第114回 世界に発信した日本の強み、次世代高速車両リニア新幹線
第114回 世界に発信した日本の強み、次世代高速車両リニア新幹線 11月13日~14日、横浜で開催された「2010年日本APEC首脳会議」では、地域経済統合、成長戦略、人間の安全保障を中心に、アジア太平洋の将来像について議論を行い、首脳宣言として、APECがさらに緊密に高度化した経済統合で結ばれ(緊密な共同体)、質の高い成長を実現できる強い共同体(「強い共同体」)であり、安全で、安心して経済活動を行える共同体(安全な共同体)に向かっていくという「横浜ビジョン」で合意した。具体的には、ボゴール目標達成評価を行った上で、アジア太平洋地域での地域経済統合を更に推進するために、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築に向け具体的な行動を取ることとなった。また、世界の成長センターであるこの地域として初めての、長期的かつ包括的な成長戦略をとりまとめた。また人間の安全保障の課題に対処するため、食料安全保障、防災、感染症への対応、腐敗対策、テロ防止などの分野に注力していくこととなった。
最高時速502kmの超電導リニア新幹線
ところで今回の開催にあたり、来日した首脳らに対し、日本政府は、地元自治体である横浜市・神奈川県とともに、心からの歓迎の意を表し、地元自治体等との連携のもとに宇宙から帰還した小惑星探査機「はやぶさ」など最先端技術やものづくり、伝統文化や現在の美術などの「日本の強み」をアピールした。特に米国などでも採用を検討している高速鉄道・リニアモーターカーなどが出席者から注目を集めた。
先にJR東海が計画するリニア中央新幹線計画について、国土交通省の審議会は東京-名古屋間をほぼ直線で結ぶルートが最も経済効果が高いとする試算を公表した。2045年に直線ルートで全線開業し東京-大阪間が67分で結ばれた場合、沿線地域の企業への経済効果を年間8,700億円と見ている。
さて、この超電導リニア新幹線は、車両に搭載した超電導磁石と地上コイルの間の磁力で車両を10cm浮上させ、最高時速502kmの超高速で走行する。
車両は基本的に非接触で浮上、ガイドウェイ(従来の鉄道の軌道)に案内され、推進するが、超電導機構での安全性や高速走行での信頼性を向上するメカニカルな機構も備えている。
電導機構での安全性、高速走行での信頼性を向上するメカニカルな機構
たとえば超電導磁石の磁界から乗客を守るため、プラットホームには、飛行場のボーディングブリッジのような乗降設備を設けている。この乗降設備により磁界は遮蔽され、安全に車両に乗り降りできる。伸縮方式の乗降設備は通路自体が4層のボックスからなり、乗降時にはジャバラ状に伸びる伸縮式のものとなっている。回転方式の乗降設備は床と両側面の3面のボードからなり、乗降時にはホーム側から一対の扉が90°回転し、床面はスライド板が出て通路を構成する回転扉式のもの。
また、分岐装置(ポイント)は列車が進路を振り分けるために必要不可欠な装置。この分岐装置には、使用目的に応じた列車速度の違いから高速用、低速用、車両基地用の3種類がある。車両が基準線側(直線側)を高速浮上走行し、分岐線側(曲線側)を低速車輪走行する区間にトラバーサ方式の分岐装置を採用している。トラバーサ方式は、ガイドウェイをいくつかの横方向に移動可能な桁(可動桁)に分割して、移動させることにより、進路を構成するもの。山梨実験線では、この桁を移動させるための動力として、電動方式と油圧方式の2種類を採用し、試験を行う。始点や終点のターミナル駅等の基準線側、分岐線側を低速車輪走行する区間に側壁移動方式の分岐装置を採用している。側壁移動方式は、桁を移動する代わりに側壁だけを上下、左右に移動させて進路を構成するもの。分岐装置の前端部と後端部は側壁を左右に、中間部は側壁を上下に動かすようになっている。
時速500kmの高速からの制動力を実現するのは通常は電力回生ブレーキだが、バックアップブレーキとして発電抵抗ブレーキ、コイル短絡ブレーキ、空力ブレーキ、車輪ディスクブレーキを備えており、超電導効果が発現しない非常時でも安全に停止することができるようになっている。
今後もグリーンエネルギーとして注目されるリニア新幹線
今回のAPECでは、各国・地域から経済危機から回復しつつあるこの時期にAPECが初めて長期的・包括的な形で成長戦略を策定していくことが時宜にかなっているとして強い支持があった上で、「均衡ある成長」「あまねく広がる成長」「持続可能な成長」「革新的成長」「安全な成長」という柱に沿った形で、それぞれの取組の重要性について議論が深められ、特にグリーン成長や構造改革の分野での具体的行動を求める声が相次いだ。このグリーンエネルギーとして各国が注目するのが中でも環境負荷が少ない高速車両の技術である。中国でも新幹線の技術を導入し高速車両を輸出し始めているが、その実績は少ない。それに対しわが国の新幹線は、高速車両として半世紀の安全神話を誇る。グリーンエネルギーに貢献し都市間を超高速で結ぶ高速車両の最高峰、リニア新幹線に世界中の視線があらためて集まってきている。