第01回〜第10回

第01回〜第10回 admin 2008年7月28日(月曜日)

第01回『2001年宇宙の旅』

第01回『2001年宇宙の旅』 admin 2008年7月28日(月曜日)

 この3月、土井隆雄宇宙飛行士を乗せたスペースシャトル「エンデバー」が打ち上げられ、400キロ上空の国際宇宙ステーション(ISS)に、日本初の有人宇宙施設となる実験棟「きぼう」(上写真、提供:JAXA)の船内保管室が取り付けられた。同じ月、宇宙開発の未来像を描いて多くの宇宙飛行士に愛された作家アーサー・C・クラーク氏が他界した。スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』の原作者である。

『2001年』は、宇宙ステーションが『美しき青きドナウ』の曲に乗って優雅に、強烈なインパクトをもってスクリーンに描かれた最初の映画だろう。第5宇宙ステーションを出て、人類を進化に導くオベリスク(黒い石板)の謎を解明すべく月へ、木星へと向かう宇宙飛行士たちを様々なトラブルが襲う。メカの故障もある。

 2001年をとうに過ぎた現在、宇宙ステーションは本格稼動していないが、「きぼう」をはじめとする各種計画の実施が加速してきている。「きぼう」は来年にかけ、今回の船内保管室(空気を満たして、実験装置を保管したり飛行士が休憩したりする場所になる)に加え、各種実験を行う船内実験室、宇宙空間に実験装置をさらす船外プラットホームと、3回に分けてISSに運ばれる。実験装置の移動にはロボットアームが使われる。日本の得意とするメカだが、生産ラインで使われるのとは条件が違う。なんたって宇宙空間は真空で、地上のメカのように関節のところのベアリングに普通の潤滑油とかグリースが使えない。二硫化モリブデンとか金といった自己潤滑性のあるコーティングが使われるそうだ。そのへんの技術動向は、おいおい開発ストーリーなどで取り上げる予定だ。

 1945年、人工衛星スプートニク打ち上げの10年以上も前に通信や天気予報などへの人工衛星の利用といった未来を予見していたクラーク氏の仕事部屋には、米国、ロシアの宇宙飛行士から贈られたサイン入りの写真が何枚も飾ってあったという。宇宙飛行士たちにとって、クラーク氏こそが宇宙開発の夢へとつき動かすオベリスクだったのがもしれない。
Photo by JAXAPhoto by JAXA

第02回『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

第02回『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 admin 2008年8月4日(月曜日)

 ガソリンが、ばか高い。昨年来、原油高から150円台で推移してきて、暫定税率の期限切れで120円台半ばになったのも束の間、暫定税率(どこが暫定だ!)の復活で160円台に急騰したと思ったら、いまや180円台だ。中古車買取専門フランチャイズ、ガリバーの調査では、このままガソリン高が続くようなら売却を検討するという層が5割を超えたとか。
ガソリンと電気を併用したハイブリッド車「プリウス」が累計販売100万台を突破したが、燃料消費が少ないからとそれに買い換えるほど、まだまだお手頃価格とは言えない。

 さて、クルマの燃料で思い出すのはスピルバーグ製作総指揮、ロバート・ゼメキス監督の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。ドク(エメット・ブラウン博士)が開発した「デロリアン(DMC-12)」型タイムマシンはプルトニウムを燃料に動くが、主人公のマーティン・マクフライが飛んだ先、1955年にプルトニウムを入手することはできず、燃料切れで元の時代に戻れない。そこでマーティンとドクは体を張って、プルトニウムに匹敵する時計台に落ちる雷のエネルギーを拾ってどうにか現代に戻る。しかしその後未来に飛んだドクとともに戻った改造デロリアンは、なんとそこいらのゴミを放り込んで動くのである。なんて荒唐無稽な、と当時は思っていた。

 ところが最近、アメリカの自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が農業廃棄物や都市ごみ、産業廃棄物などからエタノールを生産する技術を開発したコスカタ社と提携する、との発表があった。GMやフォード、クライスラーなどは近年、ガソリン価格の高騰と燃料効率基準の厳格化に対応する戦略的な選択肢として、エタノールとかいろんな燃料が使える「フレキシブル燃料車」を推し進めている。そういえばデロリアンはGM出身者が作ったクルマだったっけ。

これからは、金のかからない燃料で走れないクルマは売れなくなっていくのかも。ともあれ、ゴミ燃料に一票!

