第71回~第80回

第71回~第80回 admin 2010年2月5日(金曜日)

第71回『大脱走』

第71回『大脱走』 kat 2010年2月1日(月曜日)

 本作は、第二次大戦中、ドイツ軍の第3捕虜収容所に収容された連合軍将校全員250人を脱走させようという史実に基づく物語。

 脱走常習者・連合軍空軍将校たちが運び込まれているドイツ第3捕虜収容所にビッグXと呼ばれる空軍中隊長シリル(リチャード・アッテンボロー)が入所するや、連合軍捕虜250名全員を脱走させようという壮大な計画が立てられた。ビッグXの指揮の下、“トンネル王”クニー(チャールズ・ブロンソン)や“独房王”ヒルツ(スティーブ・マックィーン)などが協力して、収容所を囲む鉄条網の外の森へと抜ける数百フィートのトンネル掘りとそれを使った一大作戦が始まった。

 トンネル掘りはまず深さ90cmくらいまで掘り下げた後、そこを起点に地面に平行して坑道を作っていく。収容所の外、森の下からは垂直に上へと掘って脱出口ができあがる。掘り進めながらレールも敷設し、そのレールの上を、掘った土を坑外に運び出すトロッコを走らせる。壁や天井が落盤しないよう貼り付けたセグメントタイルの代わりは、ベッドを解体した木材である。実に掘削機シールドマシンのようである。脱出も出口の番がロープで牽引したトロッコに頭を低くして乗った脱出者がレール上を滑走する。酸素を補給するエアポンプも自製している。エア漏れがないよう革袋で作った蛇腹のシール(ブーツ)まで備えた念の入れようである。

 中立国スイスを目指しバイクで爆走するスティーブ・マックィーンの姿が印象に残っている方も多いだろうが、リチャード・アッテンボローやチャールズ・ブロンソンなど名優の存在感も光る。あらためて見直すと、独房で壁を相手にキャッチボールしたり、芋焼酎を作って皆に振る舞ったりするマックィーンのコミカルな演技も何とも貴重である。

第72回『TAXi』

第72回『TAXi』 kat 2010年2月7日(日曜日)

 本作はフランス・マルセイユの街中を舞台にしたカー・アクション・エンターテインメント。監督はレーサー出身のジェラール・ピレスで、製作・脚本はリュック・ベッソン(監督作は『レオン』『ニキータ』など多数)。

 港町マルセイユ。宅配ピザ屋でバイクの最速記録保持者であるダニエル(サミー・ナセリ)は、恋人リリー(マリオン・コティヤール)との生活を考え、趣味と実益を兼ねてタクシー運転手の仕事を始める。改造車を猛スピードで走らせ乗客の移動時間を短縮、運賃+チップを稼ぐのである。あるときダニエルのタクシーに、運転免許試験に落ち続けている、うだつの上がらない新米刑事エミリアン(フレデリック・ディーファンタル)が乗り込む。彼はベンツに乗った強盗団「メルセデス」を取り逃がしたばかりで、想いを寄せる金髪の女上司ペトラ(エマ・シェーベルイ)にそっぽを向かれ落ち込んでいた。一方、乗客が刑事とは知らず、いつものように取締まりをかいくぐり時速190kmで街中を飛ばすダニエルだが、さすがに御用。ペトラの信頼を得たいエミリアンはダニエルに、免許を返す条件としてメルセデス強盗団の逮捕に協力するよう取引を持ち掛けるが…。

 ところで、ダニエルのプジョー406改造車はボンドカー並みのトランスフォーマーである。特急の依頼が入ると、いったん車を停止、自動ジャッキで車体を持ち上げると、最適なダウンフォースが得られるようフロントウィングとリアウイングが電動アクチュエータにより出現する。さらにタイヤも車体に折り畳まれたかと思うと、F1カー用みたいなトレッドパターンのないスリックタイヤに履き替える。きっと、タイやウォーマーで暖められて50℃くらいになって路面とのグリップ力が高まったやつだろう。もちろんステアリングも付け替える。

