第041回~第050回
第041回~第050回第41回 機械保全の水際対策、監視・診断技術
第41回 機械保全の水際対策、監視・診断技術世界各地で猛威をふるい国内でも約50名の感染者が確認されている新型インフルエンザの水際対策として、NECでは本社ビル入口に「赤外線サーモグラフィシステム」を設置、新型インフルエンザ対策の実証実験を重ねてきたという発表があった。同システムは、新型インフルエンザ症状の特徴である38℃以上の高い発熱を、非接触・高速で温度計測し異常温度を検知した場合警報を発するもので、同社グループ企業のNEC Avio赤外線テクノロジーが手がけている。同システム25台が日本政府を通じてメキシコ政府に送られ、空港の検疫所などで使われる予定だ。
赤外線サーモグラフィとは、対象物から出ている赤外線放射エネルギーを検出・可視化して、温度測定・温度計測・温度分布の画像表示を行う装置。
(1)面の温度分布として捉え、可視化情報として表示できる
(2)対象物から離れたところから非接触で温度測定ができ、動いているものや、危険で近づけないものでも、簡単に温度計測できる
(3)リアルタイムで温度計測ができる
といった特徴から、今回のような熱計測だけでなく、実は機械の非破壊検査、劣化診断、品質保証や保全管理などでも使われている。
機械用途としては、切削、研削、軸受、モーター、タイヤ、熱処理、配管、熱処理、ボイラーなど多岐にわたる。たとえば回転機械の診断では、軸受の異常な温度上昇を早期に発見、軸受の焼付きによる機械の突然停止を予防する。軸受の温度上昇などの故障因子から、軸受の取付けや潤滑などのデザインの見直しにもつながる。
1966年に英国で鉄鋼所の潤滑管理を見直すことでGNPの1%超の経費を削減できるというジョスト報告から、摩擦・摩耗・潤滑に科学的・技術的に取り組む「トライボロジー」という概念が生まれた。自動車エンジンでのトライボロジー技術の適用では低フリクション化による燃費改善が図られているが、機械の管理に適用することで故障・突然停止を予防できる。
赤外線サーモグラフィのほか、軸受診断では異常振動を検知する振動計や材料の亀裂の発生や進展などの破壊に伴って発生する弾性波を早期に検知するAE(アコースティックエミッション)などがあるが、機械の安定稼動、長寿命化を図り、ランニングコストを低減できるほか省エネ、省資源、地球環境保全にも貢献するこうした監視・診断技術が、機械保全の水際対策として活用されていくことに期待したい。
第42回 優れたメカによる省エネ家電の選定・購入を!
第42回 優れたメカによる省エネ家電の選定・購入を!5月15日から、省エネ家電の「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業」(エコポイント制度)が始まった。今回のエコポイント制度は、地球温暖化防止、経済の活性化、地上デジタル放送対応のテレビの普及を目的として、省エネ性能の高いエアコン、冷蔵庫、テレビの購入者が購入額の一部をポイント数として受け取り、次の買い物のときにポイント分を値引きしてもらえる仕組み。
家庭部門のCO2排出量のうち、約7割弱が電化製品によるものとなっており、約5割がエアコン、冷蔵庫、テレビで占められている。また、エネルギー効率の低い旧型品を省エネ型製品に買い換えることで、適正にリサイクルがなされれば、より高い環境保全効果が期待できる。こうした観点から、優れた省エネ性能を客観的に判別でき、かつ、家電リサイクル法において買い替えの際にリサイクルすることが定められた電化製品を対象とすることが適当であり、省エネ性能を5つの星で表した「省エネ統一ラベル」で4つ星相当以上のエアコン、冷蔵庫、テレビをエコポイントの対象とすることとしたもの(省エネルギーセンターの省エネ製品情報( http://www.eccj.or.jp/labeling_program/ )を参照)。エアコンは出力数、冷蔵庫は容量、テレビは画面のサイズによってポイント数が異なり、最大(46V以上)で3万6,000円分のポイントが付与される。ポイント交換は8月からになる見通し。
家庭内消費エネルギーの約25%とトップを占めるエアコンの省エネ技術を見てみよう。
たとえばルームエアコンで省エネ大賞通算8回目の受賞となった東芝の「大清快」PDRシリーズは、省エネ性能向上のため、全損失の約60%を占める部品間のしゅう動損失と漏れ損失の低減に取り組んだ。
