第61回~第70回

第61回~第70回 admin 2008年7月28日(月曜日)

第61回『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

第61回『ライラの冒険 黄金の羅針盤』 kat 2009年10月25日(日曜日)

 本作は、フィリップ・プルマン作ファンタジー小説三部作の第一部「黄金の羅針盤」を映画化したもの。オーディションで1万5,000人以上から選ばれた天才子役、ダコタ・ブルー・リチャーズが主人公のライラを演じている。

 舞台は、この世界と似て非なるパラレルワールドのイギリス。誰もが自分の分身である「ダイモン」と呼ばれる動物の精霊と寄り添い生活している。オックスフォード大学のジョーダン学寮に住む孤児のライラ・ベラクア(ダコタ・ブルー・リチャーズ)は、親友のロジャー・パースロウ(ベン・ウォーカー)たちとの賭けで学長の部屋にしのび込み、叔父のアスリエル卿(ダニエル・クレイグ)が北極で発見したダストに冠する研究資金の件で評議員達にプレゼンしているのを聞いてしまう。ちょうどその頃、子供達が失踪するという事件が相次ぎ、北極に旅立った叔父も行方知れずとなる。ライラの親友・ロジャーたちと叔父の行方について手がかりをつかみたいライラのもとに、コールター夫人(ニコール・キッドマン)から旅への誘いが舞い込む。旅立つライラに学長は、アスリエル卿から預かった「黄金の羅針盤」を手渡した。真実を導く真理計だという。コールター夫人とロンドンに旅立ったライラだったが、子供たちをさらったゴブラーのリーダーが夫人だと知って逃げ出し、子供たちを取り戻そうとするジプシャン族とともに、肩にダイモンのパンタライモンをのせ、黄金の羅針盤が示す北極に向かう。

スパイ・フライスパイ・フライ ところで、ここで登場するメカはすべて黄金である。ロンドンに向かうツェッペリン型飛行船も、三つの針が回転したのち文字盤の36の絵を指し真実を示す羅針盤も、コールター夫人が放ったゼンマイ仕掛けの虫型ロボット「スパイ・フライ」も。フライといっても蝿よりも、バッタに似ているようだ。長距離を飛び続け襲撃するところも、群れをなし変態したトノサマバッタっぽい。翅をこすり合わせて音を立てて飛ぶところがリアルであり、ちょっとゼンマイを巻いただけで何日間も稼動しているのは、かなり省エネで環境にやさしいメカである。ちょっと凶暴ではあるが…。

 魔女も熊の王も登場するファンタジーながら、妖艶なニコール・キッドマン演じるコールター夫人の存在が、ストーリーを引き締めている。きれいなブロンドに黄金のドレス、黄金の猿のダイモンを肩に乗せている。子供が観る作品ということもあってか、いつになく露出は抑えぎみだが、相変わらずセクシーな内に複雑な感情を秘めている。原作者から出演をオファーされたお墨付きのキャストである。興行成績が堅調にもかかわらずリーマンショック後の不況で続編政策がストップし、彼女の演技の続きが見られないのはちょっと残念に思う。

第62回『ピンク・パンサー2』

第62回『ピンク・パンサー2』 kat 2009年11月2日(月曜日)

 数年前にスティーブ・マーティンがクルーゾー警部を演じた同名のリメイク映画があるが、今回紹介するのは1975年の作品となる、ブレイク・エドワーズ監督、ピーター・セラーズ主演のシリーズの第3作である。

 中東の国・ルガシュの博物館から「ピンク・パンサー」の異名を持つ世界屈指のピンクダイヤが盗まれた。ルガシュの首脳はかつて盗難にあったピンク・パンサーを取り戻した実績のあるパリ警察のジャック・クルーゾー警部(ピーター・セラーズ)に依頼、クルーゾーはルガシュへと旅立つ。現場検証の後、かつての宿敵・怪盗ファントムことチャールズ・リットン卿(クリストファー・プラマー)の仕業と確信したクルーゾーは、卿の行方を追い南フランスへと向かうが…。

