第33回 宇宙エレベーター実現へ活動が本格化

第33回 宇宙エレベーター実現へ活動が本格化 kat 2009年3月14日(土曜日)

 任意団体の日本宇宙エレベーター協会(JSEA、 http://jsea.jp/ )が、宇宙エレベーター実現に向け研究情報の発信など活動を本格化する目的で社団法人化する。現在宇宙分野の研究者ら約200人の会員を年内に300人超に、3?5年をめどに500人以上に引き上げたいとしている。

 地上400kmの高度を周回する国際宇宙ステーションが時速28,000km、地球を1日で19周するほどの速度が必要なのに対し、赤道上空の静止衛星は地上36,000kmの高度で時速10,800km、24時間で地球を1周している。地球が1日で1回転するのと同じスピードで回っているため止まっているように見えるのが、静止衛星と呼ばれるゆえんである。

 宇宙エレベーターは、静止衛星から地上に向けてテザー(ベルト状のワイヤー)を垂らし地上に届け、そのテザーを自走式のクライマー(昇降機)が上り下りする仕組み。だが、テザーをどんどん伸ばして地上に近づけていくだけでは、テザーの重みで全体の重心が地球に近づき落ちてきてしまう。そこでいつも全体の重心が釣り合うように静止衛星の上にもテザーを伸ばしていく。静止衛星は頻繁に軌道修正するため、テザーの端部、地上の基部はそれを受けて移動可能な人工島が考えられ、移動式のメガフロート(浮き島型の人工島の一種)や浮遊型の海上石油掘削基地のようなものが使われる。

 原理はこうだが、実際に宇宙エレベーターを建設するには課題が多い。まずは、引っ張り強度が同じ重量で鋼鉄の180倍必要という、テザーの材料。軽く強い材料としてカーボンナノチューブ(CNT)が注目され、2007年現在、必要な強度の1/3程度まで実現するCNTの量産技術が確立されてきているという。

 そのテザーを上り下りするクライマーはモータと摩擦車を使って自力で動く機構が提案されている。これらメカは、(1)太陽からの電磁波や放射線、熱による影響、(2)隕石やスペースデブリの問題、(3)高空に存在する原子状酸素の問題、(4)振動の問題、(5)地磁気による誘導起電流の問題など多くの宇宙空間に特有の課題にさらされながら、輸送運動の信頼性を確保しなければならない。

 ロケットは重量のほとんどを燃料が占め、スペースシャトルが低軌道に29tの貨物を打ち上げるのに用いる燃料は1,900tで、効率は1.5%程度という。そのため、現在H2Aロケットの場合で貨物1kgあたりの輸送コストは105万円と言われる。これに対し宇宙エレベーターでは、モータ駆動による昇降でロケット燃料が不要となることから20t程度の貨物を頻繁に上昇でき、仮に年間50回ほどの上昇を行った場合、1kgあたり1万円、年間100回となれば同5,000円の低コスト輸送になる。この宇宙への安価なアクセスは、月や火星への人類の進出も可能にする。重力がそれぞれ地球の1/6、1/3の月や火星には、スケールの小さな、より低コストの宇宙エレベーターが建設できるという。

 本年8月8日、9日に千葉県船橋市の日本大学二和校地で宇宙エレベーター協会が主催する「第1回宇宙エレベーター技術協議会」が開催される。こうした取り組みを通じて、宇宙への気軽な進出を容易にする宇宙エレベーターの技術が着々と確立されていくことに期待したい。