第89回 ものづくりのノウハウ導入で植物工場の低コスト化を!
第89回 ものづくりのノウハウ導入で植物工場の低コスト化を!日照不足などの天候不順から野菜が異常に高騰したことなどもあって、「植物工場」が注目されている。植物工場とは、施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分など)を制御するなど、栽培に適した環境を人工的に作り計画的に植物を生産するシステムをいう。天候や土などの自然環境に左右されず、野菜や花を大量生産し、安定供給を図るもの。たとえばキユーピーが開発を進める植物工場「TSファーム」では、三角パネルと噴霧耕を利用した立体水耕栽培で、定時、定量、定品位のサラダ菜やリーフレタス、ホウレンソウ、ハーブなどの工業的な生産を試みているほか、サンドウィッチを扱うサブウェイでは、未来型ファーストフードとして植物工場を併設した店舗を提案、地産地消をさらに進めた「店産店消」というスタイルを提唱している。
植物工場には閉鎖環境で太陽光を使わずに人工光のみで生産を行う「完全制御型」と、温室などの半閉鎖環境で太陽光の利用を基本にして雨天時の補光や夏期の高温抑制技術などを行う「太陽光利用型」がある。完全制御型を例にとると、一般に人工光の照度、日長、温度、湿度、養液PH/EC、液温、CO2などを自動制御して、栽培に最適な環境を維持する。そこでは主に、各種センサ、コントローラ、CO2供給装置や養液供給装置を含む栽培装置、各種光源、空調などが稼働している。
しかし完全制御型植物工場では100gのレタスを作るのに約150円とコスト高になるという課題がある。そのコスト試算例を見ると、設備償却費などが38%、人件費が31%、水道光熱費が16%、その他が15%で、意外に人手がかかっていることがわかる。そこでロボットなど自動化を進め、コストを圧縮する試みが進められている。現在、栽培した作物の収穫や包装、苗の移植作業はほぼすべて手作業で行われるが、苗を栽培パネルに植込む作業ロボット自動植機では、定植作業の大幅な省力化が図れる。そのほか人件費を抑える自動化として、を支えるツールとして、搬送機能を備えたムービングベンチや、植物の生育に合わせ間隔を広げる搬送機構を備えたスペーシング装置などの搬送装置の導入も進んできている。これら搬送装置では、食物となる製品を扱うため、半導体製造装置で使われるようなクリーン化技術が適用されている。真空仕様のサーボモータや低発塵仕様のボールねじや直動案内などである。
1974年にわが国初の植物工場の研究に着手した日立製作所では、コスト圧縮にはこうした自動化のほか、ものづくりの技術を導入することで解決できるとしている。温度管理に省エネのヒートポンプを使ったり、光源に効率的なLEDを使ったりという具合である。農林水産省と経済産業省は農商工連携の推進のため、農商工連携促進法を制定、今後3年で生産コストを30%、植物工場を3倍に増やすことを目指している。食糧自給率の低いわが国において、内需型産業である農業にわが国の得意とする製造業の技術を導入することは、新しい内需型産業の創出にもつながる。引き続き、ものづくりのノウハウを融合した、コストパフォーマンスのよい食品工場の普及に期待したい。