 マルセイユの街中をサーキットに、メルセデスとカー・チェイスを繰り広げる刑事と走り屋のデコボコ・コンビ。その顛末は?笑いあり、お色気あり、典型的なフランス映画でありながら、目がくらむようなデッドヒートのシーンの連続は、走りに魅せられた監督の作品であることを思い出させる。

第73回『ザ・コア』

第73回『ザ・コア』 kat 2010年2月14日(日曜日)

 ボストンで心臓ペースメーカーをつけた32名が同時刻に死亡したほか、宇宙では大気圏突入直前のスペースシャトル「エンデバー」が突然制御不能となった。地球物理学が専門の大学教授、ジョシュ・キーズ(アーロン・エッカート)は、その原因が地球の核(コア)の回転が停止しかかっていることを突きとめた。コアの回転は地球の周りに太陽風(スーパーストーム)熱を防ぐ電磁場を形成しているが、回転不全でその電磁場に穴が空きつつあり、放置すれば人類は1年で滅亡するという。回転させるには、原爆を使って1,000メガトンの力でコアを爆撃するしか手だてがない。ジョシュや「エンデバー」を住民の被害なく帰還させた女性副操縦士レッベカ・”べック”・チャイルズ少佐(ヒラリー・スワンク)ら6人のエキスパートを乗せた地中探査船による、前人未到の地下2,000(約3,200km)マイルへの潜行任務が始まった。

 さて、この地中探査船「バージル(地獄の案内人の意)」はスーパー掘削マシンである。ロケットの発射台みたいな巨大な装置にセットされた探査船は、ロケットとは逆に海へと「打ち下げ」られる。原子力エンジンが1,000rpmで回転しながら下へ下へと推進、岩盤にあたる直前に、共鳴チューブから出る超音波レーザーで一気に岩盤に穴を開け道を作りながら進むわけである。超音波レーザーは歯の無痛治療や、輪郭矯正手術なんかに使われる、あれである。ダイヤモンドの岩なども避けながら「バージル」はコアへと近づいていくが…。

 本作は2003年3月公開作品である。同年2月にはスペースシャトル「コロンビア」が大気圏再突入時の摩擦熱で断熱材が脱落、空中分解した死亡事故が起きている。米国民の批判が高まり、宇宙開発に待ったがかかったその時期に公開に踏み切ったのは、ハリウッドならではと言えよう。

第74回『大統領の陰謀』

第74回『大統領の陰謀』 kat 2010年2月22日(月曜日)

 オバマ大統領の支持率が低迷している。オバマ支持を表明し指名獲得の支えとなった米政界の名門ケネディ家が、下院議員パトリック・ケネディ氏の引退表明で政界から姿を消そうとしている。政治の潮流はいつも速い。本作は、1960年の大統領選でジョン・F・ケネディと熾烈な選挙合戦を繰り広げたリチャード・ニクソンを、「ウォーターゲート事件」を暴き大統領の座から引きずり下ろした新聞記者二人の実話を映画化したものである。

 1972年、共和党ニクソン政権時。野党・民主党本部があるウォーターゲート・ビルに、5人の不審者が盗聴器を仕掛けようと侵入した。彼らは大統領選挙に備え必勝を期する民主党のキャンペーンを攪乱するため雇われ、元CIAの情報部員と大統領再選本部の現役の対策員で固められていた。ワシントン・ポスト紙の記者ボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)とカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)は、このウォーターゲート事件に興味を示していた。ニクソン大統領とホワイトハウスのスタッフは「侵入事件と政権とは無関係」との立場をとったが、二人がニクソン再選委員会の選挙資金を追求するうちに、FBIやCIA、法務局もが関与する陰謀にたどり着いていく。

 さて、取材が真相に迫るに従い、二人の命も危険にさらされる。何しろ国家機密を守るためFBIもCIAも必死である。自宅も盗聴され監視されていて、ボブとカールの二人は、表だって情報交換もできない。そこでお得意のタイプライターで「筆談」するわけである。「自分たちの命もねらわれている」とボブがタイプする。1970年代初頭の電動式タイプライターでは、表面に活字が並んだタイプボールが回転しながらインクリボンとプラテンに打ち付け、右に移動していく。それからダイヤルを回して紙を送りボブのメッセージを確認すると、今度は改行してカールがタイプしていくわけである。新聞記者が主役の話だけにタイプライターを使う場面は多く、タイピングのカチャカチャいう音が響き渡っている。