ロータリーコンプレッサーの圧縮機構部はベーンによって仕切られたシリンダー内をローラーが回転することで吸い込みと圧縮を繰り返しており、部品間のしゅう動部で損失が発生している。そこでこの損失改善と漏れ損失改善のため、薄型シリンダーを採用するとともに、上下のシリンダーで独立に2本あった吸い込み管を1本化し、内部の仕切り板で分岐させるという方式「1サクション方式ツインロータリーコンプレッサー」を採用した。この方式により吸い込み抵抗を増大させずにシリンダーの薄型化に成功、2007年度搭載コンプレッサーに対し約2.8%の効率改善を達成した。
これらの改良で、冷房と暖房をそれぞれ3.6ヵ月、5.5ヵ月使用したと仮定して算出される期間消費電力量は、10年前の「大清快」から約34%低減された。通年エネルギー効率(APF。1年間、1kW当たりの冷房・暖房能力)は6.2ポイントとなり、同社ではこれを業界トップの数値としている。削減された電力量をCO2排出量に換算すると、1台で杉16本が吸収する量に相当するという。
省エネ化により地球環境保全に貢献するエコ家電。優れたメカにより消費電力低減、CO2排出抑制にも貢献する本物のエコ家電を見極めつつ、地球環境保全と消費拡大に貢献していきたいものである。
第43回 ガンの早期発見・低侵襲医療を図る内視鏡技術
第43回 ガンの早期発見・低侵襲医療を図る内視鏡技術富士フイルムが鼻から挿入する高画質・広角タイプの経鼻内視鏡を開発した。口から挿入する従来の経口内視鏡検査に比べて、経鼻内視鏡は嘔吐感が少なく、会話もできることから、医師からも患者からも「コミュニケーションをとりながら、安心感のある胃の検査ができる」、「麻酔が最小限に抑えられ日常生活に早く復帰することができる」などと好感され、採用が進んでいる。今回の開発ではさらに、140°という広い視野角で観察範囲を拡大したほか、モニター画面の表示画像も約1.5倍とし、胃ガンの早期発見に貢献するとしている。
内視鏡のシステムは、ビデオスコープとビデオシステム本体(カラーモニター、ビデオプロセッサー、光源装置)の二つに大別される。ビデオスコープは、操作部、挿入部、先端部、接続部(コネクター部)からなり、接続部(コネクター部)がビデオシステム本体につながり、伝達される画像はモニターで観察、このモニターには最先端技術のCCDと極細スコープで高精度画像が送られる。
操作部には、内視鏡の湾曲を上下左右に制御するアングルノブ、送気送水ボタン、吸引ボタンや処置具を挿入する鉗子口がついている。管の中でワイヤーが二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤により滑らかに動くことで、不快感の少ない観察や処置が可能になる。
内視鏡の先端部には、臓器内部の粘液や血液で先端レンズが汚れたときに水や空気を噴出して洗い流すノズルや、対物レンズを通じて画像をとらえるための超小型高性能カメラ(CCD)などが埋め込まれている。
一般に経口内視鏡は管の外径が約9?で、内視鏡が舌のつけ根を通り、のどに触れることから、挿入による不快や吐き気を覚えることが多い。これに対し、開発された経鼻内視鏡の先端部の外径は約5.9?と鉛筆よりも細いため、嘔吐感の少ない負担の少ない手法として、「93%の患者が次回も鼻からの内視鏡検査を希望する」というアンケート調査結果も報告されるほど、採用が進んでいるという。
また、オリンパスではマイクロマシンの技術を応用、コップ一杯くらいの水で飲み込むだけで小腸の状態をリアルタイム観察できるカプセル内視鏡を開発している。カプセルは消化管の蠕動(ぜんどう)運動によって、飲んでから1?2時間くらいで胃から小腸に達する。カプセルは動作している間、毎秒2コマの割合で撮影を続け、画像を送信、画像データは体につけたアンテナを通じて受信装置に記録され、検査終了後にドクターがそれを見て診断を行う。錠剤大のカプセルのため、違和感も少ないという。
体内の汚れが付着しないよう、カプセルの表面ができるだけ滑らかな状態を保つよう厳しい管理で作りこむ。薬剤の安全性を確認する必要がないよう、表面に特殊な薬剤を塗ることはしていない。腸内を進んでいくにつれて、汚れが自然と後ろに掻き出されていくようなカプセル先端の形状が工夫されている。
ガンは早期に発見・治療をすることで、治る可能性も高くなる。従来の経口内視鏡などでみられた不快感を軽減し、負担の少ないこうした内視鏡の技術が登場することにより、気楽に、より早く検査を受ける患者が増えてくる後押しとなることだろう。ガンの早期発見につながる低侵襲の医療技術の進展に期待したい。
第44回 事故の原因究明でクレーンの安全性向上を!
