第001回~第010回
第001回~第010回第01回 自動車の軽量化手法
第01回 自動車の軽量化手法中古車販売のガリバーインターナショナルの調査では、排気量が2L前後から上のクラスの自動車を保有していた人が、軽自動車を含む1.5L以下の車に買い替える割合が増加しているという。燃料の高騰を受け、燃費の良い小型車を選ぶ傾向が鮮明になったわけだが、省燃費化では軽量化は大きな手法の一つだ。軽自動車はその車体重量から燃費は良いとされるが、普通車や大型車でも、ピストンのアルミ化、耐熱性や耐久性などの条件が厳しいバンパーやインパネの樹脂化(マツダでは生分解性樹脂化)など、自動車部品を軽量化しつつ、剛性も保持する技術開発が進んでいる。
たとえばNTNでは、高温になるエンジン補機ベルトに使用されるアイドラプーリとして、軽量で長寿命な「補機用高温樹脂プーリユニット」を開発した。樹脂プーリユニットは従来、放熱性が悪く軸受が高温になりやすいため、軸受のグリース寿命を著しく低下させるなどの問題があったが、軸受外輪の放熱面積を増加させ軸受外輪温度を低下させたり、長寿命グリースの開発などで、従来の樹脂プーリユニットと比べ2倍以上、鉄プーリユニットと比べても同等以上の軸受寿命向上と重量の65%低減を実現している。
また、ジェイテクトは、軽量化とアクスルユニットの組立工程の簡素化を実現した駆動輪用の「シール別体型ABSセンサ内蔵ハブユニット」を開発した。シールとABSセンサを別体とし、軽量化、コストダウンを実現している。
さらに、日本精工は、ハブユニット軸受に適用可能なハブユニット軸受内蔵型車輪速センシング用プラスティック磁石エンコーダを開発、従来のゴム磁石製品比25%の高磁力化を達成、磁気エンコーダのコンパクト化による軸受のダウンサイジングを図り軽量化に貢献しているという。
以上のように、軽量化を目的とする樹脂材料などへの置換えにあたっては、従来の鋼製材料に相当する、あるいは凌駕する剛性や耐熱性を補うべく技術開発が進んでいるようだ。
先のマツダの例のようなバンパーなどと違い、軸受のような可動部品に生分解性樹脂が使えるものかと疑問視されていたが、日本精工では、生分解性樹脂であり耐熱性に優れるポリビニルアルコール(PVA)系樹脂に、強度を向上させる繊維状補強材と柔軟性改良剤を配合することによって、適度な柔軟性が付与されポリ乳酸より引張強度、剛性をそれぞれ高め、融点が約200℃、120℃の高温下で1,000時間放置しても、劣化がほとんど生じないレベルまで耐熱性を向上、構造部材として実用に耐えるレベルを実現しつつ、土壌中を想定した環境では180日で60%以上生分解することが確認されている。同社では、軸受の構成部品である保持器・シールをこの高強度生分解性樹脂製とし、内部に生分解性グリースを充填した環境配慮型転がり軸受を試作、評価した結果、50%の低トルク化達成で省エネルギーに貢献することが期待できるほか、100℃、10,000回転、5,000時間の耐久試験で十分な耐久性が確認できたという。
軽量な材料は従来の鋼製材料に比べれば脆い。自然環境で分解される生分解性樹脂はなおのことだろうが、脆さと耐久性というトレードオフを見事に克服しつつある。こうした技術の一つ一つが自動車の軽量化、さらには省燃費化を支えている。今後もニュースを通じて、秀逸なテクノロジーを見てみたい。
第02回 乗降客の安全を守る可動式ホーム柵
第02回 乗降客の安全を守る可動式ホーム柵山手線が2010年の使用開始をめどに全駅に可動式ホーム柵(写真)を設置する。山手線全29駅設置で約550億円の投資が見込まれている。東京の新都心線など最近開通した地下鉄ではお馴染みだろう。列車のドアと連動して開閉するが、転落防止や列車との接触防止など乗降客の安全のために設けてあるので、たとえば電車のドアは抜けたがホームドアに挟まれた、なんてことはあってはならない。ここでは、センサー技術やそれに基く制御技術はもちろん、それを精確にレスポンスよく実行するメカ技術が重要だ。
ここで言うメカ技術の一つにリニアモーション技術がある。たとえば京三製作所のホームドアの構造を見ると(図)、ドア駆動はACサーボモータの回転をボールねじで直線運動に変換している。このボールねじの直線運動を支持するのが直動案内機構で、特にLMガイドやリニアウェイ、リニアガイドなどの商品で知られる直線転がり案内により滑らかな動きを実現している。
