第100回 MEMSビジネスを支えるメカ技術
第100回 MEMSビジネスを支えるメカ技術 世界最大規模のMEMS(微小電子機械)、超精密・微細加工、ナノテクノロジー、バイオに関する国際見本市「第21回マイクロマシン/MEMS展」が7月28日~30日、東京・有明の東京ビッグサイトで開催された。MEMSの基盤技術でもある表面技術の総合展「SURTECH2010」とMEMSの応用分野である次世代ロボットの製造技術展「ROBOTECH」が併せて開かれた。
MEMSは、半導体製造技術やレーザ加工技術など、各種微細加工技術を応用し、微小な電気要素と機械要素を1つの基板の上に組み込んだセンサ(振動や動きなどを感知するしくみ)やアクチュエータ(機械を正確に稼働するしくみ)などのデバイス・システムをいう。MEMSは半導体製造技術を使って、機械的な部品を作ることからスタートした技術で、シリコンなどの半導体基板上に、3次元的可動構造体を利用したセンサやアクチュエータを形成する。半導体が「産業のコメ」と呼ばれるのに対し、マメの主成分であるたんぱく質が目や耳などの感覚器官や筋肉とあらゆる情報を認識し、行動を起こす器官を構成することがMEMSの機能そのものであることから、MEMSは「産業のマメ」とも呼ばれる。
機械の小型化・集積化を図れることが最大の特徴で、機械を微小化すると軽量化、省スペースだけでなく、省資源、省エネルギーが図れる、感度を高くできる、といった多くのメリットが得られる。またシリコン単結晶などの機械的特性に優れた材料を使用するため、製品の信頼性が向上する。
こうした特性に優れるMEMSの応用例として、たとえば任天堂のテレビゲーム機「Wii」の手の動きで操作するコントローラ用3軸(X、Y、Z)ジャイロセンサでは、幅広い検出範囲、高い他軸感度、高い耐振動性、耐機械的衝撃性、コントローラの小型化を実現している。また、モバイル機器に搭載されるハードディスクドライブ(HDD)のヘッドに3軸加速度センサを搭載することで、万が一機器が落下したときでも、落下を検知しヘッドをディスクから待避させデータを保護する。
自動車のハブベアリングユニットなどに搭載される加速度センサ、角速度センサなどのMEMSセンサは、車両の統合安全制御に貢献している。
さらに携帯電話等のモバイル機器の高周波部品をMEMS部品に置き換えることで低消費電力、低コストで数十GHzの通信帯域を実現するRF-MEMS、光通信網で用いられる従来の光電変換型のスイッチに比べ、省スペース、省エネルギー、低コスト化の効果が得られる光MEMSなどの適用も広がってきている。
さて、MEMSにはシリコン系基板への成膜、フォトリソグラフィー、基板および薄膜のエッチング、接合(ボンディング)といった基本的なプロセスフローがある。今回の展示会ではそれぞれについて開発、研究成果が示された。
信頼性の高いMEMS製品を作るには機械的に信頼性のある膜が成膜される。メンブレン構造の場合、シリコン基板をベースにシリコン酸化膜層や窒化シリコン層、クロムやタングステンなどの金属薄膜といった積層構造をとる。ここでは厚い金属膜が堆積されることが多く、PVDやCVDより成膜速度が速いメッキや電鋳がよく利用される。同時開催のSURTECHでは、ナノスケールでの制御を実現するメッキプロセスを用いたMEMS作製が多数提案された。通電して金属などを析出させる電解メッキはすでにMEMSで多用されている。
また、シリコン基板のエッチング技術としてSi深掘り装置が住友精密工業などから展示された。シリコン基板に細い溝を深く形成するもので、溝の深さと幅の寸法比(アスペクト比)を大きくできることがポイント。 一般にシリコンは深く掘るにつれて横方向にも削られるという問題があるため、高アスペクトで深堀りする技術が求められている。同社では100μm/min以上の高エッチレート加工を実現した。
MEMSの構造材料として用いられるシリコン系材料に加えて、金属ガラスなどの適用も検討されているが、脆性のため短時間・低コストで三次元形状の構造材を作製することがこれまで難しかった。これに対しレーザフォーミングという、材料表面にレーザを照射して局部加熱による熱応力で塑性変形させる方法も提案されている(熊本大学 高島・大津研究室)。
MEMSの高機能化の技術としては、立体形状自由加工技術(立体構造上へのパターン形成技術)のほか、ナノ機能材料選択的形成技術(ナノ材料局所形成技術)、機能性表面形成技術(化学的・バイオ的表面修飾技術)などが、低コスト化に資する技術としてはマイクロプレス成形技術(ナノインプリンティング技術)やパッケージ技術(高度実装技術)などが、技術基盤の確立として、各種シミュレーション技術(プロセス解析技術)、多品種・少量・省エネ・フレキシブル加工技術などが挙げられている。いずれも微細加工技術のさらなる進展が中心となろうが、表面改質技術も機能性表面を作る上で重要と言えそうだ。
わが国のMEMS市場は単体・応用製品を含め2005年度で約4,400億円。これが2010年には1兆円規模に、高集積化・複合化が進み2015年には2兆4,000億円規模にまで拡大していくと予測されている。さらに2025年以降には、ガンや肝炎にかかった人たちが常にセンサを身に付けて自分の体をモニターすることを可能にするようなバイオMEMSなども後押しして、市場は10倍近くに拡大するとも見られている。上述のような加工・表面改質、さらには解析、試験・計測・評価技術を含めたメカ技術の課題克服で、MEMSビジネスの拡大を促進してほしい。