第102回 ラベリング制度の普及で、タイヤの安全性向上と低燃費化技術に拍車

第102回 ラベリング制度の普及で、タイヤの安全性向上と低燃費化技術に拍車 kat 2010年8月23日(月曜日)

提供:日本自動車タイヤ協会提供:日本自動車タイヤ協会 自動車のタイヤ性能に関するラベリング制度の導入が世界的に進んできている。本年1月に運用を始めた日本に続き2011年には韓国で、2012年には欧州で導入が予定されているほか、米国でも導入が検討されている。同制度の性能要件であるタイヤの低燃費化への要求が新興国も含めて強まってきている。

 タイヤの燃費への寄与率を10%と仮定した場合、転がり抵抗を20%低減したとすれば自動車の燃費は2%向上する計算となる。このため近年タイヤに対しても低燃費化の要求が高まっていることから、各タイヤメーカーではこれまで独自基準の性能評価による低燃費タイヤを販売してきた。これに対しタイヤラベリング制度は、統一された試験方法により実証されたタイヤ性能を消費者にわかりやすく示し、低燃費タイヤの普及促進を図るねらい。国内では日本自動車タイヤ協会( http://www.jatma.or.jp )が本年1月から業界の自主基準として乗用車用夏用タイヤを対象に「低燃費タイヤ等普及促進に関する表示ガイドライン(ラベリング制度)」の運用を開始している。

 同制度では、低燃費を示す転がり抵抗係数(RRC、単位N/kN)を
(1)グレードAAA:RRC≦6.55
(2)グレードAA :6.6≦RRC≦7.7
(3)グレードA :7.8≦RRC≦9.0
(4)グレードB :9.1≦RRC≦10.5
(5)グレードC :10.6≦RRC≦12.0
の5等級で、制動の安全性を確保するウェットグリップ性能(G、単位%)を
(1)グレードa:155≦G、
(2)グレードb:140≦G≦154
(3)グレードc:125≦G≦139
(4)グレードd:110≦G≦124
の4等級で表示。転がり抵抗係数は「JIS D4234(乗用車、トラックおよびバス用タイヤ-転がり抵抗試験方法-単一条件試験および測定結果の相関): 2009(ISO28580)」により、ウェットグリップ性能は「EU 規則 Wet Gripグレーディング試験法(案)(TEST METHOD FOR TYRE WET GRIP GRADING (C1 TYRES))」により評価、ウェットグリップ性能110以上(グレードa~d)、転がり抵抗係数9.0以下の上位3等級(グレード AAA~A)を満たすタイヤを、「低燃費タイヤ」と定義している。

 タイヤの転がり抵抗には、(1)走行時のタイヤの変形によるエネルギーロス、(2)トレッドゴムの路面との接地摩擦によるエネルギーロス、(3)タイヤの回転に伴う空気抵抗によるエネルギーロスがあるが、ゴム(粘弾性体)に加えられた力は、変形により熱に変換されエネルギーを消費してしまうことから、これらの要因のうち、タイヤの転がり抵抗にはタイヤ変形の影響が大きい。

 これに対し横浜ゴムでは、タイヤの内部に貼り付けて自然と起こる空気漏れを抑制するインナーライナーに、樹脂の低透過性とゴムの柔軟性を高次元でバランスした従来品の5分の1の薄さの新素材を適用、タイヤの空気漏れによる転がり抵抗の悪化抑制と軽量化による燃費向上を図っているほか、接地摩擦によるエネルギーロスの低減からは、コンパウンドをナノレベルで解析、天然ゴム+低発熱ポリマーを適用し転がり摩擦抵抗を低減し低燃費性能を向上している。

提供:ブリヂストン提供:ブリヂストン また、ブリヂストンでは、ブロックを路面に水平に接地させトレッドショルダー部の無駄な変形を抑制したほか、従来のトレッドゴムに配合されていたカーボン同士が擦れ合ってエネルギーロスが発生していたのに対し、カーボン粒子をナノレベルで調整し分散、カーボン同士がぶつかり合って起こる発熱を抑制、エネルギーロスを低減し転がり抵抗を抑えている。


提供:日本自動車タイヤ協会提供:日本自動車タイヤ協会 しかし一般的に、タイヤの転がり抵抗を低減すれば、濡れた路面での制動距離(ウェット制動距離)が伸びるというように、転がり抵抗係数とウェットグリップ性能はトレードオフの関係にある。つまり、適正範囲を超えて空気圧を上げたり材料技術などで転がり抵抗をやみくもに低減することは、トレードオフとなるウェットグリップ性能の低下、つまり自動車の安全性を損なうこととなる。そこで、転がり抵抗低減の一方で、タイヤのトレッドパターン(溝の形状)による排水性の改善など、ウェットグリップ性能の向上が図られている。


提供:日本ミシュランタイヤ提供:日本ミシュランタイヤ たとえば日本ミシュランタイヤではセンター部に配置したストレートグルーブや独自のサイプ技術により、雨天時も優れた排水性とグリップ性能を発揮しているほか、横浜ゴムではゴムをしなやかにしてグリップ力を高めるオレンジオイルなどの配合により、ウェットグリップ性能を高めている。

 タイヤによる燃料消費量低減の効果が大きいことから、ガソリン高の中国で価格が割高であるにもかかわらず低燃費タイヤが注目されるなど、その市場は確実に成長してきている。電気自動車においても自動車の安全性、操縦快適性などに関わるタイヤの役割は変わらない。むしろ、バッテリーやモータ・ジェネレータの負担軽減などからは、タイヤの転がり抵抗低減への要求は、より高まっていくことだろう。タイヤのラベリング制度が世界的に普及し、低燃費タイヤの需要が拡大していくなか、安全性を確保するウェットグリップ性能を向上した上での、タイヤの転がり抵抗低減のさらなる取組みに期待したい。