近年ではこうした直動転がり案内には、ボールベアリングと同様保持器の役割を果たす樹脂部品やメンテナンスフリーの潤滑部品が使われている。THKのLMガイドでは、ボールリテーナ付きとすることで、(1)ボール同士の相互摩擦がなくグリースの保持力も向上するため長寿命、潤滑における長期メンテナンスフリーを実現、(2)ボール同士の衝突がないため低騒音、(3)ボール同士の相互摩擦がなく発熱が低いため高速性・レスポンスに優れる、(4)ボールが均一に整列され循環するため滑らかな動作、といった利点があるとしている。可動式ホーム柵の場合はやはり相互摩擦がないことでの高速・高レスポンスや滑らかな動作という特長が利いてくるだろう。潤滑不良による摩擦の増加や摩耗に伴う故障もあってはならない。日本トムソンのリニアウェイでは、Cルーブという潤滑油内蔵部品から潤滑油が支給され長期間にわたり潤滑性能を維持し、5年または20,000kmのメンテナンスフリーを実現するという。また、日本精工のボールねじでは潤滑ユニット「NSK K1®」を装着することで5年間または10,000km以上のメンテナンスフリー化を図るとしている。
ホームでの人身事故は08年3月までの5年間で168件もあって、このうち今回導入を決めた山手線では37件と最も多かったという。こうした信頼性の高いメカ技術に支えられた可動式ホーム柵が早い時期に全線で導入されることを期待したい。
第03回 東京ビッグサイトで、エスカレータ急停止事故
第03回 東京ビッグサイトで、エスカレータ急停止事故東京・有明の東京ビッグサイトの上りエスカレータが急停止後に逆走し、10人が軽傷を負った事故で、エスカレータに乗っていた人の総重量が、荷重制限の約7.5tだけでなく、逆走防止用のブレーキ能力の限界である約9.3tも超えていた疑いの強いことが分かった。このため、自動停止後にずり落ちるように逆走したと見られている。
問題のエスカレータの構造は明らかにされていないが、一般にエスカレータはモータ+チェーンで駆動する。踏み板の両端に取り付けたタイヤ(回転体)がエスカレータ両端の案内レールの上を転がることで、滑らかに上下動する。ただし正常に動くかどうかは、積載荷重による。
製造元の日本オーチス・エレベータによると、事故時は荷重オーバーに伴い、電源が切れて自動停止したと同時に、下り方向に逆走するのを防ぐためディスクブレーキが作動したと見られる。しかし、ブレーキ能力の限界は1ステップ(横102cm、縦40cm)あたり120kgで、総重量では約9.3t。問題のエスカレータはステップが84段あり、階段状になっているのは上下部分の3段ずつを除く78段。建築基準法上の安全基準の計算式は、1ステップあたりの荷重制限130kg×78段×0.74の7,503kgで、これは2ステップに大人3人が乗る計算だが、事故当時は1ステップに3~4人が乗っており、重みを支えきれずに逆走した疑いが強いという。
先に紹介した構造から推察すると、上に向かい転がるはずのタイヤが、下に向かい滑らかに転がったことになる。いかに信頼性の高い機械であっても、設計値をはるかに超える条件では安全な稼働は望めない。はやって会場を移動する。イベントの性質からも事態は予想されたことだろう。エスカレータは人々の利便性を図り、また今後の高齢化社会ではますます普及していくであろう大量輸送機器である。事故原因の一層の解明と、関係者による利用上の安全管理の徹底を強く望む。
第04回 疾病の早期発見?CTスキャンの高速化競争
第04回 疾病の早期発見?CTスキャンの高速化競争フィリップスエレクトロニクスジャパンは、X線管球が体の周りを1回転する間に撮影できる画像を従来製品の4倍となる256枚に引き上げたコンピューター断層撮影装置(CT)を発売した。従来製品が1回転0.42秒だったのに対し、1回転あたり0.27秒で低被ばくの撮影が可能という。
肺がんなどの早期発見・早期治療につながる有効な手法として、CTの医療現場での採用が進み、その世界市場規模は3,300億円といわれる。
