第121回 「はやぶさプロジェクト」にわが国の誇る技術力を思う
第121回 「はやぶさプロジェクト」にわが国の誇る技術力を思う 昨年末、内閣府において、約7年、60億kmの宇宙航行を経て、イトカワから約1,500個の微粒子を持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトに関わった宇宙航空研究開発機構(JAXA)のはやぶさプロジェクトチームと、それを支えた118の企業や大学などの功労者に対して、海江田万里・宇宙開発担当相と高木義明・文部科学相から感謝状が贈られた。
ヒンジ部にNTNの球面滑り軸受採用
プロジェクトチームには、探査ロボット「ミネルバ」と回収カプセルを開発したIHIエアロスペース、サンプル採取装置を開発した住友重機械工業、イオンエンジンを開発したNEC、化学推進スラスタ・イオンエンジン推進剤供給系を開発した三菱重工業などのほか、重要な機械要素である軸受のメーカーとしては、NTNが参画した。
衛星は打ち上げ後、その駆動源である電力を主として、宇宙空間で展開した太陽電池から得ている。太陽電池は一般に平板で効率よく発電するためには、太陽方向に対し直角に向いている必要がある。太陽電池パドル機構部(PDM)はこの動作を行う機構で、この展開駆動部となるヒンジ部(関節部位)に軸受が用いられている。「はやぶさ」では、宇宙空間で太陽電池パネルを開くためのこのヒンジ部にNTN製の球面滑り軸受が採用、宇宙空間という特殊な環境で作動し、太陽電池による電源供給を確実にする役割を果たした。
プロジェクトチームにはそのほか、固有技術を持つ多くの中小企業も参画、その中に海江田宇宙開発担当大臣が自ら視察を行った、固体潤滑被膜を手がける川邑研究所がある。
各種駆動箇所には川邑研の固体潤滑剤
宇宙空間では10-5Pa以下の真空、微小重力、原子状酸素などの環境にさらされる。この真空環境では、地上で使われているオイルやグリースなどの液体潤滑剤は蒸発による機能の大幅な低下が避けられず、真空中でも蒸発しない固体潤滑剤が用いられる。中でも層状固体潤滑剤であり、摩擦せん断時の劈開により潤滑なじみを実現する二硫化モリブデンの焼成膜などが国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」などでも実績がある。
宇宙関係での二硫化モリブデンの適用に長年の実績を持つ川邑研究所では、「はやぶさ」でも二硫化モリブデン被膜を提供、打ち上げのロケットブースターの切り離し部や、太陽電池パドル駆動部、探査ロボットの脱着部など、各種の駆動箇所に多用されていると見られる。
「はやぶさ」を支えたこうした技術に触れた海江田宇宙開発担当大臣は、「宇宙開発は総合的な技術力が求められる裾野の広い分野で、多くの機関や企業の力を集めてはじめて成り立つもの。はやぶさの成功も、探査機の製造、打上げ、運用、回収、試料分析など様々な分野で、プロジェクトメンバー一人一人の力の結集があってこその快挙」と語っているとおり、中小企業に至るまでのわが国の世界に誇る技術力の結集によって、はやぶさは数々のトラブルに見舞われながらも奇跡の帰還を果たした。「プロジェクトメンバーの表彰は、はやぶさの成功に貢献した個々の高い技術力を顕彰する目的」(海江田氏のブログより)とのことらしいが、わが国の優れた技術力のアピールを国内にとどめていてはもったいない。はやぶさが世界的に注目される中、衛星ビジネスも少しずつではあるが立ち上がってきている。今年こそ、こうしたわが国のインフラ・システムの世界市場への輸出を本格化させられるよう、官民一体となった取組みに期待したい。