 冒頭で怪盗ファントムらしき人物が、博物館からピンク・パンサーを盗み出すシーン。ピンク・パンサーの周囲には、無数のセンサーが張り巡らされている。ひとたびセンサーに引っかかれば、すべてのシャッターが自動的に閉ざされる仕組みで、逃げ場はない。怪盗はスプレーでセンサーの位置を確かめると、ボウガンのようなものを使って、先端に楔のついたロープをセンサーより低い位置、数m先のピンク・パンサーの展示台近くの壁に打ち込み、ロープを張り渡す。センサーを避けるように、ロープを伝って背中で進むというわけである。このとき、オイルを床に撒いて、その上にシートを置き、シートの上に寝転ぶ。これで潤滑をよくして、ロープをつかみながら、スルスルッと背中で宝石のところまで進む。そこでマジック・ハンドを2個使って、宝石をキャッチするのである。さながら若田宇宙飛行士が、ロボット・アームで「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームと船外パレットを国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けたかのような精緻な作業である。

 こんな作業はとてもできそうもない、人並みはずれて不器用で、極端に人を信じて疑わないお人よしの本家クルーゾー警部。天然のズッコケぶりで行くところ破壊行為を繰り返しつつも、なぜか憎めないキャラクターは天下一品で、抜き足、差し足、忍び足みたいなヘンリー・マンシーニのおなじみのテーマ曲も手伝って、やみつきになるシリーズである。

第63回『大いなる眠り』

第63回『大いなる眠り』 kat 2009年11月23日(月曜日)

big sleep 本作はレイモンド・チャンドラー原作で、独特なまなざしから“スリーピング・アイ”の異名を持つロバート・ミッチャムがハードボイルド探偵、フィリップ・マーロウを演じている。ヒッチコック作品で常連のジェームス・スチュワートも老将軍役で登場する。

 私立探偵フィリップ・マーロウは、スターンウッド将軍(ジェームス・スチュワート)の次女カーメン(キャンディ・クラーク)がゆすりにあっている件で、ロンドン郊外の将軍家に呼ばれる。マーロウが脅迫状の差出人の家にたどり着くと、銃声が。家の中へとびこんだが、そこはゆすりのネタ、カーメンのヌード写真を撮影している現場で、薬漬けで全裸のカーメンと頭部を撃ち抜かれた脅迫者の死体があった。事件を追ううちに、長女ヴィヴィアン(サラ・マイルズ)の夫の失踪、夫が出入りしていたロンドンの賭博場の顔役などがからんでいく…。

 さて、物語の冒頭、マーロウが招かれたのはスターンウッド将軍の温室、ビニールハウスである。重油ボイラーによって冬場でも30℃以上に保たれている、あれである。車椅子の将軍が依頼の長話をしている間、ダークスーツをダンディーに着こなしているマーロウはもちろん、ネクタイを緩めはしない。スコッチを勧められるが、生ビールか、ロンドン・ギネスのほうがいい、観ているものにもそう感じられる暑苦しい場面である。ところで原油高騰で問題になったように、ビニールハウスでは大量の重油が使われる。これに対し最近ではCO2削減の見地から、太陽電池と燃料電池を組み合わせた発電システムなどの試行も始まっている。なんにしても、植物のコンディションに合わせた温調設備が老将軍のコンディションによいかどうかは謎である。

 フィリップ・マーロウはロサンジェルスの私立探偵だが、今回の舞台はロンドン。マーロウの好むジンベースのカクテル、ギムレットは本場としても、愛車のキャデラックはそぐわないためか、登場しない。何と彼が運転するのはメルセデス・ベンツである。1日25ドルの日当と実費というしがない稼ぎからはしっくりこないアイテムばかりだが、ダンディズムの演出ということで大目に見るとしよう。

第64回『ジョー・ブラックをよろしく』

第64回『ジョー・ブラックをよろしく』 kat 2009年11月30日(月曜日)

