CFRPはアルミより軽く、鉄より高い比強度、チタンより高い弾性率を持つほか、継続的な負荷に対する優れた強度を持つとともに、歪みにくく摩耗しにくい複合材料。このため軽量化による省燃費化を目的に、B787のほか仏エアバス社のA380など新世代旅客機で採用が相次いでいる。
しかしCFRPは難削材で、航空機部品で部材接合のために行う穴あけ(ドリリング)などCFRPの切削加工では、積層されたファイバーが穴の出入口などで剥離することで表層剥離や層間剥離、盛り上がりなどが生じる「デラミネーション」などの不具合が発生しやすい。切削加工時の切削抵抗が生じたのに対して、その反力によってデラミネーションが発生するため、この切削抵抗を下げ分散させる工具形状や、ファイバーをせん断するための鋭利な切れ刃と耐摩耗性が必要とされる。これに対しオーエスジーの複合材加工用ドリルでは、Wアングルドリルやトリプルアングルドリルとすることでドリル切れ刃が繊維の軸に対し大きな角度でせん断することになり、切削抵抗の反力を穴の軸方向でなく半径方向に分散させたほか、超微結晶ダイヤモンドコーティングにより切れ刃をシャープに保ち工具寿命を伸ばしている。
CFRPの適用が進んでいるとはいえ、ジェットエンジン1基に使用される素材のうち3~4割は1100℃という耐熱性を有する高いチタン合金が占め、ファンブレードやファンディスク、低圧・高圧圧縮機ブレード、静翼などの主要なチタン合金製部品の加工でも、難削材ゆえの加工性を改善する工具や加工剤の技術が求められている。難削材の加工では工具刃先が高温化しやすく、摩耗が進み工具寿命が低下する。これに対し出光興産( http://www.idemitsu.co.jp )では、この冷却性を高めつつ、相反する高温での潤滑性、刃先での潤滑性・冷却性を発揮させる浸透性を高いレベルでバランスさせたソルブルタイプの水溶性切削油「ダフニーマスタークールWT」を紹介した。チタン合金のミーリング加工では、同切削油が潤滑・冷却の有効成分が刃先まで到達することで刃先の熱的負荷を低減させるため、難削材用従来エマルション切削油に比べて工具寿命が約5倍に向上するという。
ところで、ジェットエンジンでは大量の空気を取り込み圧縮した上で燃料を噴射、点火し爆発させて大きな推進力を得るため、タービン入り口温度を高温、高圧にするほど効率が上がることから、過去10年間にジェットエンジンのガス入り口温度は1,100℃ から 1,230℃に上昇、ガス自体の温度も1,550℃と高温化している。この高温と厳しい運転条件のため、タービンブレードなどの高温になる部品では摩耗や疲労破壊、腐食、酸化が進みやすい。これに対してDKSHジャパン( http://www.dksh.jp )では、タービンブレードやステーターなどのジェットエンジン部品にアルミニウムのディフュージョン膜を作る、イオンボンド社のBernex CVA (Chemical Vapor Aluminizing) コーティング装置を紹介した。CVAコーティング装置は特に、タービンブレードの内部冷却チャンネルのコーティングプロセスとして適用できるとしている。
このほか、航空機部品のトータル加工のニーズに対応すべく、東京都が都内の中小企業10社で構成する共同受注組織AMATERAS( http://www.amateras-tyo.biz )では板金・プレス加工から放電加工、レーザ加工・電子ビーム溶接、切削・機械加工、絞り加工、表面処理、熱処理、組立・整備までをカバー、先ごろ米航空機部品メーカーから圧力調整用のプレッシャーレギュレーターバルブなどの部品を初受注している。
鉄道などと旅客シェアを競う民間航空機では、低コスト化を実現する燃料消費の抑制やメンテナンスコストの削減が不可欠となっている。こうしたニーズの高まりの中で、上述のような中小企業の活躍する場面も増えてくるものと見られる。省燃費化やロングメンテナンス化を実現するべく、軽量化や高い耐久性を図る材料や表面改質技術、加工技術、潤滑技術などがますます求められている。