 ニクソン失脚のストーリーは周知の事実であるが、ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンの若き二大スターが生命の危機も顧みず政府要人への取材に奔走する姿は、圧巻である。

第75回『クール・ランニング』

第75回『クール・ランニング』 kat 2010年2月28日(日曜日)

 バンクーバー・オリンピックが熱い。フィギュア・スケートが特に注目されたが、ボブスレーでも日本チームが健闘している。本作は、1988年のカルガリー冬季オリンピックでの常夏ジャマイカ史上初のボブスレー・チームの奮戦ぶりを描いたスポーツ・コメディーである。

 1988年のジャマイカ。オリンピック出場を目指していた陸上短距離選手デリス(レオン)は、予選会の当日、隣コースの選手の転倒に巻き込まれて敗退、抗議に行った選考委員長の部屋で、陸上選手だった父親のもとに元ボブスレー金メダリストのアーブ(ジョン・キャンディ)がスカウトにきていた話を聞く。で、今はジャマイカに住んでいるという。是が非でもオリンピックに出たいデリスは、ボブスレーが何かも知らないまま、押し車レースのチャンピオンで脳天気な親友サンカ(ダグ・E・ダグ)を誘い、今なおジャマイカに住むアーブにコーチを頼みに行く。アーブは不正行為でメダルを剥奪された過去からいったんは断るが、彼らの熱意に根負けして引き受ける。予選会で転倒した張本人のジュニア(ラウル・D・ルイス)と同様に転倒に巻き込まれたユル・ブリナー(マリク・ヨバ)もメンバーに加わり、素人4人のボブスレー猛特訓が開始された。しかし練習するにしてもジャマイカに雪はない。グラススキーのように、急勾配の草原を手作りのそりで駆け下りていく。転覆したりコースを逸れたりの連続の後、ゴールタイム1分を切ることに成功、4人はカルガリーへと旅立った。

 「4人が車体を押して乗り込むまでのタイムは6秒を切らなくてはいけない」というコーチ・アーブの台詞がある。氷上のF1と言われるボブスレーでは16のカーブを持つ全長1,450mの「氷の滑り台」を滑降、最高時速150kmに達する。チームは100分の1秒のタイム短縮に向け、選手のスキルアップと車体の改良に挑んでいる。長野オリンピック日本代表チームにボブスレーの力学解析を行い,タイム短縮に協力した東北大学教授の堀切川一男氏は「蹴り乗り」というスタート方式に加えて低摩擦のボブスレーランナー(刃)を理論的に設計・開発し、ボブスレー日本代表チームを世界トップクラスに肩を並べるまでにレベルアップさせた。堀切川氏によれば、摩擦を10%減少するとゴールタイムが0.6秒短縮されるという。本作でも、車体をひっくり返してボブスレーランナーを磨いている場面がよく出てくる。

 本作は、カルガリー・オリンピックに初出場したジャマイカチームの奮戦記に基づいている。上述の堀切川氏は「ジャマイカチームにだけは勝ちたい」という日本チームの悲願を受け本作を参考にして研究した、という科学的な側面も持っている。

「ジャマイカの人間が冬のスポーツなんて」と地元でも嘲笑された4人だが、リズミカルに車体を前後に揺らした後、「クール・ランニング」(よい旅を!)のかけ声でスタートを切る姿からは、ジャマイカの風土が育んだレゲエのリズムが聞こえてくる。

第76回『フォーエヴァー・ヤング 時を超えた告白』

第76回『フォーエヴァー・ヤング 時を超えた告白』 kat 2010年3月7日(日曜日)

 先ごろ、デンマーク在住の女性が、がん治療開始前に冷凍保存した卵巣を再移植する方法で、世界で初めて第二子を出産した。がん治療のために妊娠が難しかった女性にとって画期的なニュースであったろう。本作は、そんな冷凍保存(コールドスリープ)の実験台になった青年が、50年の時を超えて目覚め、恋人を探すというラブファンタジーである。

