第132回 EVの高性能化に向け、部品・材料開発が進展

第132回 EVの高性能化に向け、部品・材料開発が進展 kat 2011年5月2日(月曜日)

SIM-LEI(提供:シムドライブ)SIM-LEI(提供:シムドライブ) 東日本大震災によりガソリンの供給が混乱した中、被災地で救援物資を運ぶ支援車両として、三菱自動車のi-MIEVや日産自動車のリーフなど電気自動車(EV)が現地に相次いで投入され活躍した。ガソリンが出回るよりも電気が早く復旧したことや、電力需要の少ない夜間に充電できることも、EVが重宝された理由で、航続距離が短いという最大の難点も、地域間の連絡手段としては十分に機能したようだ。

 さて、EVが予期せぬ場面で注目される中、この航続距離を1充電あたり333kmに延長するというEVが、お披露目された。慶應大学ベンチャーのシムドライブ社が2013年頃の量産化をめざし進めてきた、先行開発車事業第1号の車両「SIM-LEI」だ。性能目標はEV普及の上で最大の課題となる航続距離を300km以上に延長することだったが、完成した車両は何とJCO8モードで同333kmを打ち出した。この航続距離伸長にはタイヤホイールの中にモーターを内蔵させトランスミッションやシャフトをなくしたインホイールモーターの技術などが貢献している。エンジンの代わりにモーターを搭載する方式に比べ、30%以上航続距離を延ばせるという。

インホイールモーター(提供:NTN)インホイールモーター(提供:NTN) 今回採用したインホイールモーターは、減速機を用いずにローターを外側に配置するダイレクトドライブ方式だが、インホイールモーターとしてはこのほか、NTNが開発を進めるギヤリダクション方式がある。NTNでは、モータートルクを増幅してタイヤに伝えることが可能な世界最高速、高効率、高負荷容量、高減速比の「サイクロイド式減速機構」を採用しつつ、同社の高精度•長寿命転がり軸受技術を用いることで、サイクロイド減速機構の速度限界と負荷容量の限界を、電気自動車で利用できるレベルまで向上させることに成功した。

 エンジンの代わりにモーターを置いて、車軸やギヤなどを介して動力伝達を行う現行のEVにせよ、インホールモーター式のEVにせよ、駆動源となるモーターの技術の改良がバッテリー消費を減らす上で重要であろう。

 先のシムドライブ社では、2014年頃に参加企業による量産化をめざして、先行開発車事業第2号を本年から開始しているが、今回は化学材料の適用を拡大している点に特徴がある。金属材料に替わる耐久性があり軽量化が図れるエンジニアリングプラスチックを手がけるポリプラスチックス社、同じく炭素繊維強化プラスチックス(CFRP)などを手がける東レなどがプロジェクトに参加しているわけだが、軽量化によってモーターの回転負荷を減らしエネルギー消費を減らそうというねらいであろう。無給油ベアリングのオイレス工業や表面改質処理の日本パーカライジングのプロジェクト参画も無関係ではないであろう。

 シムドライブ社ではプロジェクト終了後は参加企業がそこで培った技術を自由に利用して良いとしている。そうしてEV専用の技術開発が進むことで、EVの航続距離や耐久性の問題も徐々に改善されていくだろう。

 しかし3月に自己破産申請したゼロスポーツのように、EVとして優れた技術開発を進めながらも、改造後の品質保証の問題などで自動車メーカーからの車体調達が難航し、事業が行き詰まった例もある。EV専用部品・材料の開発が進む中、EV市場のさらなる拡大に向けて、そうしたEVコンポーネントの積み替えといった規制緩和や量産での実績が豊富な自動車メーカーとの協調体制などへの期待が高まってきている。