第44回 事故の原因究明でクレーンの安全性向上を!6月3日東京都板橋区のマンション建設現場で、タワークレーンの台座が落下し、作業員2名が死傷するという事故が発生、台座を支柱に固定していた2本のカンヌキが支柱から外れたために落下したと見られている。作業者2名とも作業台にいて、長さ35mのアームを回転させる旋回台と作業台の間に挟まれていた。台座は旋回台や作業台からなり、事故当時は工事を終えたクレーンを解体するため、高さ24mの支柱の最上部にあった台座を下げる作業を始めたところだった。
タワークレーンのクライミング装置は、上部カンヌキを有するクレーンの旋回台、下部カンヌキを有する作業台、昇降シリンダーで構成され、上下のカンヌキでクレーン本体の全質量を交互に支えている。これらの台座は通常、支柱に等間隔に開いた穴に差し込まれた上下2本の鉄製のカンヌキで支柱に固定されている。台座を下げるには、下部の作業台のカンヌキを抜き、昇降の油圧シリンダーを伸ばした状態で、元の位置より下方の穴にカンヌキを差し込む。次いで、上部の旋回台のカンヌキを抜いて油圧シリンダーを縮め、下方の穴にカンヌキを移す、という尺取虫のような動きを繰り返す。カンヌキの大きさは直径約10cm、長さ約20cmで、一方のカンヌキを抜くともう一方に台座の重さ約13tの荷重がかかるため、各台に取り付けられたカンヌキの抜き差しも油圧シリンダーにより行われる。このカンヌキの抜き差しと昇降の油圧シリンダーの伸縮は作業台にいる作業者の操作で行われる。
昇降の油圧シリンダーの機能により、カンヌキが一方でも差し込まれていれば台座が落下することはないという。通常カンヌキの抜き差しを行う油圧シリンダーには、穴とカンヌキの位置を検知するセンサーが装着され、事故が起きた機種でも、カンヌキが2本とも抜けるのを防ぐ安全装置もあった。ところが、何らかの原因で2本ともカンヌキが抜け、台座は落下した。
カンヌキ脱着の油圧シリンダーやセンサーの不具合か、カンヌキの金属疲労などによる破壊か。タワークレーンの落下による災害は、10年前にも発生している。やはりカンヌキが2本とも抜けたことによるものだ。こうした事故が二度と起こることのないよう、機械・材料面から、作業のマニュアル面から、事故解明に向けた徹底的な調査、検証を行い、人命を守る、安全性を向上するシステムの構築に努めたい。
第45回 省エネ・高効率生産のための設備保全の促進を!
