第81回『恐怖のメロディ』
第81回『恐怖のメロディ』本作はジョー・ヘイムズ原作、クリント・イーストウッド初監督、主演の作品であり、ストーカー・ホラーの走りである。
ディスク・ジョッキーとして、モントレイ半島のローカル局KRMLラジオの花形DJ、デイブ・ガーランド(クリント・イーストウッド)のもとに、決まった時刻に若い女の声でジャズの名曲「ミスティ」のリクエストが届くようになる。彼にはチャーミングな恋人トビー(ドナ・ミルズ)がいたが、ある事情で町を離れている。そんな折のある日、リクエストの主で情欲的な女性イブリン・ドレイバー(ジェシカ・ウォルター)が、デイブが事務所がわりに使っているバーに現れ、二人はそのまま彼女のアパートへ。デイブには行きずりの女性でしかなかった彼女はしかし、いつしかデイブのアパートにたびたび訪れるようになる。さらには町に戻ってきたトビーとデイブが一緒の場面を目撃するや、デイブのアパートに怒鳴りこみ、散々わめき散らしたあげく、浴室に立てこもりに手首を切る始末。彼女をむげには追い出せなくなってしまうデイブだが、そこにイブリンの異常な行動が追いかけていく。
デイブはDJなので、しゃべりのほかにレコードをかけるといった放送シーンがたびたび登場する。人気DJデイブの持ち時間は長いらしく、席を離れることもあるようだ。何しろラジオなので声だけ聞こえればいい。離籍のときデイブは、録音しておいたテープを流しておく。それはテープを再生機にセットするというものではなく、オープンリール式再生機のヘッドやテープ送りの部分に手でテープを巻き付けるのである。リールに巻き取られたテープを記録装置に装着し、記録/再生用のヘッドやキャプスタン、ピンチローラーというテープ送り機構を経由して、巻き取り側のリールに巻きつけられ、記録/再生が行われる。本作は1971年なのでこの後に、モータの軸受や潤滑性のよいエンジニアリングプラスチックを使ったローラーなどの技術も手伝って、静音性に優れる家庭用VTRが登場、かの「VHS 対ベータ戦争」が勃発することになる。テープ走行系のメカが花盛りのころである。
『ダーティハリー』シリーズのワイルドなイーストウッドと違い、本作の彼は優男である。初監督作に本作を選んだというのは、どちらかというと彼自身のキャラがデイブに近かったりするのか、あるいは自身のストーカー被害体験からかもしれない。どこかセクシーなイーストウッドの一面をのぞかせる一作である。