第108回 クルマの省燃費化を図るエンジンオイルが販売開始

第108回 クルマの省燃費化を図るエンジンオイルが販売開始 kat 2010年10月4日(月曜日)

提供:出光興産提供:出光興産 出光興産( http://www.idemitsu.co.jp )は、API(米国石油協会)と日米の自動車メーカーで組織されるILSAC(国際潤滑油規格化認証委員会)の新規格に合格したガソリンエンジンオイルを新規格発効日の10月1日から全国一斉に系列サービスステーション(SS)で販売を開始した。JX日鉱日石エネルギーや昭和シェル石油などの石油元売りメーカーでも、新規格適合のエンジンオイルを11月から発売すると発表している。旧来規格と比べ省燃費性能をはじめ高温酸化安定性能、触媒被毒防止性能の向上が求められるほか、バイオ燃料対応性能が新たに求められている。

「機械の血液」と呼ばれる潤滑油には、油膜を作ることで摩擦・摩耗を抑え焼付きを防止する「潤滑作用」、ピストンリングとシリンダ間で油膜を作り燃焼ガスの漏れを防ぐ「密封作用」、燃焼により発生した熱を外部に逃がす「冷却作用」、燃焼や回転中に受ける応力を分散する「緩衝作用」、摩耗で発生した粒子(摩耗粉)を洗い流す「清浄作用」、金属部品の錆発生を防止する「防錆作用」などの機能がある。エンジン油は高速、高圧、高温などの環境下にさらされるピストンリングとシリンダーライナー、クランクシャフトとコンロッドのベアリング、動弁機構などエンジン部品の動きを円滑にし、エンジンの性能を引き出すとともに保護する。

 旧来、このエンジン油の性能・品質を規定する規格としては、石油メーカーで組織されるAPIが制定するAPI規格が用いられてきたが、近年、自動車メーカーにおいてCO2削減、つまり省燃費性能の向上が重要課題とされる中、クルマの省燃費化システムをAPI規格が満足させられない事態が発生、1991年に日米の自動車メーカーからなるILSACが組織され、エンジンの構成部品の一つであるエンジン油に省燃費性能の規格を盛り込んだILSAC規格が作られることとなり、順次クルマの最新技術に適合したエンジン油が市場にリリースされるようになった。以降、ILSAC規格が改訂されるのに合わせてAPI規格も市場投入されている(ILSAC規格=API規格+省燃費性能)。

 ILSAC GF-5規格は、省燃費性能のさらなる強化、市場におけるロバスト性向上、排出ガス適合性の強化、の三点を主眼に開発された。省燃費性能の強化では、新試験法により実際の運転状態をより反映させるよう、回転数、負荷、出力、油温、水温などの試験条件を変更して境界・混合潤滑領域となる高温・低回転条件の割合が増えたことで、エンジン油の違いによる燃費のバラツキが排除されている。ロバスト性向上では、主に清浄性を中心とした性能の強化が規定された。排出ガス適合性強化では、排出ガス後処理装置の触媒寿命を低下させるエンジン油添加剤中のリン(P)に関して、前規格のGF-4までその含有量が段階的に低減されてきたが、リンは摩耗防止の機能を持ち、リン含有量の低減は摩耗促進につながることから、リンの含有量はGF-4同等(最大0.08mass%)としつつ、リンの蒸発量(減少量)を規定、その目標値を11%未満(残存量89%以上)としている。

 この厳しい規定をクリアすべく、石油メーカー各社では省燃費化につながる0W-20という低粘度化を図る高粘度指数(温度による粘度の変化が少ない)のベースオイルに加えて、粘度指数向上剤や低粘度下で懸念される油膜切れなどに対する摩擦調整剤など各種添加剤の適切な配合が行われている。今回発売された出光興産のエンジン油では、金属間のすべりをよくして省燃費性能を高める摩擦調整剤(FM)モリブテンの効果を最大限に引き出す添加剤処方を開発、同社従来オイル10W-30に対し、モータリングテストで約9%のトルク改善を記録、対10W-30燃費向上率が約8.4%だった同社SM/GF-4適合エンジン油に比べても2%上回っているため、さらなる燃費向上が期待できるとしている。

 GF-5規格は、2011年までに製造されるすべての乗用車で省燃費性能を向上し排出ガスを低減するために施行される新しい政府規制を満たさなければならない米国はもちろん、日本、カナダ、韓国でGF-4と同様に新車に採用される見込みだが、中国では依然数世代前の規格が流通していることから、量的に拡大する中国向け車両に対して新規格に適合した0W-20といった低粘度オイルの工場充填が遅れるとの見方も強く、GF-5適合油の市場が予測よりも縮小することを危惧する声もある。

 自動車メーカーと石油メーカーとの長年の協議のもと規定されたGF-5規格とそれをクリアすべく多額の費用と開発期間を投じて開発された新規格適合のオイルの普及と、それによるクルマの省燃費化、CO2削減が促進されることに期待したい。