第45回 省エネ・高効率生産のための設備保全の促進を!稼動率が低下している生産工場で、省エネ化を図る設備保全への取り組みが増えてきている。設備保全の取り組みは省エネだけでなく、設備の突然停止につながる設備要素の異常を事前に予防し、経済的損失も抑えるという「予防保全」からも意義は大きい。
予防保全と省エネの観点では、機械の運動を実行する機械要素のロスや摩耗を抑えエネルギーロスなく円滑に作動させる、潤滑油の管理も欠かせないだろう。
たとえば新日本製鐵での潤滑管理活動を見ると、大きく油漏れ管理と潤滑系診断を実施している。
油漏れ管理としては、シリンダーのパッキンや配管のホース、ポンプのオイルシールなどが対象となる、各種の疲労寿命試験をクリアしたパッキン、ホース、オイルシールを適用することで単品ではコストアップになっても、機器のロングライフ化とトータルコストダウンにもつながる。
また、使用油をサンプリングして行う潤滑系診断としては金属摩耗粉を分析するフェログラフィー法、摩耗粉など油中のコンタミの粒径や個数を計測するパーティクルカウントなど汚染分析法などがある。いずれも潤滑油の劣化を早期にとらえ機器の異常を未然に防ぐ技術である。
故障が発生した後の事後保全に対して、予防保全として潤滑管理を実施することを「メンテナンス・トライボロジー」ともいう。「トライボロジー」については先に述べたが、1966年に英国で国策として生まれた摩擦・摩耗・潤滑の科学技術の総称。英国内の鉄鋼所の適切な潤滑管理を実施することで、当時の英国のGNPの1%以上(当時の金額で年間5,000億円)を節減できるという調査報告から、各国でトライボロジーの視点から設備管理、製品・技術の研究・開発が行われてきている。
総合潤滑管理システムを事業とする日本システムサービス(本社・札幌市)の磯谷喜冶社長は、「2008年現在でわが国の給与水準(高卒者の平均給与)は、トライボロジーの調査報告がなされた1966年当時の約15倍程度で、一方、現在の我国に於ける工業規模および潤滑油の総消費量は英国本国の約2.5倍。先の潤滑管理による節減費用5,000億円を現在のわが国に当てはめると、年間で5,000億円×15×2.5=18兆7,500億円にも達することになる」と語り、トライボロジー運動の再燃を呼びかける。
自動車をはじめ少しずつ生産が拡大してきている今こそ、本格的な立ち上げに向けて、省エネと生産の効率化、経費節減に貢献する設備管理システムの導入・促進を望む。
第46回 鉱山開発の需要拡大で、求められる機械要素技術
第46回 鉱山開発の需要拡大で、求められる機械要素技術低迷が続いていた鉱山機械用の超大型タイヤ需要が、中国やロシアなどの資源国で需要回復傾向にある。鉱山開発が勢いを取り戻し始めている。ブリヂストンでは北九州に建設した幅1m以上、直径3m以上といった建設・鉱山車両用大型・超大型ラジアルタイヤ用の新工場を当初予定の9月から3ヵ月前倒しし、6月17日から稼働させた。同社では「世界的な鉱物資源の生産増加に伴い、ここ数年大型・超大型ORRの需給バランスは大きく乖離している。中長期的に見ても需要は伸長する見込みで、また、昨今の厳しい事業環境下においてもこの分野は堅調に推移している」と生産前倒しについて説明している。
さて、鉱山機械としてはまず鉄鉱石、石炭を含んだ地層を掘り起こす、油圧ショベル、それらを集積場に運搬する大型のダンプトラックがある。油圧ショベルでは駆動用油圧減速機や旋回装置などにベアリングが使われている。大型ダンプトラックにはトランスミッションや車軸などに多数ベアリングが使われている。
採掘された鉄鉱石などは粉砕機によりある程度の大きさに粉砕される。たとえば大きな筒の中で鉄球を鉱物にぶつけて砕くボールミルでは、筒の両端の支持用に内径500?を超える自動調心ころ軸受や円筒ころ軸受が使われる。高荷重、衝撃荷重、粉塵に耐える必要性からだ。
砕かれた鉄鉱石などは長いもので20kmにも及ぶコンベヤで、大きさを揃える篩い分け工程に輸送される。コンベヤベルトを支えるコンベヤローラは深溝玉軸受が多数使われるほか、コンベヤ駆動用のモータや減速機が接続されたドライブローラには大型の自動調心ころ軸受が使われる。
日本精工では自動車用ハブユニットで実績のあるシールユニット構造をコンベヤローラ軸受に適用、高密封シールと軸受を一体化することによって、雨、泥水、粉塵などの異物が侵入しやすい環境下で低トルクと密封性を両立させた、信頼性の高いコンべヤローラ軸受を開発している。高密封シールにより、野外で使われるだけに、機械への異物侵入を防ぐだけでなく、環境へのグリースの流出を防いでいるのである。
地球資源を有効に活用するための資源開発。だからといってその作業のための機械のロスや環境負荷は見逃されるものではなく、鉱山機械においても省エネ・省資源が求められている。鉱山開発の市場拡大とともに、耐久性があり、環境負荷低減を図るベアリングや歯車、タイヤ、ベルトなどの機械要素技術が活躍する場が増えつつある。
第47回 CO2削減の切り札ヒートポンプの市場拡大を!