ヘリカルスキャン方式のX線CT装置では、X線管は対向配置されたX線検出器とともにガントリ内部で回転され、患者をベッドで送ることにより身体をらせん状にX線走査し、これにより身体の断面を0.5度などの細かいピッチで撮像できる。心臓のような動きのあるものを撮像する場合には、0.5秒に1回転など、X線管を搭載したガントリの回転数を上げることが求められている。
従来から回転機構の支持には真空環境下に置かれることから宇宙や半導体などで使われるような軟質金属の固体潤滑玉軸受が使われていたが、高負荷での高速化や静音性の点が課題となっていた。今回開発されたフィリップスのCTではボールベアリングに替えてエアベアリングを使うことで摩擦を低減し回転速度を高め、高速撮影により撮像時間を大幅に短縮したという。東芝メディカルシステムズのCT(写真は同社CTの一例)では、この支持機構に液体金属を作動流体とした動圧ハイブリッド軸受を適用、高速化、静音化を実現している。
ちなみに患者を載せたベッドを前後に移動する運動部には滑らかに送る直動転がり案内(THKのLMガイドなど)が使われ、振動や騒音を減らすことで患者への精神的な負担を軽減しているという。
第05回 北京五輪を終えて
第05回 北京五輪を終えて北京オリンピックが閉幕した。当編集部が応援した星野JAPANのメダル獲得はならなかったが、日本は金9、銀6、銅10の25のメダルを獲得した。今春『ハンマー頭部の加速についてのバイオメカニクス的考察』なる論文で中京大大学院から体育学博士号を受けたアテネ五輪金メダリストの室伏広治選手にも、科学的分析の結果を期待していたが、連覇はならなかった。2投目の80m71以外は80mを超えられず、5位。腰を痛めていたらしく、鍛錬と科学の力は残念ながら生かされなかった。
この室伏選手がハンマー投げ以外で五輪に挑んでいたことがある。氷上のF1といわれるボブスレー。長野五輪のことだ。室伏選手は、選手選考会であるコントロールテスト(60m走、20m走、立ち五段跳び、ベンチプレス、スクワットの5種目を計測し各タイム、距離、挙上重量を得点(各種目100点)で換算し、点数を算出して順位を決める)でただ一人500点満点を打ち出した。
実はこのとき、ボブスレー日本チームには科学・技術面での指導者がいた。東北大学教授(当時山形大学助教授)の堀切川一男氏である。彼の専門はトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学・技術)。ボブスレーの力学解析を行ってタイム短縮に効果的な新しいスタート方式である「蹴り乗り」を提案したほか、「低摩擦ボブスレーランナー(そり用の刃)」も理論的に設計、開発し、弱小だった日本代表チームを世界トップレベルに肩を並べるところまでレベルアップさせた。
しかし、室伏選手はハンマー投げに専念したいといった理由から長野五輪ボブスレーでの出場を断念、堀切川氏はのちに「あのとき彼が出ていれば、さらにいい結果が残せたのに」とこぼしている。ボブスレーは陸上の投擲種目の選手やスプリント種目の選手が適しているとされ、室伏選手並みの選手が三人いれば確実に金メダルが取れるともいわれている。
室伏選手のハンマー投げにおける科学的探究心は、ひょっとするとボブスレー選手時代のこの工学者との取組みの中で育まれたものかもしれない。4年後のロンドン五輪で成果を期待したい。
第06回 町工場の技術の結晶、人工衛星「まいど1号」が完成
第06回 町工場の技術の結晶、人工衛星「まいど1号」が完成大阪府東大阪市などの中小企業9社でつくる東大阪宇宙開発協同組合(SOHLA)が開発していた小型衛星「まいど1号」(SOHLA-1)が完成、最終点検のため宇宙航空研究開発機構(JAXA)・筑波宇宙センター(茨城県つくば市)にトラックで運ばれた。
「まいど1号」は一辺50cmの立方体で重さ約50kg。本体の組立て後、振動試験や管制設備のテストなどをしていた。温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT(ゴーサット)」と一緒に今冬、鹿児島県・種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げられ、雷雲観測などの役割を担う予定だ。