第03回『ローマの休日』

第03回『ローマの休日』 admin 2008年8月11日(月曜日)

 インドは今、自動車の成長市場として各国が注目している。地元の自動車メーカー、タタ社が2500ドル(26万円くらい)というULCC(超低コスト車)「ナノ」をリリース、日産のゴーン社長も今のところトヨタが進出しない分野としてULCC参入を表明した。注目されるゆえんは、インドで二輪車からの置換え需要が見込まれるからだ。だがホンダはこれに対し燃費向上など、スーパーカブを進化させた二輪車で対抗するという。二輪車需要、スクーター需要が続くと見る。

 さてスクーターで思い出す映像は、ウィリアム・ワイラー監督の『ローマの休日』か。ヨーロッパ各国を親善旅行中の某国王女アン(オードリー・ヘプバーン)は、ローマ滞在中に過密スケジュールに嫌気がさし、ひとり街に出る。そこで出会ったアメリカの新聞記者ジョー・ブラッドリー(グレゴリー・ペック)は、王女とは知らずにアンを自分のアパートに連れ帰るが(アンが睡眠薬でおねむだったので、決してチャラ男ではない…と思う)ふとしたことから王女だと知り、特ダネをねらいローマ観光案内を引き受ける。お供の同僚カメラマン、アーヴィングは、隠しもったカメラ(日本製エコー8。鈴木光学から1951年に発売されたジッポー型スパイカメラ!)で王女のスナップ、たとえば王女を捜索する密偵との乱闘シーンなんかもしっかり押さえる。そんなこんなでアン王女としがない記者ジョーの決して叶うはずのない恋が静かに激しさを増していくわけだが、ここでスクーターが、コロセウムやサンタ・マリア・イン・コスメディン教会の「真実の口」、トレビの泉などを巡り、恋にいたるためのツールとなっている。すでにクルマの交通量が多いローマで、スクーターでの颯爽とした街乗りの、なんてオシャレなことか。だがその光景がイケてるのはアン王女とジョーのツーショットだからで、インドのようにスクーターにすら4、5人乗っかるとなると、様相が違ってくる。女性ばっかりが相乗りすればハーレム状態で結構じゃないかって?…まあ、それなりに結構だろうけど、タイトルも『アラビアの休日』とかにしないといけなくなりそうだ。

 ともかく、二人乗りのクルマにも6、7人は乗り込むだろうと言われるかの国に、果たしてホンダが省燃費の二輪車で対抗できるのか、しばしスクリーンのこちら側で見守ってみたい。

第04回『アイ、ロボット』

第04回『アイ、ロボット』 kat 2008年8月18日(月曜日)

 ホンダがこのほどヒューマノイド・ロボット「アシモ」について、大阪大学と共同でパートナーロボットとしての研究に取り組むとのニュースを読んだ。なるほどヒューマノイドロボットとしては、人間のパートナーという役割はうってつけだ。盲点だったな、と思った。以前ホンダの広報に、アシモにはどういう活用が見込まれるのか尋ねたことがある。答えは「展示会やデパートの受付係やアトラクション、それから夜警もあるかな」とのことだった。どうしても人間の生理上、夜間勤務は効率が落ちる。こういう役こそロボットが担うべきフィールドだろう、と。ホンダは次世代のモビリティーとしてロボット開発に着手しただけに、そのころは「人間の足がわりになる用途」を重点的に模索していたのかもしれない。

 アシモの名前は、作家アイザック・アシモフ博士に由来する。氏にはロボットの登場する著書が多く、作品の中でかの「ロボット3原則」を打ち立てた。その1、人間に危害を加えるべからず。その2、人間の命令に服従すべし。その3、以上の原則に反しない限りにおいて、ロボットは自己を守るべし。著作「われはロボット」は"I,Robot"として映画化されているが、このうち第3の原則により、地球を滅亡へと導きつつある人間から自身を守り、人間に代わり世界を動かそうと企図するロボットのストーリーである。ロボット嫌いのデル・スプーナー刑事(ウィル・スミス)がU.S.ロボティクス社のラニング博士の謎の死から新世代ロボットの関与を疑い、追いかけるというサスペンス&アクション仕立てとなっている。もしロボットが自律的に判断し行動できたら…物語は、3原則に縛られない進化したロボットの無気味さを描いた。

 さて現在、市場にはセラピーロボットやホビーロボット、ヒューマノイドロボット、ホームセキュリティロボット、コミュニケーションロボット、介護用ロボット、産業用ロボットと多くのロボットが投入されているが、開発者はいずれも3原則を意識しているようだ。ロボットが転倒して人間にケガをさせることのないよう、メカとセンサー技術による転倒防止機構があり、それ以前にガンダムみたいに背の高いもの、巨大なものは作らない。企業の社会的責任や安全保証ということはもちろんあるだろうが、宇宙飛行士がアーサー・C・クラーク氏を崇拝しているように、ロボット開発者にとってアシモフ博士の作った3原則は、遵守すべきバイブル、アンタッチャブルな聖域なのだろう。

第05回『007私を愛したスパイ』

第05回『007私を愛したスパイ』 kat 2008年8月24日(日曜日)