 本作は、死神が人間に恋するファンタスティック・ラブストーリーである。死神が若い女性に共感して運命を変えてしまうのは、伊坂幸太郎の原作を映画化した『死神の精度』だが、本作にヒントを得ているような気がする。もっとも、本作で連れて行こうとしているのは若い女性ではなく、その父親だが。

 スーザン(クレア・フォラーニ)はカフェで若い青年と隣り合わせ、意気投合して結婚観などについて語りひと時を過ごす。別れ際、互いに恋に落ちたことを打ち明けて別れる二人だが、青年は次の瞬間には車にはねられ、死神に身体を奪われる。それが、スーザンの父親で大富豪のパリッシュ(アンソニー・ホプキンス)を迎えに来た、死神ジョー・ブラック(ブラッド・ピット)である。スーザンは彼の姿を見るなりカフェでの想いがよみがえるが、死神のジョーに死んだ青年の記憶はない。だが、連れて行くその日までパリッシュのそばに付き添い、会社の経営危機に際しアドバイスをしたりなどしているジョーは、スーザンとの出会いを重ねるうちにいつしか彼女に惹かれていく。

 ところでジョー・ブラックとして登場する前の青年は、スーザンと別れ、道を横断しようとするときに双方向から車にはねられる。これは即死だろう、観るものにそう思わせる吹っ飛び方だ。それでなんとなく、あの車が衝突安全ボディーだったら、と考えた。衝突安全ボディーの考え方は近年、衝突時に乗員を保護するだけではなくなっている。歩行者傷害軽減ボディーというやつで、衝撃吸収素材と衝撃吸収構造によって歩行者の被る傷害をも軽減させる。たとえばトヨタでは、2001年のプレミオ以降、エンジンフード、カウル周辺、ワイパーピボットには衝撃吸収構造を採用し、歩行者の頭部への衝撃を緩和したほか、フロントバンパー裏には衝撃吸収構造を設定し、脚部への衝撃も緩和している。こんな車だったら青年も吹っ飛ばされることもなく、死神が入り込む隙もなかったかもしれないが、それではジョー・ブラックが登場できない。

 ジョー・ブラックはあの世に連れて行こうというパリッシュに、現世での案内役を頼む。ピーナッツ・バターにはまったりと、スポンジのように現世の出来事を受け入れる衝撃安全ボディーのように柔軟で無垢な死神を演じる、個性派ブラッド・ピットのおどけた演技の妙も見どころである。

第65回『冷たい月を抱く女』

第65回『冷たい月を抱く女』 kat 2009年12月6日(日曜日)

kidman 本作は、ある夫婦と友人の医師が織りなすサスペンス。

 大学の学長補佐アンディ(ビル・プルマン)は、大学付属病院の小児科で働く妻トレイシー(ニコール・キッドマン)と新婚生活を送っていたが、家の補修費用を捻出するため、高校の同級生で天才的な医師ジェッド(アレック・ボールドウィン)に部屋を貸した。原因不明の腹痛に悩まされていたトレイシーはあるとき、激しい腹痛で倒れ病院に運ばれ、ジェッドの執刀で緊急手術を受けることに。トレイシーは卵巣の一つが破裂し、もう一つもねじれて壊死しており、しかも妊娠していたが、ジェッドは生命の危機を救おうとアンディの許可を得て、二つの卵巣を除去、トレイシーは子供を産めない体となる。しかし後日の病理検査の結果、壊死は表面上だけで卵巣は正常だった。トレイシーはこれを理由にアンディと別れ、また病院を相手に訴訟を起こし多額の示談金を受け取る。しかしこれは、トレイシーと愛人のジェッドの共謀によるもので、卵巣の壊死は妊娠促進剤を多量に注射したことによるものだった。

