第10回『ファム・ファタール』
第10回『ファム・ファタール』カンヌ国際映画祭が開かれる中、385カラット1,000万ドルのダイヤ・ビスチェを強奪したロール(レベッカ・ローミン=ステイモス)は、仲間を裏切って逃走。仲間の追跡を逃れ、瓜二つのリリーという女性になり代わってフランスを離れアメリカへ。7年後、パリに着任したアメリカ大使の夫人リリー・ワッツとして舞い戻った彼女はこれまでマスコミに頑なに顔を見せなかったが、元パパラッチのスペイン人カメラマン、ニコラス・バルド(アントニオ・バンデラス)にスクープされ、自分の過去を暴かれることを避けようと本能的に罠を仕掛けていく。
ファム・ファタール(Femme fatale)とは男を破滅させる魔性の女をいう。映画のフィルム・ノワールというジャンルでは、必ず男を堕落させるファム・ファタールが登場する。本作はファム・ファタールであるロールが、自分を通りすぎるすべての男を利用し欲望を満たしていく。その中で「スペインの種馬」と言われるアントニオ・バンデラスさえも手玉に取られるのである。
ところで本作では、ロールがダイヤ・ビスチェを強奪する際に、仲間の一人が内視鏡のようなツールを使って設備室内を観察していく。いわゆるファイバースコープという柔軟な構造のものである。内視鏡オペで使われるように、目的の箇所に到達したところで、切除する鋏がファイバー先端部に現れる。これで配電盤の配線を切断し会場を停電にしたところで、闇にまぎれロールが逃走するのである。もちろんこの時点では、停電させた仲間はロールが裏切ることを知らない。ファイバースコープでは、管の内部で数本のワイヤーがスムーズに動いて目標地点まで動いたり、先端で作業したりする。このためワイヤーがかじって動かなくなったりしないよう潤滑が必要になるが、医療用でも使われる内視鏡に普通の潤滑剤は使えない。そこでドライの潤滑剤、固体潤滑が使われる。固体潤滑剤には温度条件など環境の変化に強い二硫化モリブデンやPTFE(四フッ化エチレン)などが使われている。
本作は『サイコ』などヒッチコック監督作品に敬意を評するブライアン・デ・パルマ監督作だけに、ヒッチコック監督『深夜の告白』がテレビ画面として登場するほか、瓜二つの女性が登場する同監督作品『めまい』の効果も使われている。ヒッチコックは螺旋階段を深い深い底に落ちていくようにめまいを覚える効果が使われるが、本作ではロールがアメリカに旅立つ飛行機エンジンのタービンブレードの速い回転で、めまいの効果を作り出している。ジェネレーションが違うだけに、デ・パルマのほうがメカが登場する場面が多い。とはいえ本作はデ・パルマならではのエロチック・サスペンスなので、メカよりも、ロールの魅惑的な肢体に釘付けになる方が多いと思うが…。