第47回 CO2削減の切り札ヒートポンプの市場拡大を!空気中などに無尽蔵に存在する熱を汲み上げて利用するヒートポンプは、燃焼を伴わないシステムのため二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、またその熱効率の高さから注目されている。ヒートポンプを使った給湯システム「エコキュート」は年間50万台の市場に拡大、政府は2010年までに520万台普及という目標を立てる。
燃焼方式の暖房器具では、消費した電力1に対し得られる熱エネルギーが1なのに対し、ヒートポンプを使った冷暖房や給湯システムでは、必要な熱エネルギーを1とすると、その5/6を空気から取り出した熱エネルギーで賄える。つまり、消費電力が必要な熱エネルギーの6分の1で済む。このエネルギー消費量の少なさが、ヒートポンプの最大の特徴であり、またヒートポンプが日本中の空調・給湯・加温機器に普及した場合、日本全体で1年間に排出するCO2の約10%を削減できるとの試算があり、ヒートポンプシステムは地球温暖化対策の切り札とも言われている。
ヒートポンプは、熱交換器に大気中の熱を取り込み、冷媒のCO2を膨張させて大気中の熱を吸収、その熱をコンプレッサーで圧縮してさらに高温にし、高温になった熱をタンクユニットの水に伝えてお湯にするもの。CO2は地球温暖化係数が1/1000以下と低い自然冷媒だが、高圧側で10MPa以上と動作圧力が高く、またHCFCやHFCなどのフロン冷媒とは異なり、摺動面に塩化物やフッ化物などの冷媒による固体潤滑膜を形成しないため、圧縮機内部の摺動部では摩耗量の増加が懸念される。三菱電機が2005年から市場に投入しているCO2冷媒適用の高圧シェルタイプシングルロータリー圧縮機では、負荷される荷重が大きく接触応力が高くなるベーン先端とローリングピストン外周部の摩耗量増加をする抑制するため、ベーンに対し優れた摺動特性を持つDLC?Si(シリコンを含有させたダイヤモンドライクカーボン)を適用している。
麻生太郎首相は先ごろ、2020年までに最終エネルギー消費に占めるヒートポンプなど再生可能エネルギーの比率を今より倍増し、世界最高水準の20%まで引き上げたいと明言した。経済産業省総合資源エネルギー調査会第33回新エネルギー部会の試算では、2020年にヒートポンプ利用によって得られるエネルギー導入量が原油換算で2,361万kLとしている一方、同試算のベースとなった「長期エネルギー需給見通し」では、2020年の日本の最終消費エネルギー量は、原油換算で3億9,000万kLと見積もっている。つまり2020年の再生可能エネルギー導入量に対し、その約3割を担うことがヒートポンプに期待されている。ヒートポンプや太陽光発電など太陽起源の再生可能エネルギー利用技術は日本の得意とする技術。これらの普及により、CO2排出量削減とともにわが国の経済発展に寄与することを期待したい。
第48回 カテーテル治療拡大に向け、安全性の高い技術を
第48回 カテーテル治療拡大に向け、安全性の高い技術を米医療機器大手のボストン・サイエンティフィック社が2014年までに次世代ステント製品を投入するなど日本での心疾患治療用機器の事業を拡大すると発表した。国内でのカテーテル治療の拡大に向け、国内外のメーカーの開発競争が始まっている。
心臓カテーテルは、心臓の検査や治療に用い、からだの動脈や静脈を通して心臓の中や心臓の周囲の血管までカテーテルを挿入、それによって血管内の圧力を計測したり、カテーテルを通して薬剤・造影剤などを投与するもの。狭心症や心筋梗塞の場合、冠動脈にカテーテルを挿入し、造影剤を注入することで血管の狭窄や閉塞を発見することができ、必要に応じてその狭窄や閉塞を治療できる。
カテーテルが挿入しやすいよう、また内部のガイドワイヤーとの摩擦を減らして動かしやすいよう、欧米では潤滑性の高い生体適合性のポリマー材料が被覆されている。
さて、先端には小さな風船がついていて、冠動脈が狭窄したり閉塞したりしている部分でその風船を膨らますことで良好な血流を回復させるバルーンカテーテルを使って狭窄などを解除すると共に、ステントと呼ばれる金属でできた筒状のものを冠動脈内に留置する「ステント留置術」もある。日本ではステント留置術が現在主流である。