 アンディが彼らの共謀に気づいたのは、ベッドの脇に落ちていた注射器に微量の妊娠促進剤が残っていたからだった。注射器はわずかなすき間に空気の膜ができるように筒の内側にブラスト処理をしている。エアベアリングの動圧溝のような役割で、実は押し子(プランジャ)を持って筒を回すと実に抵抗なく回る。そんなことはどうでもいいが、プランジャ先端のゴムシールも手伝って、封入した薬液は漏れ出すことはない。しかも薬液が完全に使い切られることはなく、薬液が残ってしまうことから、新型インフルエンザワクチンの有効利用という点で問題になっていた。先ごろこれに対しテルモが、針の付け根に向かって絞ってある筒の先端形状を、円すい型ではなく円筒型にして、注射器に残るワクチンを10%減らすことに成功した。この新型注射器を使っていたら、トレイシーたちも完全犯罪が可能だったかもしれない。

 名男優二人を従え、またしても美女ニコール・キッドマンの悪女ぶりが冴えわたる一作である。

第66回『デスペラード』

第66回『デスペラード』 kat 2009年12月13日(日曜日)

 麻薬組織のボスに恋人を殺されたマリアッチ(ミュージシャン)の復讐劇を描いたロバート・ロドリゲス監督作のバイオレンス・アクション。全般的に殺伐とした映像が続くなか、「ラ・バンバ」のロス・ロボスの音楽がラテン系に盛り上げるほか、友情出演のクエンティン・タランティーノらのコミカルな演技が場を和らげる。

 メキシコ国境の町サンタ・セシリア。ギターケースを下げ町に現れたマリアッチ(アントニオ・バンデラス)は、誰もが恐れるギャングのボスで麻薬王のブチョ(ジョアキム・デ・アルメイダ)の命を狙い、一味の取引場所であるバーでブチョの居所を尋ねる。店内の荒くれどもはみんな一味なので白状するわけもなく、店はたちまち激しい撃ち合いの場に。マリアッチを匿う書店オーナーの美女キャロリーナ(サルマ・ハエック)も巻き込んで、組織のボスへの無勢の闘いが始まったが。

 さて、先のバーではあらかじめ、マリアッチの兄弟分がギターケースを持ったブチョを狙う殺し屋のエピソードを大仰に語っていたため、いかにも悪そうな太っちょのバーテンが、ギターケースを手にしたマリアッチが入ってくるや、「ケースには何が入ってる?」と詰問する。初めは穏やかに事を進めるつもりだったマリアッチは「ギターに決まってる」と言うが、もちろん疑って「中身がギターだったら店のおごりにしてやる」と言いながら、仲間にケースの上蓋を開けさせる。ギターが現れ一同が拍子抜けしたのも束の間、ギターらしきものは実は内蓋で、それがゆっくりと持ち上がっていって、その中には武器商人かというくらいの様々な銃が並んでいた。それで戦闘開始、となるわけである。

ロータリーダンパーイメージ(提供:トックベアリング)ロータリーダンパーイメージ(提供:トックベアリング) このギターケースの内蓋がゆっくりと開いた機構はロータリーダンパーであろうか。軸周りに封入したオイルの粘性抵抗によって発生する制動力を利用した回転系のダンパーで、トイレの蓋がゆっくり、静かに閉まったり開いたりする、あれである。

 本作ではマシンガンになるギターケースやロケット弾を発射するギターケースも出てくる。元ギタリストの殺し屋のケースさばき(!?)も見物である。

第67回『ポワゾン』

第67回『ポワゾン』 kat 2009年12月20日(日曜日)

 本作はアントニオ・バンデラスとアンジェリーナ・ジョリーというセクシー二大スターを主演に迎え、ウィリアム・アイリッシュ作『暗闇へのワルツ』をピューリッツァー賞受賞の劇作家で脚本家であるマイケル・クリストファー監督が映画化した官能ミステリー。