衛星は通常、その目的に応じて個別にゼロから作り始め、開発に3?10年の期間と数億?数百億円のコストが必要とされる。これに対し東京大学中須賀氏のアイデアにより、衛星の各機能をモジュール化し、モジュール(機能)ごとに1枚の「パネル」を製作、各パネルをつなぎ合わせるだけで機能する新しい汎用小型衛星衛星「PETSAT:Panel ExTension Satelliteの開発が、町工場の技術を結集して東京大学やJAXA、大阪府立大学などの協力を得て、進められていた。
パネルは「CPU」、「太陽電池」、「メモリ」、「通信」、「姿勢制御」、「軌道制御」などの基本機能を担当するバスパネル、「光学」、「センサ」など個々のミッションに応じて異なるミッションパネルからなる。ある機能を実現するためパネルを必要な枚数だけ必要な形に組み合わせ、打上げ時には折りたたんでロケットに搭載する。こうしたモジュール化により大量生産、5,000万円?という低コスト化、1年以内という開発期間短縮を実現できるという。
しかし宇宙空間では真空、急激な温度変化など、機械の可動部は厳しい環境下に置かれる。打上げ時に折りたたんである「まいど1号」が宇宙空間で正常に展開しミッションをクリアするには、真空環境にある展開部分のヒンジの潤滑がうまく機能するかどうかは重要な要件だ。また、周囲に貼り付けた太陽電池を動力源とするこの衛星では急激な温度変化に伴い太陽電池パネルが剥落しないかという、接着性能の検証も必要だろう。
また、衛星の開発コスト低減にはめどがついたとしても、世界では通信などに使う中型・小型の商業衛星の1回の打上げ費用が数10億円規模なのに対し、H2Aロケットでの打上げ費用は100億円強という状況。日本の衛星ビジネスの飛躍のためにも、「打上げ費用を含めたユーザーの負担を1億円程度に抑えたい」としたPETSAT衛星の当初の目標へのアプローチに期待したい。
第07回 国産航空機の量産化に向けて?哨戒機が納入
第07回 国産航空機の量産化に向けて?哨戒機が納入川崎重工業が、開発中の次期哨戒機「XP-1」試作機1号機を防衛省に納入した。受注している2号機も年内に納入予定とのこと。大型機開発は、1970年に初飛行した輸送機C1以来となる。海上自衛隊では現在運用中のP-3C哨戒機80機をすべてXP-1に置き換える方針。XP-1は航続距離(8,000km)など性能が向上しているため、約70機で作戦能力の維持が可能としている。XP-1は、P-3Cを多少大きくした4発ジェット機で、長さ38m、翼幅35m、全備重量80t、高速飛行(830km/h)のため主翼尾翼は後退翼になっている。
哨戒機は、海上をゆっくり飛びながら不審船を発見したり海中深く潜航する潜水艦の動きを監視する役割をもつ。北朝鮮や中国の軍事力の脅威が言われるなか、防衛省は高性能次世代哨戒機の国産化機を決定、2001年度から川崎重工業が主契約企業となって開発に取り組んでいた。
哨戒機は役割上、飛行性能、レーダー探知性能などに加え、静音化が求められる。このためIHIが開発したエンジン「XF7」は、低燃費で低騒音仕様。エンジンの騒音は、P-3Cに比べて、巡航出力で10dB程度、離陸出力で5dB程度低減している。
航空機エンジンの低騒音化には、ファン騒音とジェット騒音の低減へのアプローチがある。ファン動翼は高い空力性能と低騒音化を併せ持つようベース動翼の翼先端側を前方に傾斜させた形状の「スウェプト動翼」としたことで、動翼前縁に生じる離脱衝撃波を弱め、ファン騒音で支配的なバズソー音を低減したという。また、排気ノズルの出口形状をギザギザにしてジェットの混合を促進させる「シェブロンノズル」に対し、排気ノズル形状をシンプル化(周方向5ヵ所に三角形状の小型ミキサを配置)した「ノッチノズル」にして推力を低下させることなくジェット騒音を低減している。
このほか、問題となったベアリングの耐久性向上に対しては、保持器の形状改良などで対応がなされているという。
川崎重工業ではこれを機に、機体の強度不足などで開発が遅れている、次期輸送機で民間転用の本命とされる「CX」の開発も急ぐ構えだ。
第08回 食の安全システムを覆した「事故米」