 1939年、アメリカ空軍の若きテスト・パイロット、ダニエル(メル・ギブソン)はある日、恋人のヘレン(イザベル・グラッサー)にプロポーズしようとするが、煮え切らないうちにヘレンは交通事故に遭い昏睡状態に陥ってしまう。意識が戻らない恋人を見るのがつらいダニエルは、「ヘレンが目覚めたら起こしてくれ」と友人に託して、友人と軍が秘密裏に進めていたコールドスリープ装置の実験台になると志願した。しかし、第二次大戦が勃発すると装置は忘れ去られ、放置されてしまう。1992年、ナット(イライジャ・ウッド)ら二人の少年は、偶然紛れ込んだ空軍の倉庫で埃をかぶったコールドスリープ装置を発見、開けてしまう。装置の中には、若者のままのダニエルの姿があった。50年の眠りから覚めたダニエルは、彼を父親のように慕い始めるナットとその母クレア(ジェイミー・リー・カーティス)の助けを借り、友人と恋人ヘレンの行方を追うが…。

 さて、ダニエルをコールドスリープ装置に封じ込めた後、研究者たちはバルブを開いて液体窒素を装置内に導入、人体を-200℃の環境に置く。冷凍保存の手法としてはほかに人体から血液を抜き取り、凍害保護物質のような不凍液の類に置き換えるらしいが、ファンタジーなのでその場面は出てこない。真空ポンプで装置内を減圧するシーンはある。大気圧より低い圧力の気体で満たされた真空状態では、熱伝導はほとんどゼロとなる。人体の状態を維持するための断熱処理である。実際に人体の冷凍保存を手がけるクライオニクス研究所によれば、「こうした断熱処理は停電の心配もなく、まさにハイテク魔法瓶のようなもの」とコメントしているが、科学的考証もしっかりしているようである。

 本作は単なるSFラブストーリーではない。軍とFBIがコールドスリープの成功サンプルとして追跡する中、ダニエルがB-25を操縦し振り切るといったアクション・シーンも、見どころの一つである。

第77回『ブリキの太鼓』

第77回『ブリキの太鼓』 kat 2010年3月21日(日曜日)

 本作は、ギュンター・グラス原作、フォルカー・シュレンドルフ監督による、1979年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。

 舞台は第1次大戦と第2次大戦の間のダンツィヒ。カシュバイの荒野で芋を焼いていたアンナ(ティーナ・エンゲル)が放火魔コリャイチェク(ローラント・トイプナー)をスカートの中に匿うという出会いから誕生したアグネス(アンゲラ・ヴィンクラー)は、成長してドイツ人の夫を持つが、従兄のポーランド人ヤン(ダニエル・オルブリフスキ)と愛し合いオスカル(エンゲル・ベネント)を生む。しかしそのオスカルは3歳の誕生日、大人たちの狂態に耐え切れず、自ら階段から落ちて成長を止めてしまうのである。ナチスが台頭していくドイツでヒットラーをはじめとする大人たちの繰り広げる不条理から1cmすらも成長を拒むオスカルの目指すところは…。

 さて、成長を止めたオスカルには、同時にある種の超能力が備わることとなる。彼が太鼓を叩きながら叫び声を上げると、ガラスがき裂し、ひいては粉々に砕けるのである。同じく成長を止めた慰問団のヒロイン、ロスヴィーダ(マリエラ・オリヴェリ)と出会いその能力を披露する際、彼は奇声を発してワイングラスにハートのマークを刻んでいく。これは、まさにガラス彫刻である。サンドブラストに似ている。サンドブラストとはコンプレッサーで圧縮した空気で金剛砂などの研磨剤をガラス表面に吹き付け彫り込んでいく。同じ手法で加工材をガラスでなく金属として粒子を、その表面にぶつけて残留圧縮応力を付与することでギヤなどの疲労強度向上、耐応力腐食割れ向上などに用いることをショットピーニングという。微粒子をぶつける場合はWPC処理になる。ところでサンドブラストでは吹き付ける強さをコントロールすることでデリケートな表現からダイナミックな深彫りまで多彩な表現が可能となる。オスカルの場合は奇声とともに、階段から落ちた際に砕けたモース硬度7くらいの歯か何かのアブレッシブなものをぶつけて、モース硬度5,5程度のガラスを削っているのではないだろうか?

