第36回 建設機械のハイブリッド化が進展
第36回 建設機械のハイブリッド化が進展2月に発売開始のHonda「インサイト」がすでに受注台数2万台を超えるなど自動車業界でのハイブリッド競争が激化してきている一方、コマツなど建設機械各社においても、ハイブリッド化が進んできている。ただし、自動車のハイブリッド化がガソリンエンジン+発動機(モーター)なのに対し、建機の場合はディーゼルエンジン+モーターである。建機のハイブリッド化は、2011年から窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)の一層の削減を目的に日米欧で導入される第4次排出ガス規制に対応しつつ、CO2排出量の削減を図る動き。
掘る・埋める・ならす・吊る・運ぶなど土木工事や建築工事に不可欠な建設機械は、(1)熱効率が良く経済性に優れる(2)耐久性に優れる(3)低速回転でも高トルクが出せる(4)数馬力?数万馬力にまで対応ができるので、同一現場で稼動する大型建機からミニ建機まで同じ燃料で稼動できるなどの理由から、その動力源にはディーゼルエンジンが採用されている。ガソリンエンジンと比べると熱効率が高く燃料消費量が少ないためCO2の発生が少なく、またその燃焼特性から一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)の発生も非常に少ない一方、NOxやPMの発生が避けられず、ディーゼルエンジン単体でも電子制御・高圧噴射システム(コモンレールシステム)の搭載などにより、これら物質のさらなる抑制が実現しているが、ハイブリッド化によりエミッション低減でのブレークスルーを目指す構え。
? コマツが2008年6月に建設機械として世界で初めて発売したハイブリッド油圧ショベル「PC200?8 ハイブリッド」を例にとると、新開発の旋回電気モーター、発電機モーター、キャパシター(蓄電器)と、ディーゼルエンジンを併用した「コマツ・ハイブリッド・システム」により、通常型「PC200?8」と比較して約25%の燃費低減を実現している。同ハイブリッド・システムは、車体旋回の減速時に発生するエネルギーを電気エネルギーに変換、キャパシターと呼ばれる蓄電器に蓄え、発電機モーターを通じエンジン加速時の補助エネルギーとして活用する。
建設機械の車体旋回動作には通常油圧モーターを使用するが、ハイブリッド式では旋回電気モーターにより旋回減速時に発生するエネルギーを回収する。ハイブリッド式では、回生エネルギーをエンジン加速の電動アシストとして活用するため、エンジンは燃費効率の良い低速回転域で使用できるほか、作業の待機時(デセル時)も超低速回転に抑えることができ、大幅な燃費低減を実現する。
ハイブリッド自動車と比較すると、自動車では発進加速の際に大容量の電気エネルギーを必要とし、その後比較的安定したエンジン回転で使われるのに対し、建設機械の場合は掘削作業などで短時間のうちに頻繁なエンジン回転が変動する。この頻繁なエンジン回転に追随してアシストするため、キャパシターを搭載している。自動車に使われるバッテリーは化学反応を伴い、放充電に時間を要するため、十分なアシストが得られないが、キャパシターであれば効率よく回収・蓄電し、また瞬時に放電することが可能となる。
建機他社でもコベルコ建機が、バッテリー方式を採用した7tクラスのハイブリッド油圧ショベル「SK70ハイブリッド」を本年6月に市場投入する。ディーゼルエンジンの余剰エネルギーをバッテリーに蓄積しておき、高い負荷が掛かった際にエネルギーをエンジンに供給する機能を搭載、燃料消費の平均50%低減とエンジンの小型化を実現するという。
住友建機もこの6月、油圧ショベルのマグネット仕様では世界初となるハイブリッド機「LEGEST HYBRID」を発売する。マグネット仕様機は、主にスクラップ作業に用いられ、機械の稼動時間が長いことからエネルギーを回収する機械本体の旋回頻度が高く、ハイブリッド化に適する。同マグネット仕様機は発電電動機、インバータ・コンバータ、旋回電動機・旋回減速機を住友重機械グループで開発、現行のマグネット仕様機に比べ20%の燃費向上を達成している。
米キャタピラー社でも電気駆動式のブルドーザーやダンプを2009年中に市場投入予定。電気駆動式ブルドーザーの詳細としては、27tクラスを最初に発売、ディーゼルエンジンと発電機、モーターの併用で、従来の機械式ブルドーザーより燃費を20%低減。摩耗のあるトランスミッション(変速機)を用いないことからメンテナンス費用の低減が期待されるとしている。またハイブリッド式油圧ショベルは、キャタピラージャパンの兵庫県・明石事業所を中心に開発中で、2011年に発売する予定。
日立建機は油圧ショベルのうち最も需要が多い中型機種(重量20t級)でハイブリッド型を国内販売する。油圧ショベルが旋回してブレーキをかけたり、アームを降ろしたりする際のエネルギーを電気に変換して蓄積、これを駆動エネルギーとして再利用する。年間800時間稼働させた場合、燃料代が約44万円分削減できるという。
これらハイブリッド建設機械は、環境対応の次世代建機であるとともに、現在の不況下でランニングコストを大幅に低減する経済的なシステムとして期待される。