第08回 食の安全システムを覆した「事故米」大阪の加工米販売業「三笠フーズ」が、最も強い天然の発がん性物質といわれるカビ毒アフラトキシンや有機リン系殺虫剤メタミドホスに汚染された「事故米」を食用として流通させていた。食品衛生法では有害物質を含んだ食品は流通が禁止されているため、国ではこうした事故米を食用ではなく、接着剤など工業用原料に限定して販売を認めている。ところが三笠フーズでは、買い取った事故米を焼酎のほか、せんべいや和菓子の原料として転売していた。
食品・飲料の製造・加工機械では、食の安全を脅かす異物混入を徹底的に防ぐ取組みがなされている。たとえば今回事故米の使われた焼酎の精製では、ポンプで原酒を加圧する工程がある。往復動ポンプにはシリンダーとロッドにそれぞれシール(パッキン)があるが、摩耗はゼロとはいえず摩耗粉という異物が発生する可能性もあることから、シール材には食品衛生法に適合した材料が使われる。液中では潤滑剤が使えないため、自己潤滑性があるPTFEや超高分子量ポリエチレンなどの樹脂シールも使われる。
また、せんべい焼成機で型押しするスタンパーや裏返す機構などの揺動・回転部分に使われるベアリングにも、普通のSUJ2軸受鋼は使えない。水分にさらされ錆が発生すれば異物として混入する恐れがあるためだ。そこでマルテンサイト系ステンレスなど錆びにくい材料が使われる。軸受には通常グリースが封入されるが、HACCP(危険分析重要管理点)は潤滑剤に関し、(1)使用しない(2)漏れない・触れない対策をとる(3)偶発的接触が許容される潤滑剤を使用するという考え方を示している。このうち、軸受に封入されるグリースには、NSF(国際衛生財団)が設定するカテゴリーのH1認証を受けた食品工場用潤滑剤を使うことが一般的になっている。H1認証潤滑剤は、食品が接触する箇所での使用を認められたものである。完全に水中などで使用される軸受には自己潤滑材料が使われる。樹脂製転がり軸受の場合では、内輪、外輪にPPSやポリイミドが、転動体にガラスやセラミックスが使われるといった具合だ。
直動転がり案内もボールベアリングと同様の考え方となるが、中には米ぬかを使った「RBセラミックス」を使ってオイルフリー、耐摩耗、安全衛生を実現したすべり案内も登場している。
このように、稼働中に異物を混入させない取組みが事細かになされる中で、米が利用方法によって価格が極端に変わるという仕組み(せんべいや焼酎原料などの加工用米として流通する場合には5万円、工業用のりとして販売する場合は高くても1万円など)を利用した業者が、意図的に有害物質の混入した原料を食品加工の現場に流した。
先述の食品加工用潤滑剤の本格的な普及も国内では端緒についたばかりだ。食品加工関係者の地道な努力を踏みにじる、事故米転売業者の無節操さには怒りを覚える。食の安全を脅かす悪徳がまかり通ることのない、万全なチェック機能の働くことを願っている。
第09回 防災の月に、地震対策を見る
第09回 防災の月に、地震対策を見る9月1日は、1923年9月1日の関東大震災に因んで制定された「防災の日」だった。近年、地震予測の技術が進んでいるらしい。海溝型の大地震は50?100年の周期で同じプレートで起こることから、30年以内の震度5以上の大地震発生をほぼ正確に予測できるという。しかしマグニチュード(M)7.2を記録した岩手・宮城内陸地震のような、1000から1万年周期で起こると言われる内陸活断層に起因する地震については、30年というスパンでの評価予測は難しく、また2,000ヵ所あるという活断層の調査も現時点で109ヵ所と進んでいない。
予測の精度向上には引き続き取り組むべきだが、地震が起こったときの対策も必要だ。特に国内では戸建てで1,000万戸、マンションで150万戸で耐震性が不十分とされ、住宅の耐久性を高めるべく、構造そのものを頑強にし揺れに備える「耐震」、住宅土台部分に入れた装置で地震の衝撃をのがす「免震」などの施工が急ピッチで進められている。なかでも免震機構の採用はめざましい。
1995年の兵庫県南部地震で多くの民家を倒壊させたのは、直下型地震に多く見られる周期1秒程度の地震波。建物が揺れて往復するのにかかる時間を「建物の固有周期」というが、地震波の周期と建物の固有周期が一致すると、揺れが増幅される「共振現象」が起こる。建物が倒れなくても家具が倒れる可能性はきわめて高い。
