第69回 わが国洋上風力発電の実用化に向けて

第69回 わが国洋上風力発電の実用化に向けて kat 2009年12月13日(日曜日)

提供:戸田建設提供:戸田建設toda 戸田建設は先ごろ、京都大学、佐世保重工業、日本ヒュームと共同で、長崎県佐世保市において、世界で初めて、鋼・プレキャスト(PC)コンクリートのハイブリッドスパー(けた)構造による、浮体式洋上風力発電施設用プラットフォームを開発、全長125m、出力2,000kWの実用化に向け、全長12.5mの1/10モデルの実海域実験で有効性を確認した。自力で浮く構造のため、水深50m程度の比較的浅い海域から100m以深の海域まで、広い海域で対応可能な形式が有効なほか、PC部材のプレキャスト化と造船所のドックの活用により、既存施設で短期間での建造が可能で、大型クレーン船が要らず、建造後の曳航、設置が短期間で済むこと、繋留位置の変更により移設が比較的容易なため、設置箇所の経年的な風況変化やエネルギー需要に変化生じた場合でも、柔軟に対応できるという。

 風力発電機の設置が世界的に進む中、わが国では、陸地における風力発電の適地が減少傾向にあり、比較的風況の良い山岳部でもアクセス道路の整備などのコスト負担が増加しているため、世界第6位の排他的経済水域を保有する海洋国家としての立地と、洋上が陸上に比べ風況が3割良好とも言われることから、洋上風力発電の実現が期待されている。しかし水深が10m未満の遠浅海域が広い欧州では着床式の洋上風力発電の実績が多い一方、日本は遠浅の海域が少なく海底が複雑な地形をなしていることなどから、水深の影響を受けにくい浮体式洋上風力発電施設の実現が求められている。大水深域まで含めると、洋上発電でわが国のエネルギー需要をほぼ賄えるとの文部科学省の試算もあり、わが国初の浮上式風力発電技術への期待は大きい。

 ところで欧州の着床式洋上風力発電では通常、タワーエレベーターを配置し管理と作業のためのヘリポート、クレーン、スカイクライマーを設置しブレードの調査や補修用に遠隔監視操作を行っている。軸受などのメンテナンスではヘリコプターを出動、地上100m程度のヘリポートに長さ60mくらいのブレードを避けながらヘリポートに着陸し、2~3名の保守要員が2~3日がかりで作業を行い、その費用は数百万円に及ぶという。そのため、風力発電機のメンテナンス期間延長に貢献するメカ技術が強く求められている。

組合わせセラミック軸受(提供:ジェイテクト)組合わせセラミック軸受(提供:ジェイテクト) 風力発電機用軸受は特に、ジェネレータに用いる軸受で電食による損傷が発生しやすく、故障の原因の一つとなっている。そのため絶縁機能により電食を防止しまた塩水腐食にも耐え軸受の耐久信頼性を高める、軌道輪に非磁性ステンレス鋼、玉に窒化けい素セラミックス、保持器に固体潤滑であるフッ素系樹脂を用いた組合わせセラミック軸受などが採用されている。ジェネレータ用軸受は氷点下から約60℃の温度環境下、回転速度2,700min-1、グリース潤滑下で稼動しているが、組合わせセラミック軸受により、同社一般軸受に比べ約3倍のグリース寿命を延長しているという。

 そのほか増速機ギヤで、鉱油系潤滑油剤に比べ広範な温度領域、高荷重下などで長期にわたり優れた潤滑性能を発揮する合成油ポリアルファオレフィン(PAO)をベースオイルに使ったギヤ油などの開発も進み、メンテナンス期間の延長に貢献してきている。

 浮体式洋上風力発電システムではメンテナンスが着床式に比べ容易になると思われるが、洋上風力発電で避けられない電食や塩水腐食を防止する先述のようなメカ技術は、必要不可欠だろう。わが国洋上風力発電の実用化、設置促進を後押しする機械技術の進展に期待したい。