第83回 もんじゅ運転再開に向け、さらなる安全性確保の取組みを!

第83回 もんじゅ運転再開に向け、さらなる安全性確保の取組みを! kat 2010年3月29日(月曜日)

monju 1995年のナトリウム漏れ事故以来停止している高速増殖原型炉「もんじゅ」(定格出力28万kW、福井県敦賀市)の運転再開について、文部科学省の中川正春副大臣は先ごろ、同省が目標とした2009年度内(3月中)の再開は難しいものの最終調整段階にあることをほのめかした。事業見直しの声もある一方で、クリーンエネルギーとされる原発に回帰する「原子力ルネサンス」の急速な流れの中で、現在主流の軽水炉に代わる夢の原子炉として、運転再開に向けて着実に動き出している。


高速増殖炉高速増殖炉 高速増殖炉は、軽水炉(熱中性子炉)と異なり、燃料のプルトニウムにエネルギーの高い(高速)中性子を打ち込んで核分裂を促し、炉内の燃えにくいウラン238を燃えやすいプルトニウム239に変えることで、発電するとともに消費した燃料以上の核燃料を新たに作り出す。高速増殖炉では増殖のために中性子が使われるため、軽水炉より多くの核分裂と中性子を発生させる必要があり、炉心で大量に発生する熱を取り出すのに、熱伝導性がよく、中性子を減速しにくいナトリウムが冷却材として使われる。

 1995年12月の事故は、ナトリウムが配管から漏れ空気と反応して火災が起きたもの。放射能漏れはなかったが、ナトリウムの取扱いは高速増殖炉の根幹をなす技術だとして、事業主体の動力炉・核燃料開発事業団は解体、改組、もんじゅは稼働停止となった。この二次冷却系ナトリウム漏洩漏事故は、二次冷却系温度計さや管部で流力振動が発生、高サイクル疲労により破損したことが原因だったことから、二次冷却系温度計を改良型温度計に交換する措置がとられている。温度計さや管部について、長さを短くし剛性を増すことで流力振動を防止するとともに、テーパ状とすることで応力集中がない形状のものに交換したほか、高感度の漏洩検出器による早期検知、さらには信頼性の高い金属ガスケットを取り付け、漏洩抑制の機能を持たせている。

 また、地震が多発する日本において、プルトニウムを燃料としナトリウムを冷却材に使うもんじゅの地震に対する備えはどうか、耐震設計と熱応力設計との相反する条件の妥協のもと設計された高速増殖炉もんじゅは軽水炉より地震に弱いのではないか、という周辺住民らの懸念に対して、日本原子力開発機構では耐震工事を実施した。

免震で使われるオイルダンパーの例(提供:大林組)免震で使われるオイルダンパーの例(提供:大林組) たとえば昨年6月~11月まで地震時の既設設備の信頼性を向上する目的一環として、原子炉補助建物屋上に設置している排気筒について、排気筒支持構造鉄塔頭部に制震装置「オイルダンパー」を取り付け、耐震安全性を向上させている。排気筒支持鉄塔頭部の支持枠をオイルダンパーの付いた支持枠と交換、また5ヵ所ある支持点のうち2ヵ所については支持点の拘束を開放して筒身にかかる力を分散させる。オイルダンパーは、シリンダー内に封じ込めたオイルの粘性によって、地震の揺れ(振動エネルギー)を吸収する仕組みで、高層建築物の免震システムとしても採用されている。

 「もんじゅ」の耐震安全性評価について日本原子力開発機構は、改訂された「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」に基づく評価に、活断層評価の審議及び新潟県中越沖地震の知見なども反映して基準地震動を見直した結果、基準地震動を600 ガル(水平方向最大加速度)から760 ガルに引き上げ、これに基づき原子炉建物、安全上重要な機能を有する施設、ナトリウムを内包する主要な設備等の耐震安全性評価の対象とすべき全施設の評価を実施し、耐震安全性が確保されていることを確認。これらの評価結果を取りまとめ本年2 月に原子力安全・保安院に報告し、3 月に原子力安全・保安院で当該報告に対する評価結果がまとめられ、同時に原子力安全・保安院の評価結果について、原子力安全委員会で妥当との確認が行われたとしている。

 日本の原発は現在54基で、総発電量の約25%を占める。2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%削減、2050年には同80%削減するという日本の地球温暖化対策において、原発の役割は大きい。特に高速増殖炉は、発電しながら同時に消費した燃料以上の燃料を生産できることから、原子力発電の燃料であるウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができ、エネルギー資源の輸入に頼らず安定したエネルギーを得ることができることなどから期待は大きい。しかし、高速増殖炉は実験炉、原型炉、実証炉、実用炉(商業炉)と段階的に開発が進められるが、原型炉段階のもんじゅでは2015年までに設計の確からしさを確認し、経済的な運転、保守・補修技術を確立するためにデータをまとめ、2025年ごろまでに次の段階の実証炉、2050年ごろまでに商業炉の完成につなげる計画だが、道のりは遠い。もんじゅでは将来的に炉心や燃料に関する研究開発などを行う計画も検討され、日本の研究開発だけでなく国際的な共同研究開発を行う役割も期待されているが、まずは稼働に伴う安全性・信頼性を福井県、敦賀市の地元に、また国に認めてもらい、その有用性とエネルギー政策上での重要な役割を理解してもらえるよう、安全性向上に対する関係者の引き続きの取組みが求められよう。