第91回 環境・人にやさしい水圧技術の市場開拓に向けて
第91回 環境・人にやさしい水圧技術の市場開拓に向けて油圧・空圧・水圧機器の業界団体である日本フルードパワー工業会は先ごろ、東京都港区の東京プリンスホテルで通常総会を開催、新会長に就任した宮内壽一・甲南電機社長は総会後の懇親会の挨拶で、「わが国の機械産業のものづくりを支える重要な基盤技術であるフルードパワー技術においても、CO2削減は大きな課題。省エネ化技術、中でも水圧技術の開発を強力に推進したい」と語った。
水圧システム、ADS(アクア・ドライブ・システム)は水道水の圧力(適正水圧は0.25~0.4MPa)で機器を動かす。ADSは水道水を作動流体として使用するため、油圧に代わる環境に優しい、低コストなフルードパワーとして、研究開発が活発に行われている。現時点では事業としての数字が現れていないが、徐々に適用を広げ、2012年には1,100億円の市場規模となるとの予測もある。現在主流の油圧機器が2,600億円程度、水圧機器が2,300億円程度の市場を持つことから、フルードパワー全体としてはその段階では7,000億円の市場を形成することとなる。
しかし水圧機器では、作動流体となる水が、油圧機器の作動流体である作動油と違い低粘度(油が50mm2/sなのに対して、水が1mm2/s)で潤滑性に乏しいため、摺動面の設計が問題となる。
特にシール技術である。水圧ポンプなどでは、流体である水の内部漏れや外部漏れの増加により作動効率が低下するとともに、摺動面では流体の粘度が低いことで固体接触しやすく、摩擦損失、ひいては焼付きを引き起こす。
水潤滑水圧ポンプや水圧シリンダなどを幅広く手がける三菱重工業では、水圧機器内部隙間の漏洩量大(油圧比50倍)で低効率となる問題に対し、隙間管理を適正化し、低摩擦シールを採用することで克服、油圧システムからの代替を進めている。
シールメーカーではたとえばKYBと早くからADSの開発に参画していた阪上製作所では、水圧機器用シリンダシールとして、密封流体の水の潤滑性が劣ることや乾燥しやすく摩擦・摩耗、耐久性の面でデメリットとなることから、水潤滑に適したシール形状・材料や摺動面の潤滑保持の工夫、負荷の大きさに合わせたシールやウェアリングなどの摺動部材の選定に留意している。特に大気側にあたる潤滑・水膜の保持されにくいロッド部のシールとして、水の循環ポートなどを設けたほか潤滑保持リングを併用することなどで往復動の摺動耐久性を向上している。
こうした漏れや貧潤滑への対応の一方で、水圧機器ならではの用途展開も進む。たとえば、介護機器として、身障者を風呂まで運ぶ簡易リフト。風呂場で使う目的のため、漏れもある程度許容される。また食品機械であれば、万が一、作動流体である水が漏れた場合も製造現場、さらには加工品である食品に対して衛生面でのリスクを回避できる。
世界的に水ビジネスが市場を拡大する中、こうした水圧機器はコンポーネントの一つとして有用な技術となるであろう。先ごろ、機械システム振興協会が日本フルードパワー工業会に委託して進めた調査研究「新水圧システム(ADS)を用いたロボティクスの新機軸応用に関するフィージビリティスタディ(F/S)」が終了し報告書がまとめられ、他国での実用例やわが国で推進する上での課題などが示されたが、引き続き産官学一体となって、シール技術など効率・耐久性の向上につながる技術に磨きをかけつつ、水圧機器の利点を生かした用途開発に努めてほしい。