第77回 新幹線事故に保全管理の徹底を望む
第77回 新幹線事故に保全管理の徹底を望む東海道新幹線で架線が切れて停電し、東京-新大阪間全区間で運転を見合わせ、約15万人の足に影響が出た事故が、実はパンタグラフ部分のボルト付け忘れが原因だった。架線に触れる長さ1,9mの舟体とこれを支えるアーム部分をステンレス製ボルト4本で固定する構造だが、今回壊れた1基はボルトが4本とも付いていなかった。車両基地で摩耗した舟体を交換する際にボルトを付け忘れたという、何ともお粗末な事件だった。
さて、パンタグラフにおいて電気は、架線→すり板→舟体(集電舟)→上枠→下枠→台枠→車両の主回路に流れる。架線、特にパンタグラフが擦れて電気を流すトロリ線には、列車の走行に十分な大きさの電流を流すという電気的特性のほか、パンタグラフとの接触力変動が少ない良好な接触を保つための機械的特性、摩耗しにくく破断することのない材料的特性をバランスよく備えるよう、銅心に銅被覆して強度を高めたCSトロリ線などが開発・適用されている。
一方、パンタグラフにも同様の電気的特性、機械的特性のほか、すり板が摩耗しにくく破損せずトロリ線を摩耗させない材料的特性、風を受けることで発生する揚力(上に浮き上がる力)が適切で、風を切ることによる騒音が小さいなどの空力的特性が求められ、これに対応した新幹線用シングルアーム形パンタグラフが開発されている。前述のトロリ線と直接、高速で摺動する「すり板」では、摩擦特性に優れるカーボンに金属を含浸またはカーボンと金属を混合して焼結する方法でカーボンの摩擦特性に機械的強度の向上と電気的抵抗率の低減が図られたカーボン系すり板が開発、適用されている。
こうした高速走行での長期耐久性を持たせたパンタフラフとトロリ線を設計・開発する上で、ボルトの付け忘れという単純ミスにより、アームが跳ね上がり高圧電流の流れる補助吊架線が切れると異常事態は想定外だろう。トヨタ自動車のリコール事故など、団塊世代の技術者が抜けたことで想定外の事故が表面化してきているのでは、とも言われるが、それ以前の問題だ。関係者にあっては、1964年の開業以来高速性と安全性を実現し、海外に輸出されつつある新幹線の技術も、大量輸送の安全性を守る点検・保全作業の徹底で支えられているということを再確認する必要があろう。