 19世紀後半のキューバ。コーヒーの輸出で成功したルイス(アントニオ・バンデラス)は、新聞の交際欄で、仕事を円滑に進めるためだけにアメリカ人妻を募集、その要求に対し、ジュリアと名乗る人女性(アンジェリーナ・ジョリー)がアメリカからやってくる。事前に送られた写真とはまったく別人の美女だったが、外見で選ぶ男かどうか試したのだと告げるジュリアに、ルイスは一目ぼれ、すぐに結婚を決める。しかし彼女の目当てはルイスの財産で、ある日忽然とルイスのもとから姿を消してしまう。だまされてもなお彼女を忘れられないルイスは、彼女を探すうちに真相に迫っていく。

 さて、場面は牢獄での“ジュリア”の罪の告白から始まり、回想の途中で何度か、刑の執行を待つ彼女の告白シーンが入る。牢獄の外で刑の執行人が道具を試している。絞殺刑の道具で、「リッサの鉄柩」と呼ばれる類のものであろうか。テーブルに載った矩形の鉄フレームをイメージしてほしい。フレームの中心をボールねじのようなものが縦に貫いている。ボールねじの手前には執行人が操作するハンドルがついていて、ボールねじの先には首をはめ込むための二つ割りの鉄環がついている。罪人の首を鉄環の中に挟み込んだ後ハンドルを回すと、ねじ送りで鉄環が押し込まれていく。結果的に北京ダックのように首が絞められ折られるという、物騒な道具である。告白シーンのたびに、執行人がそれを操作するさまが、不気味に映し出される。

 本作では、『トゥームレイダー』で男勝りのアクションを見せたアンジェリーナ・ジョリーが妖艶な悪女ぶりを演じているほか、『デスペラード』で殺し屋だったアントニオ・バンデラスが恋におぼれた優男を演じている。どちらかといえばもちろん、アンジェリーナ・ジョリーのベッドでの熱演はみどころの一つであろう。

第68回『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』

第68回『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』 kat 2009年12月28日(月曜日)

 本作は、『シザーハンズ』などのティム・バートン監督がディズニー・スタジオ在籍中から温めていた企画を、全編ストップモーション・アニメーションを用いて実現した人形アニメの感動作。

 ハロウィン・タウンのキング、骸骨のジャック・スケリントンは、ハロウィン演出家として市長や市民たちに絶賛されながらも、毎年のハロウィンの準備に明け暮れることに嫌気がさしていた。彼はある日、相棒の幽霊犬ゼロとともに森を散歩していると、クリスマスツリーの形のドアがある木を見つける。ドアをくぐり抜けるとそこは、町中がクリスマスを祝うクリスマス・タウンだった。初めて見るクリスマスの装いに魅せられた彼は、ハロウィン・タウンに戻るやクリスマスの研究に没頭。とうとう彼は、サンタの代わりにプレゼントを渡そうと、サンタに休暇をとってもらうべくイタズラっ子3人組を派遣するが、3人はハロウィン・タウンの悪役ウーギー・ブーギーにサンタを引き渡し、サンタはとらわれの身となってしまう。

 クリスマス・イヴ。ゼロをトナカイにそりに乗ってプレゼントを配って回るジャックだが、ハロウィン・タウンの住民が作った不気味なプレゼントで被害が続出、ジャックは偽者サンタとして軍隊に攻撃されることになる。このとき手回しハンドルでギヤを回し、レーダーや迎撃ミサイルの姿勢制御がなされる。かなり精密なギヤなのか、標的を精確にとらえることができる。ついにレーダーはジャックをとらえ、ゼロとそりともども、打ち落とされてしまう。

 本作では、撮影自体にもメカが多用されている。たとえばモーション・コントロール・カメラの導入などにより人形の表情の変化をシミュレーションすることなどで斬新な映像を実現、ハロウィン・タウンとクリスマス・タウンを行き来するジャックの喜怒哀楽を、見事に表現している。

第69回『ファミリー・プロット』

第69回『ファミリー・プロット』 kat 2010年1月11日(月曜日)