この埋め込み型ステントは、耐食性の高いステンレスやコバルト-クロム(Co-Cr)などの金属材料を網状の筒に加工した器具で、カテーテルを介して患部に挿入され、梗塞部で拡張することで物理的に血管を広げ、拡張後は欠陥内部に留置されるため、高い生体親和性と、絶え間なく拍動する血流による物理的負荷に耐えうる機械特性が求められ、ステント材料表面にそれら特性を付与するコーティングを処理している。
この表面処理層はステントの大きな変形に追従して表面から剥離しないことが重要で、たとえばトーヨーエイテックではCo-Cr系ステントへのDLCを提案し,その耐剥離性を向上させるためにSi濃度を傾斜させる方法を開発したほか、冠動脈薬剤ステントへの適用としてCo-Crステント表面にDLCを成膜し、プラズマ処理による官能基の修飾後、薬剤を含む生体適合性ポリマーを被覆したものを開発した。生体内で薬物が放出された後,ポリマーは体内に拡散し,残ったDLCは高い生体適合性をもって残存する。こうしたステントへのDLC被覆を先に欧州で事業展開を開始しているという。
国内でカテーテル治療、ステント留置術が普及してきており、日本ステントテクノロジーなどがDLCコーティングを施したステントを上市しているものの、埋め込み型ステントの多くは輸入品が大半。国産の良好な製品・技術が開発されることで、患者の安全・安心の確保とともに、新しいビジネスと市場が形成されていくことに期待したい。
第49回 火災事故抑制に集客施設のスプリンクラー設置を望む
第49回 火災事故抑制に集客施設のスプリンクラー設置を望む7月5日大阪市此花区の雑居ビル1階にあるパチンコ店入り口付近から出火、店内にいた95人の客や従業員のうち、客3人と従業員1人が死亡し、客らビルにいた19人が重軽傷を負った。犯人は危険物取扱者の資格を持ち、揮発性が高く、火を近づけただけで一気に燃え広がる性質のガソリンをばら撒き、火をつけた。安全管理の知識を犯罪に逆用する行為に怒りを覚える。
大阪市消防局によると、市消防局から消防車など51台とヘリコプター1機が出動、出火から約20分で火はほぼ消し止められたが、パチンコ店の1階部分443m2がほぼ全焼した。今年3月に市消防局が店の立ち入り検査を実施した際には消火器や火災報知機など、消防法令で定められた設備は設けられていたが、スプリンクラーは設置されていなかった。この6階建て雑居ビルは延べ床面積が2,384m2で、消防法令が設置を義務付ける床面積3,000m2に達していなかったためだという。
スプリンクラーは、屋内の火災により生ずる熱または炎を感知し、天井などに設置されたスプリンクラーヘッドから自動的に放水して、初期消火を行う設備。閉鎖型と開放型があり、劇場、講堂など天井が高く、ヘッドの取り付け位置が8m以上ある場所では開放型スプリンクラー設備が用いられるが、一般的なビルの場合には閉鎖型スプリンクラー、中でも湿式タイプが用いられる。湿式閉鎖型スプリンクラーは配管内に水が充満している方式で、スプリンクラーヘッドの感熱部の可溶片が、熱のために溶けてシール部分が開き、湿式流水検知装置が作動して放水する仕組み。
安全工学の専門家によれば、同店にスプリンクラーが設置されていたら火の急激な広がりを抑制でき、消防が着くまでに全焼することはなかっただろうとしている。機械では一時はコストアップになっても軸受管理や潤滑管理のシステムを導入することで、生産性向上やメンテナンス費用削減でトータルコストダウンを図り、また稼動の信頼性向上を図っている。同様に遊技施設においてもスプリンクラー設置には導入コストがかかっても、安全性のシステムを構築されることで客が安心して時間を過ごせ、ひいては店に対する信頼性を高めビジネスの安定・向上につながるものと考えられないだろうか。
法の制約がないとはいえ、今回出火したパチンコ店のように多くの人が集まる場所では、スプリンクラーのように火災事故が起こった場合の被害を最小限にする、安全性向上のシステムを徹底させることを強く望む。