第171回 HTV3のISSへのドッキング成功 宇宙ビジネスの商機をもたらす「こうのとり」
第171回 HTV3のISSへのドッキング成功 宇宙ビジネスの商機をもたらす「こうのとり」 H2Bロケット3号機によって7月21日に打ち上げられた無人補給船「こうのとり(HTV)3号機」が高度約300㎞で分離、所定の軌道に投入され、7月28日に、高度約400kmで国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の星出彰彦氏が操作するロボットアームで把持され、ドッキングした。今後、HTV3で運搬した宇宙飛行士の食料や日用品などがISS内に移送されるほか、同じく積載してきた和歌山大学/東北大学合同プロジェクト、福岡工業大学、明星電気、海外2大学の小型衛星5機がロボットアームで宇宙空間に放出される。
HTV3では、HTV2まで海外製だったメインエンジン(HBT-5エンジン)とRCSスラスタ(HBT-1スラスタ)がともに国産化(IHIエアロスペース(IA)社が開発を担当)された。HTV3はロケットから分離後、自動的にNASAのデータ中継衛星(TDRS)との通信を確立、ISS「きぼう」に設置された反射板(リフレクタ)を目標に、スラスタでISSに向けて徐々に近づき、ISSの後方約5kmの地点でISSに対して相対的に停止されたことが確認されるとスラスタが停止され、ロボットアーム(SSRMS)でHTV3のグラプルフィクスチャ(FRGF)を把持、ISSの「ハーモニー」(第2結合部)の地球側の共通結合機構(CBM)に結合され、ISSに係留された。ISSに結合されハッチが開かれると、ISSのクルーが補給キャリア与圧部から船内物資(実験ラック、飲料水、衣料など)をISS内に移送し、逆にISSの不要品を補給キャリア与圧部に積み込む。また、曝露パレットを補給キャリア非与圧部から取り出し、船外物資を移送する。
衛星搭載ケースに収納後にソフトバッグに梱包されHTV3で運ばれた10㎝四方の小型衛星(CubeSat)5機の放出機構は次のとおり。ISSの中では「きぼう」だけがエアロックとロボットアームを装備しているが、これらを使うことでクルーが船外活動をせずに小型衛星を放出できる。ISS到着後、ソフトバッグは「きぼう」内に搬入され、「きぼう」のエアロックの内側ハッチを開け、エアロック・スライドテーブルを船内側に伸展させる。衛星を搭載した小型衛星放出機構(J-SSOD)と、親アーム先端取付型実験プラットフォームをエアロック・スライドテーブルのアダプタに取り付ける。スライドテーブルをエアロック内に収納し、エアロックの内側ハッチを閉鎖し、内部を減圧する。エアロックの外側ハッチを開けて、エアロック・スライドテーブルを船外側に伸展させる。「きぼう」のロボットアームで親アーム先端取付型実験プラットフォームを把持し、スライドテーブルから外す。ロボットアームで放出位置まで移動し、位置決めを行う。軌道上もしくは地上からのコマンドで、放出機構(片側)から衛星を放出する。終了するともう片方の放出機構からも衛星を放出する。放出は、分離機構のカムを回転させると正面の蓋が開き、バネの力で押し出される仕組み(図)。ロボットアームで親アーム先端取付型実験プラットフォームをエアロック・スライドテーブルに戻し、ハッチを閉じて内部を再加圧し、船内に放出機構を戻す。衛星は放出から30分が経過するまではアンテナなどの展開はせず、電波の放射も行ないよう設定される。小型衛星は、高度400kmで放出した場合、250日程度で大気圏突入し、ミッションを終了する。
ISSからの不要品の積み込みなどが完了すると、HTV3はISSから分離され、大気圏に再突入し燃焼廃棄され。HTV3は、次の手順でISSから分離される。まず、ISSのロボットアームで把持した状態で、共通結合機構(CBM)を解除する。これは、2枚のハッチ間の空気を真空引きして減圧したのち、CBM制御装置に16本のボルトを緩めるコマンドを送信(通常はクルーがラップトップPCから送信)し、CBMの固定を解除するもの。ISSのロボットアームで放出ポジションに移動すると、誘導・航法・制御装置(GNC)が起動され、推進スラスタの噴射が準備(スラスタの噴射停止から、噴射が可能な状態に切り替え)され、ISSのロボットアームの把持を解放し、ISS軌道からの離脱噴射を行う。
その後、減速させるための軌道離脱マヌーバを実施し、大気圏に再突入するわけだが、HTV3では、日米の2種類の再突入データ収集装置を搭載し、再突入・分解時の環境データの取得を行う予定となっている。再突入する宇宙機の破壊現象を特定することにより、落下の予測精度を高めて着水警戒区域の縮小につなげると共に、大気・加熱率等の再突入機の設計(回収機であれば耐熱性の検証、廃棄する機体であれば耐熱性や強度の余裕を減らして燃え尽きやすい設計)に役立てるためのデータ取得を行う予定。
日本(IHIエアロスペース)が開発した再突入データ収集装置「i-Ball」には2台のカメラを搭載、ハッチが高温で破壊される様子の撮影と、降下しながらHTVが破壊される様子の撮影に挑む(世界でも初めての試み)。i-Ballを起動するためのスイッチ操作は星出宇宙飛行士が行う予定。i-Ballは球形をしており、アブレータで高熱に耐えたのち、パラシュートを使って降下し、着水してからイリジウム衛星経由でデータを送信する方式。データ送信を行うためにしばらくは浮いているが、いずれ沈む設計となっており回収はしない。i-Ballは、HTV3の与圧部から放出される機構を持っているわけではなく、HTV3の破壊と共に外へ放出され、HTV3の破壊の様子(破片の温度や加速度、位置など)を測定する。上空6㎞でパラシュートを開いて落下、着水し、取得したデータを送信する。
さて、小型衛星はこれまでも大学などが低コストな衛星技術として打ち上げ、運用を志向しているが、耐久性不足あるいは打ち上げ時の損傷などがもとで宇宙のごみ(スペースデブリ)と化してしまう例が多かった。これに対してHTV3では先述のとおり、緩衝材となるバッグで運搬されるため、打ち上げ時の衝撃による不具合が出にくいうえ、不具合があってもISS内で修理できる。小型衛星のビジネス化に向けた検証が進めやすくなると見られる。
また、HTV3のISSとの脱着部やロボットアームの駆動部などでは、二硫化モリブデンなどの固体潤滑コーティングが真空中での潤滑を実現しているが、以前本欄で報告した通り、こうした固体潤滑コーティング材を含めた各種材料の宇宙空間での暴露試験では、スペースシャトルの運用終了後、暴露パレットの運搬をどうするかが不安視されていた。こうした点でも、大型の実験ラックや大型の船外物資などISSへの輸送能力の高いHTV3の役割は大きい。
さらに大気圏再突入時のデータどりなど、有人宇宙船の開発につなげるステップとしても期待されている。
宇宙開発の宇宙航空研究開発機構(JAXA)法と内閣府設置法が6月に改正、7月12日には宇宙戦略室が内閣府に設置され、宇宙産業の国際競争力向上に向けた動きが活発化してきている。ここでは他国に依存している有人飛行を自国で賄うことも目標に置いている。HTV3のプロジェクトがその良い試金石となることを願う。