第202回 MEDTEC2016開催、医療機器に求められる安心・安全の技術
第202回 MEDTEC2016開催、医療機器に求められる安心・安全の技術世界の医療機器の市場は2013年で約40兆円、日本の同市場は2014年で2.9兆円と過去最大を記録するなど、拡大基調にある。
欧米に比べ医療機器の承認審査期間が長かった日本国内においても、ここ数年で期間短縮や規制緩和などの施策がなされ、また昨年には米国立衛生研究所(NIH)を参考に日本の医療分野における研究開発の司令塔となる「日本版NIH」の中核機関「日本医療研究開発機構(AMED)」が設立されるなど、日本の医療機器産業の育成に向けた開発支援の気運が高まってきている。
こうした中で4月20日~22日に東京ビッグサイトで開催された医療機器の製造・設計に関するアジア最大の展示会「MEDTEC Japan 2016」では、504社・団体が出展した。展示の一端を紹介することで、医療機器に求められる安全・安心のための各種のアプローチを検証したい。
材料技術
ステント、カテーテルや人工関節など生体内で用いられるインプラント機器では特に、材料の生体適合性が求められる。これに対してダイセル・エボニックでは、従来の真鍮の人口歯根と、フルベニアまたはパーシャルベニアなどの複合材料を用いて作られた人工義歯(写真左下)に代えて、長期耐久性に優れ生体適合性の高いポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂「VESTAKEEP®デンタル」による一体成型品の人工義歯を提案した。
陽和は、C-F結合から耐熱、耐薬品、非粘着質などの特徴を持つフッ素樹脂の加工技術による医療・分析機器の課題解決ソリューションを提起した。たとえば接着剤を使わず熱と圧力による接合方法で不純物が溶出する懸念のない「PFAビードレス溶着」を、人工透析システム配管部品に適用することを提案。溶着部が完全に一体化しているため液漏れの心配がないことや、内面の平滑化により接合部への滞留を防ぎバイオフィルムの形成を抑制する、などのメリットを示した。
表面改質技術
また、トーヨーエイテックは膜中組成制御によって弾性率を変化させることで、金属だけでなく樹脂などの基材の変形にも耐えうる密着性を実現。医療機器の性能向上に貢献するダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングを紹介した。ステントにすでに応用済みで、高い生体適合性を実現するという。
トッケンは、抗菌性や抗血栓性、低溶血性、耐腐食性、耐薬品性、耐体液性など医療器具や理化学器具、医療用材料などに最適な特性をDLCコーティングに付加した、ナノテック製の「医療・バイオ向けICFコーティング」を提案した。同コーティングによって、血液付着防止や乱反射防止などの機能を付与することでメスや鉗子などに、細胞増殖性を付与することで培養プレートなどに、高耐久性・離型性を付与することで打錠機、錠剤機などに適用できるとした。
東レ・ダウコーニングは、注射針の表面処理や各種医療機器部材の表面潤滑処理、表面撥水処理、離型剤、プレフィルドシリンジ用潤滑剤として適用できる、医療機器用シリコーン処理剤「Dow Corning Medical Grade」を展示した。適用に合わせフルイドやエマルジョン、ディスパージョンの選択が可能で、医療機器に使われる各種部材に処理することによって、部材表面に潤滑性を付与する。
モーション技術
スガツネ工業は、動きを創造するテクノロジー「モーション デザイン テック」をベースとした、確実で安全で円滑な開閉動作を可能にする機構部品を提案した。たとえば検査センターの大型分析装置や医療機器などで、大型の重い上カバーを女性でも片手で楽に持ち上げられるパワーアシストモーションを紹介した。この「パワーアシストヒンジ」(写真)は圧縮ばねが元に戻るときの反力を利用して持ち上げる操作をアシストするもので、同時にダンパーにより、上カバーを閉める際に、手を離してもゆっくりと閉まっていくため、安全性・静音性を実現している。
竹内精工は、ミニチュアを中心とする直動案内「リニアガイド」や「球面フランジ型リニアベアリング」などの各種ボールブッシング、超精密の「研削ボールネジ」などを幅広く展示。医療機器では特に、臨床検査機器などでミニチュアリニアガイドが採用されてきている、とした。
ハイウィンは、自社の各種モーション機器を組み合わせることで、模擬歩行訓練で患者の自律を促す「下肢筋力トレーニングマシン」(写真)や、内視鏡を固定して支持し精密で確実な位置決めを可能にする「低侵襲手術ロボット」を紹介した。
生産管理システム
カールツァイスは、新製品の卓上型ワンボタン式デジタル画像測定器「O-SELECT」を展示。測定台にワークを置いてボタンを押すだけで、測定精度4.5+L/100μm、繰り返し再現性0.9μmと精度の高い測定を、自動(フォーカス自動設定、照明自動設定、要素自動認識)で行う。加工した医療機器部材の品質管理に利用できる。
HOYAサービスは、医療機器生産管理で実績のある医療機器業界向け生産管理プレート「Microsoft Dynamics AX」を紹介した。ロット管理・シリアル管理・製番管理や品質トレーサビリティなどを実現できる同テンプレートを活用することで、失敗しないERP(総合基幹業務システム)導入が可能なことや、ERP導入の効率化も実現し導入期間を低減できることなどをアピールした。
規制緩和などによって医療機器分野への新規参入企業が増えつつある中、従来の材料技術にとらわれない各種のテクノロジーが提起されてきている。医工連携の取り組みも交えて、わが国の医療機器市場の拡大がますます期待されている。