第54回 省エネ「打ち水技術」で環境にやさしいヒートアイランド対策を
第54回 省エネ「打ち水技術」で環境にやさしいヒートアイランド対策を京都市役所に今月、霧状の水滴を頭上から噴出し気温を下げるミストシャワーが設置された。気化熱が周囲の熱を奪う現象により気温が3℃前後下がるという。ミストシャワーは六本木ヒルズなど東京都心のほか、観測史上最高の気温40.9℃を記録した埼玉県熊谷市などで実績があり、ヒートアイランド現象を和らげる効果が期待されている。京都市では今月中に温度の変化などを測定して市内での普及策を検討していく予定だ。
経済産業省中部経済産業局が公募した地域新生コンソーシアム研究開発事業として、名古屋大学、中部電力、能美防災、川本製作所、トーキン、清水建設の6社が共同開発し、2005年の愛・地球博の「グローバル・ループ」、六本木ヒルズのメインエントランス「66プラザ」、秋葉原クロスフィールド、新丸の内ビルなどで導入実績のある「ドライミスト」で、ミストシャワーの機構を見てみよう。
ドライミストのミストは自然現象の霧(直径数μm~数十μmの水滴が1cm3の空気中に数個~数百個含まれる)状の水滴を言い、ドライは触れても濡れた感じがしないことを意味する。実際には、蒸散が容易で「化粧落ちしない≒水滴をほとんど意識させない」を目標とした平均値16μmのミストを発生させる。
ドライミストのシステムでは、クスノキ林が真夏に気化する量(蒸散量)7.5 mL/分・㎡を基準として採用している。この量の蒸散による冷却効果がすべて空気の温度を下げるのに使われると仮定すると、1分間あたり、高さ7mの空気柱に2℃の温度降下を与える。そこで同システムでは、100m×100mの空間を想定し、15kW(1.5W/㎡)の高圧ポンプユニットにより水道水を加圧、3.6m間隔で設置された消火用ノズルから、蒸散が容易な平均粒径16μmのミストを作り噴霧、クスノキ林相当分の霧を散布する。
システムを構成するドライミストノズルは、ノズル一つで3.0L/h(圧力6MPa)の噴霧能力を持ち、複数個を組み合わせて噴霧空間に適切な量のミストを散布するが、噴霧の停止時の液垂れを防止する機能を備える。高圧ポンプユニットは水を加圧して吐出するため、給水が不安定な場所にも適用できる。電動弁は6MPaの高圧水の閉止・通水を高レスポンスで行う高圧用電動弁を採用している。環境条件を観測する屋外用温湿度計、風速計、降雨センサーなどにより、設定温度以下になった際、観測ミストが過飽和になって湿度が高くなりそうな際、人が涼しさを感じられる一定の風速がある際、わずかな降雨でもミストが不快感を与えるような状況になる際には、ミストの噴霧を自動停止する。
ドライミストが温度を下げる能力は、家庭で使用するエアコンのわずか1/20程度のエネルギーで済むということから、一般の空調システムによる冷房が苦手な高齢者などを対称に家庭用ドライミスト冷房も登場してきている。ミストシャワーは、発生させた霧が気化するときに周辺の熱を奪う「打ち水効果」を狙う日本古来の発想に基づく独自技術。省エネとヒートアイランド効果の緩和が図れる日本発の技術が世界的に普及することを期待したい。