 本作は、謝礼金目当てに資産家の遺産相続人を捜す男女と、ダイヤモンドを狙い誘拐を繰り返す男女の二つのカップルが織りなす、アルフレッド・ヒッチコック監督の遺作。

 イカサマ降霊術師ブランチ・タイラー(バーバラ・ハリス)は、老資産家ジュリア・レインバード(キャスリーン・ネスビット)の邸宅に呼ばれ、1万ドルの謝礼と引き替えに、たった一人の身内である死んだ妹の息子を見つけ出してほしいと頼まれる。恋人で探偵もどきのタクシー運転手、ジョージ・ラムレイ(ブルース・ダーン)とともにレインバード老嬢の甥エディーの捜索にかかるが、家族とも火事で死んでいるという。しかしその死に疑問を持ったジョージは、フラン(カレン・ブラック)という謎の女と組んで政府高官を誘拐、その身代金としてダイヤを受け取る宝石商アーサー・アダムソン(ウィリアム・ディヴェイン)として生活しているエディーに行き着く。

 さて、エディーの死にジョージが疑いを持ったのは、一緒に死んでいるはずのレインバード老嬢の妹夫婦の墓と甥エディーの墓が別々に並んでいたことと、甥の墓だけが真新しかったため。そこで墓石を加工した石材屋を訪ねる。何人もの職人が原石をダイヤモンドカッターで切断したり、切断した石材を研磨したりダイヤモンドバイトで角をRにしたり、歯科用ハンドピースみたいなもので字彫りしている。現在なら石材屋にこんなに職人を抱え込んでいることはないかもしれない。字彫りにしてもサンドブラストで自動施工というのが一般的だろう。しかも、材料費も加工賃も安い中国で墓石加工を手がけていたら、真相にたどり着くのは容易ではなさそうだ。本作ではほかにも様々なメカが出てくる。誘拐された高官は、アーサー宅の煉瓦の壁の向こうの隠し部屋に閉じこめられる。壁の煉瓦を一つ外すと錠前が現れ、解錠すると煉瓦の壁の一部、ジグソーパズルみたいな形のドアが開くのである。

 本作はバーバラ・ハリスが可憐なコメディエンヌとして活躍、ヒッチコック初期の頃のユーモアも交えたサスペンスの逸品である。

第70回『シャイニング』

第70回『シャイニング』 kat 2010年1月18日(月曜日)

 暖冬と予想されていたこの冬は、連日寒気に包まれている。本作は、コロラドの雪深い山中にあるリゾート・ホテルを舞台に、その管理を任された家族を襲う怨念と狂気を描いた、スティーヴン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督のホラー映画。

 作家のジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)は、妻のウェンディ(シェリー・デュヴァル)と息子ダニー(ダニー・ロイド)とともに、冬の間閉鎖するリゾート・ホテル「オーバー・ルック・ホテル」の管理人として住み込むことになる。だがそのホテルでは、前任者の管理人が孤独な生活のために発狂し、妻と二人の娘を斧で殺し自殺したという。「シャイニング」と呼ばれる幻視能力を持つダニーは、ホテルに着くや、エレベーターの扉から流れ出る大量の血と、その前に立ちつくす双児の少女の姿を幻視する。一方、ジャックは一向に進まない執筆への苛立ちから次第に不安定な状態に陥り、ついには前任者の怨念に取り憑かれ、斧を持って家族を恐怖に駆り立てていく。

 さて、雪深い山奥のホテルに物資を届ける唯一の手段は、雪上車である。歩行の難しい、軟らかい積雪の上を走行しなければならないうえ、登坂、旋回などの運動性もより求められるため、雪上車の接地圧力は0.12kg/cm2以下にして、積雪での運動性能を確保している。そこで駆動輪に無限軌道のゴム・クローラーというものを履かせるわけである。エンジンブレーキの利きもよく、安全性も高い。母子は雪上車で脱出できるのか。ジャックの斧でのすさまじい追撃をかわせるのか…。

 近年は『恋愛小説家』などでユーモラスな顔も見せているジャック・ニコルソンだが、斧でドアを突き破って母子に襲いかかる狂気にあふれた演技は圧巻である。