第203回 人とくるまのテクノロジー展2016開催、環境・安全に対応する機械要素技術
第203回 人とくるまのテクノロジー展2016開催、環境・安全に対応する機械要素技術自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2016横浜」(主催:自動車技術会)が5月25日~27日、横浜市のパシフィコ横浜で開催された。過去最大規模となる538社が、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)などの電動化、水素社会実現に向けた燃料電池車(FCV)、先進運転支援システム(ADAS)、さらには自動運転などを見据えて、最新の製品・技術を披露した。
電動化車両の進展:HEV~FCVへ
地球環境保全を背景に、燃費改善によるCO2排出量削減を目的に、HEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)を中心とした電動化が進んできている。2050年に走行時CO2排出量の10年比90%削減を目指すトヨタ自動車では今回、JC08モードで40.8Km/Lを達成する「4代目 新型プリウス」のカットモデルを展示。ガソリンエンジントップレベルの熱効率40%を実現したほか、新型リチウムイオン&ニッケル水素バッテリーの採用で軽量化と小型化を実現。トランスアクスルは、リダクションギヤの平行軸歯車化などで約20%の損失低減を図っている。また、モータ複軸構造化などにより小型・軽量化を達成した。
ホンダは、燃料電池スタックや水素/空気供給システムといった発電機能と、FC昇圧コンバータや駆動モータなどの配電/駆動機能をコンパクトに集約し、前後幅、左右幅、高さのすべてでV6エンジンと同等のサイズを実現した燃料電池パワートレインを搭載した燃料電池車(FCV)「CLARITY FUEL CELL」のカットモデルを出展した。70MPaの充填圧力に対し水素透過ゼロを達成したアルミライナ製水素タンクを採用。70MPaに対応し、サイズの異なる2本構成とすることで、パッケージング効率を高めながら水素貯蔵量を25%増加している。
自動運転に向け、ADASを先進化
富士重工業は、運転支援システム「アイサイトver.3」を搭載した「WRX S4」を出展した。アクティブレーンキープがオンになることで、走行車線を認識しハンドル操作をアシスト、車線中央付近の走行を維持し車線逸脱を抑制する。Ver.3では、「走る」「止まる」に加え、「曲がる」領域での運転支援を実現した。
自動車部品による電動化や安全性向上への対応
こうした自動車の電動化や先進運転支援システムなどの安全性向上への高まりを受けて、自動車部品各社では以下のような製品・技術を披露した。
NTNでは、小型・軽量化を実現したEV向けの「新インホイールモータ」を展示した。平行軸歯車式減速機とハブベアリングの組み合わせで軽量・薄型化を達成したほか、ベース車の懸架・転舵構造を変更することなく車両搭載を可能にしている。左右輪の独立駆動による車両安定制御システムを提供できる。
同社ではまた、自動車の駆動・制御で普及が見込まれるバイワイヤ制御に不可欠な、汎用性の高い「電動モータ・アクチュエータ」2種(同軸タイプと平行軸タイプ)を展示した。軸受やボールねじの製品技術とモータの設計技術、車両制御のための電子制御技術とを組み合わせたもので、ブースでは平行軸タイプの電動シフトセレクタへの適用を提案した。
ジェイテクトは、最適な駆動力伝達によって優れたトラクション性能と低燃費を実現し、駆動系の小型・軽量化を実現する「ITCC電子制御4WDシステム」を紹介した。また、減速機を弾性支持することでスムーズな中立でのステアリングフィールと路面情報の伝達性向上を実現するとともに、ボールねじの新デフレクタ構造などによる摩擦、トルク変動、振動を抑制した「ラックパラレルタイプ電動パワーステアリング(RP-EPS)などを展示した。
日本精工は、「アクティブオンセンタリング制御」を搭載したEPSを展示した。ドライバーがハンドルにかける力加減と車速や舵角といった走行情報を組み合わせて演算することで、ハンドル操作時にEPSが常に最適な舵角とアシスト力と導き出す技術で、安定した軌跡で直進状態に戻ることで、高速走行での車線変更の際のふらつきや、低速走行時にハンドルを戻すわずらわしさを低減し、ストレス、無駄、無理のない操作に寄与する。
同社ではまた、設計・材質を最適化することで軌道輪(外輪)の剛性確保と独自開発した高温耐油性Oリングにより、機械的な固定をすることなく、高温の潤滑油にさらされる環境下でも“クリープ"と呼ばれる軸受のすべり現象を大幅に抑制した「次世代クリープフリー軸受」を展示した。クリープに起因する振動とノイズの増大が抑制されることで、HEV・EVの一層の快適性向上に貢献する。
軸受においてトルク低減は燃費改善につながる。不二越では、特殊ボール軸受デザインによって、つば滑りがなく点接触となるため低トルク円すいころ軸受に対し30~50%のトルク低減が可能な「ELT軸受」を展示した。
昨年、トヨタ自動車が2050年に向けた「脱エンジン」宣言を行った。この意味するところはもちろん、エンジン技術だけで先述のCO2排出量削減目標を達成することは難しいとの判断から、エンジンのみの車をなくして、ハイブリッド車(HEV)、プラグインHEV(PHEV)、燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)といった電動化車両を中心に据えていこうという計画だ。
こうした中で自動車部品の開発においては、電動化に対応した小型・軽量の電動ユニットや、ステアバイワイヤ技術の進化などに加えて、HEVにおいてEV走行寿命の延長につながる軽量化や低フリクション化なども、引き続き重要になると思われる。
そうした一方で、2014年に自動車9社が中心になって自動車用内燃機関技術研究組合(AICE:アイス)を発足、ガソリン・ディーゼルエンジンの燃費向上に向けた共同研究を加速させているように、欧州勢に対抗しグローバルで勝ち残っていくうえで、今後も市場の中心となるHEVで重要なエンジン技術の進化は欠かせない。
エンジンは数百点の部品によって構成され、多数の摺動する部品の間で生じるフリクションにより、全体の1割以上にのぼるエネルギーロスが発生している。フリクション低減対策としてはすでに、バルブリフタやピストンリング、ピストンピンなどで適用が進んでいるダイヤモンドライクカーボン(DLC)や、HEVでのエンジン起動時の摩擦トルクや耐摩耗性を改善した大豊工業の樹脂コーティング付きエンジン用軸受など、様々な技術が登場している。
自動化に向けた次世代自動車技術を支える自動車部品において、電動化対応と並行して、従来からの小型・軽量化・低フリクション化の技術の追求が、ますます求められてきている。