 本作はドイツ第三帝国が蹂躙していくダンツィヒの町で、大人たちが蹂躙していくオスカルの心を、悲惨で混迷した中に恋心やユーモアも交えて綴る異色の大作である。

第78回『重力ピエロ』

第78回『重力ピエロ』 kat 2010年3月28日(日曜日)

 本作は、杜の都・仙台を舞台にした、伊坂幸太郎原作、森 淳一監督による透明感あるミステリーである。

 遺伝子を研究する大学院生・泉水(加瀬亮)と芸術肌の弟・春(岡田将生)は、母(鈴木京香)の命日に、市役所勤めを終え庭で養蜂にいそしむ父(小日向文世)を訪ねる。その日、泉水は、とある壁に描かれた謎めいたウォールペインティングを消している春を見かけ、連れだったのだ。美的感覚が許さないという春は、仙台の町のあちこちに出現しているそのウォールペインティングを消して回っているという。後日、そのペインティングのそばで連続放火事件が発生していることに気づいた春は、泉に事件の謎解き、犯人捜しを持ちかける。それと期を同じくして、春の出生に関わる男が町に戻ってくる…。


遠心分離機イメージ遠心分離機イメージ 物語の中で、兄弟が仲良く蜂蜜を採取する場面がある。巣箱の中から、六角形の巣が見えないくらい表面にびっしりと膜をはった巣枠を何枚か取り出して、その膜をナイフでそぎ落とす。この膜は蜜蓋と呼ばれ、蜂蜜が完熟したころにミツバチが蓋をして密封保存するためのものらしい。六角形の巣があらわになった巣枠を数枚、遠心分離機内の回転ドラムにセットして、機械からせり出したハンドルを高速で回すと、ハンドルの軸先が、すぐば傘歯車で90°に直交したドラムの垂直軸を高速回転させ、遠心分離器のドラムの中で、遠心力により巣枠から蜂蜜が搾り出される。その後フィルタリングされた蜂蜜はバルブを開くや、飴色に流れ出てくるわけである。

 張り巡らされた数々の伏線、絡み合った謎が解けたとき、仲のよい親子、兄弟の家族の愛は重力を超えるのか。ベストセラーながら映像化が難しいとされた、悲しくて優しい物語が、スリリングな展開でつづられていく。

第79回『マーズ・アタック』

第79回『マーズ・アタック』 kat 2010年4月4日(日曜日)

 本作は、ティム・バートン監督、『シャイニング』のジャック・ニコルソン、『007』のピアース・ブロスナン、『エド・ウッド』のサラ・ジェシカ・パーカー、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマイケル・J・フォックス、『レオン』のナタリー・ポートマンなどオールスターキャストにより、火星人の襲来で翻弄される人々を描いたSFパニック・コメディである。

 火星からの飛行体を確認したホワイトハウスでは、合衆国大統領デイル(ジャック・ニコルソン)は、宇宙生物学者のケスラー教授(ピアース・ブロスナン)や核ミサイルで迎撃しようというタカ派のデッカー将軍(ロッド・スタイガー)、対話を求めようとするハト派のケイシー将軍(ポール・ウィンフィールド)らの意見を聞きながら火星人への対応を協議する。一方ラスベガスでは、火星人来訪をネタにひと儲けしようと「ギャラクシー・ホテル」を建設中のアート(ジャック・ニコルソン二役)と、その妻でアル中のバーバラ(アネット・ベニング)は火星人たちを救世主と思い交信を図ろうとする中、政府はアリゾナ州の砂漠で火星人の宇宙船着陸を歓待することになる。しかし、友好的な雰囲気もつかの間、ケイシー将軍も報道レポーターのジェイソン(マイケル・J・フォックス)も歓迎式典に列席した人々は、火星のレーザー銃による急襲で無惨にも殺戮されてしまう。彼らの地球侵略に対処する術はあるのか。