これに対し免震機構は、地盤に固定した軌道台の上を建物が転がりやすべりの機構で軽く移動できるようにするものだ。地面が大きく揺れても、免震機構のうえに載った建物は置き去りにされた格好になり、結果的に揺れ(移動量)が小さくなる。つまり免震構造をとることで建物自体の揺れを少なくし、建物の被害や家具の転倒など、屋内の被害を劇的に減らせる。
たとえばTHKの免震システムでは、直動転がり案内「LMガイド」がX軸、Y軸ともに2列にして井桁に組み合わせた形。理論的に、地震動による横荷重が同じであれば免震装置の摩擦係数が低いほど建物に伝わる荷重(揺れ)は小さくなる。LMガイドは摩擦係数0.05?0.08と軽く動くため、この上に載った建物は地面の揺れに置き去りにされた格好で固有周期が延長され、揺れが小さくなる。
サーバーなど重要な機器の免震も必要だ。これに対して不二越の免震機構の一つでは、積載物を載せるための上プレートと床面に設置される下プレートの間に、単球式転がり支承を配置、地震の揺れに対してプレートが捻れないように、捻れ防止機能を有する独自のオルダム機構を採用し、この構造に地震の揺れエネルギーを吸収する摩擦ダンパ発生機能を織り込んだシンプルな構造としている。
日本は、微震も含めると年に2,098回(2007年気象庁まとめ)、日に6回近い地震がどこかで発生し、大なり小なりの被害を与えている。多くの人命や資産を地震から守るべく、地震予測の精度向上とともに、免震など防災メカニズムの導入促進に期待したい。
第10回 燃油高騰で自転車販売好調
第10回 燃油高騰で自転車販売好調ガソリン高騰などに伴う維持費の負担増から自動車を手放す層が増えてきている一方、代わって維持費の負担が少なく環境にも健康にもよい自転車の販売が好調という。自転車協会の調べでは、07年まで9年連続で前年割れだった国内出荷台数が、今年は1?6月で前年同期比11%増えた。通勤での使用も増えていることから、特に人力の負担を軽減する電動アシスト自転車の伸びが大きい。
周知のとおり、スポーツ自動車のスピードアップ(まくり?)、トルク伝達にはギヤチェンジの技術が利用される。ペダルに直結したチェーンホイールのチェーンリングから、駆動トルク(回転力)がチェーンを通じリヤホイール(フリーホイール)のスプロケットに伝わり自転車が進むわけだが、チェーンリングの歯数とスプロケットの歯数との比率(ギヤ比)がキーになる。たとえば歯数40のギヤと歯数20のギヤをつなげば、チェーンホイールが1回転したときのフリーホイールの回転数は2倍になる。つまりギヤの特性として、ギヤ比が高いほどフリーホイールの回転数は高くなるが駆動トルクは低下するため、坂道などでクランクを回す脚への負担は大きくなる。
これに対し電動アシスト機構では、坂道などで人が踏み込む力が強くなると、トルクセンサーが踏力を検知してアシスト量を決定、電動モータによりアシスト力を発生させる仕組み。たとえばパナソニック サイクルテックのスポーツ電動アシスト車「ハリヤ」のモータユニットは、ヤマハ発動機と三洋電機が共同開発したリチウムイオン電池を使いモータ効率を高めている。10°くらいの急勾配でもトップで登るくらいのパワーが出せ坂道を時速17?18kmで走れるというから、普通の自転車に比べるとかなり速い。ケーブルなどをフレーム内に収めアシスト機構(モータユニットも小さくまとめてあるため、電動アシスト車に見えず、ロードレーサーやマウンテンバイクをすいすい追い抜いて驚かれることも多いという。
国内で電動アシスト車をはじめ自転車の販売が好調な一方で、自転車政策の遅れが目立っている。人口当たりの自転車保有台数(02年)はオランダが1位で0.9人に1台、2位のドイツは1.3人に1台、日本は1.5人に1台で3位なのに、全国の道路のうち自転車が専用に走れる道路※の比率はオランダの17%、ドイツの5%に比べ、日本は0.2%(全国120万kmのうち約2,660km)に過ぎない。道路交通法で車道走行が原則とながらの専用道の整備の遅れが、歩行者との衝突事故などの急増につながっている。国土交通省は思わぬ「事故」でトップ不在のようだが、自転車先進国としての政策整備を急いでほしいものだ。
※自転車が専用に走れる道路には、「自転車専用道路」のほか、車道の一部を縁石などで区切った「自転車道」、白線などで色分けした「自転車レーン」がある。