 ところで火星人の襲来を確認したのは、ハッブル望遠鏡である。1990年にスペースシャトル・ディスカバリーにより打ち上げられ、地上約600km上空の軌道上を周回する口径2.4mの可視光線、赤外線、紫外線用大型天体望遠鏡だが、打上げの際に光学系に歪みが発生、1993年にスペースシャトル・エンデバーに搭乗したスタッフにより修理が行われ、各種装置の交換、取付けが行われた。大気による観測上の障害を克服するために考案されたハッブル望遠鏡は、広域惑星カメラ、 微光天体カメラ、高精度分光装置など5種類の観測機器を搭載、地上からの観測で見ることのできる最も暗い天体のさらに1/15の明るさのものまで観測でき、分解能も10倍以上になる。本作は1996年作なので、整備万端である。ロボットアームなどを使って数回の点検修理を受けたハッブル望遠鏡は、2009年の最終点検修理のときにドッキング装置が取り付けられた。2020年以降に無人ロケットにより大気圏まで曳航され、燃え尽きる運命にあるという。後継機としては、星や太陽系、銀河の最初期の形成をスペースデブリなどを通して調べるため、地球からさらに遠い150万km上空で軌道を周回するジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2013年に打ち上げられる予定となっている。

 本作では、火星人たちの乗る円盤の飛行や着陸のシーンもよく出てくる。円盤の底のハッチから折りたたまれた脚の関節が放射状に伸びていき、相撲のシコ踏みの腰割りのような形で着地し姿勢を保つといった、コミカルなメカの動きにも注目したい。

第80回『マッドマックス2』

第80回『マッドマックス2』 kat 2010年4月11日(日曜日)

 電気自動車ばかりが取りざたされる昨今だが、走り屋にとってクルマとは数十年後もガソリン車であろう。本作は石油パニックに陥った退廃的な社会で、ガソリンをねらうハイウェイの殺し屋と一匹狼マックスとのデッドヒートを描くシリーズ第二弾である。

 世界戦争が勃発し中東地域の油田が破壊され石油が枯渇すると、世界は、ガソリンをめぐり暴走族たちが争奪戦を繰り広げる無法地帯となった。暴走族に妻子を殺された元警官のマッド・マックス(メル・ギブソン)は、1973年型フォード・ファルコンXB/GTを改造した愛車「V8インターセプター」に乗って愛犬と共に暴走族を倒しては石油をかき集め、荒野をあてもなく放浪していた。あるときジャイロコプターに乗るジャイロ・キャプテン(ブルース・スペンス)に連れられ、マックスはヒューマンガス(ケル・ニルソン)率いる暴走族がねらう石油精製所を見つけた。マックスは精油所リーダーのパッパガーロ(マイク・プレストン)とガソリンと引き替えに、石油を運び出し「太陽の楽園」に脱出するためのトレーラーを持ち帰る取引を引き受けることになる。

ford 作中、暴走族とマックスのカーチェイスの場面は多い。マックスのV8インターセプターの兵器は、ボンネットに鎮座するスーパーチャージャー。スーパーチャージャーは、エンジンのクランクシャフトからベルトを介して取り出した動力でシリンダー内のローターを回転、空気を圧縮してエンジンに送り込むことで燃焼時の爆発力を高め、出力や加速性能を高める。スーパーチャージャーによりV8インターセプターは急加速して暴走族を引き離すが、暴走族の車にも兵器がある。たぶんナイトロ(亜酸化窒素 N2O)のボンベだ。スロットルを全開にしつつこのボンベのバルブを開くと、ナイトロが燃焼行程で酸素を供給して燃焼を促進したのだろう、暴走族の車はジェット噴射みたいに吹っ飛んで、V8インターセプターを急追するのである。

 本作は1981年のオーストラリア映画で、『フォーエヴァー・ヤング 時を超えた告白』主演メル・ギブソンの出世作である。ストーリーだけ見るとB級映画だが、核戦争後の荒廃したイメージなどがその後のSF映画に多くの影響を与えたとして、意外と評価が高い。