 スイスのリンスピード社が、水陸両用車のコンセプトモデル「sQuba」を開発した。水上走行に加え、水深10mまで潜水走行できるらしい。路上では電気モータで走行し、水上では二つのプロペラで、水中では二つのジェット口からの水の噴射で推進するとか。どこかで見たようなと思っていたら、映画『007私を愛したスパイ』の水陸両用ボンドカー「ロータス・エスプリ・サブマリン」がモデルとのことである。

 『私を愛したスパイ』は、007シリーズの10作目である。英国とロシアの原子力潜水艦がシージャックされ、英国からボンド、ロシアからアーニャ(トリプルX)の二人のスパイが諜報活動に送られる。黒幕は、地上の都市を核攻撃して壊滅させ海底都市を築こうとする海運王ストロンバーグ。計画を阻止しようとするボンドたちをマシンガンつきのヘリコプターや爆弾装備付きサイドカー「カワサキ2900」などが追撃し、そのチェイスのなか、ボンドカーは追跡を逃れ、潜水モードで水中へ…。ホイールがボディーに収納されハブ部分はシールドされ、側面から出された四つの水中翼で運行する。小型魚雷や地対空ミサイル、セメント散布装置(これはかなり環境に悪そう)などの武器を積載しているのだが、不思議なことにボンドガールであるロシアの女スパイ、アーニャがこのボンドカーの武器を操作する。

 「なぜ扱い方を知ってる?」と聞くボンドに、「2年前にこの車の設計図を盗んだから」とにっこり答えるアーニャ。なんともエスプリのきいたセリフである。しかし、この映画が1977年製作で、ロシア(当時ソビエト連邦)が新冷戦時代に突入する直前のデタント時代(1969年?1979年)末期であることを考えると、妙な真実味もある。

 さて、開発された「sQuba」だが、今のところ水圧の問題をクリアできずオープンカーで、酸素ボンベとマウスピースをつけて乗り込んで何とか2時間の潜水走行が可能なうえ、地上走行の最高速度120km/hに対し、水上走行で6km/h、潜水走行は3km/hとのこと。これでは時速4kmで泳ぐウナギにも追いつかれてしまう。水陸両用ボンドカーの実現は、まだまだ難しそうである。

第06回『フック』

第06回『フック』 kat 2008年8月31日(日曜日)

 一時期、大人になりきれない若者を「ピーター・パン・シンドローム」と称したことがある。近年のニートとかフリーターとかにあたるのだろうか。本作は、スティーブン・スピルバーグ監督によるファンタジー・アドベンチャーで、バリー作『ピーター・パン』の続編みたいなストーリーだ。

 ピーター・パンはロンドン・ケンジントン公園で乳母車から落ちて迷子となったことから年を取らなくなり、海賊のフック船長らが住むネバーランドで妖精・ティンカーベルらと冒険の日々を送る。宿敵フックをチクタクワニ(どこかで時計を食べたせいで、お腹から時計の音がする)が待ちかまえる海に蹴り落としたピーターの勝利で、物語は終わったはずだが…。

 映画では、ネバーランドを出て40歳となったピーター(ロビン・ウイリアムズ)の二人の子供たちがフック船長に連れ去られる。ピーターは現世で某社社長であり、自分がピーター・パンだと言われてもまったく信じないまま、妖精・ティンカーベル(ジュリア・ロバーツ)に連れられてネバーランドへ。子供たちを救い出すため、宿敵フック船長(ダスティン・ホフマン)との対決が始まる。

 チクタクワニに食べられたフック船長の右手はアタッチメント式の鉤手(つまりフック。タイトルからして、しゃれである)となっている。ネバーランドのシーンの冒頭で、召使いがこの超硬合金(!?)の鉤手をグラインダーで磨き、フック船長に届ける場面がある。ピーターへの憎悪を日々新たにしているようである。アタッチメント式なので、たまに鉤手でなくフェンシングのフルーレのようなものも付ける。さらった子どもたちを見方につけようと黒板を使い話し聞かせるときにはフルーレの先にチョークを突き刺している。でもやっぱり鉤手がマッチしているようで、ピーターとの剣での決闘の中で、グラインダーで削りながら鋭さを増した鉤手で襲いかかる。研削盤でいうところのグラインディングである。常に工具の目立てをして、切れ味を整えている。ところで、フック船長はチクタクワニを連想させる機械式時計を極度に恐れている。ピーターと一緒に戦う迷子たちがカラクリ時計をいっせいにフック船長に突きつけて脅かす場面も登場する。

 ピーター・パンの作者バリーは大人になりきれないピーターを批判的に、紳士的なフック船長を好意的に描いたといわれる。監督スピルバーグも、ピーターに対しては憎しみを抱えながらも子供たちには純粋な愛すべきキャラクターとしてフック船長を描いている。名優ダスティン・ホフマンをフック役に抜擢したのも、その意図の表れだろうか。

第07回『スナッチ』

第07回『スナッチ』 kat 2008年9月8日(月曜日)

 DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が紙面をにぎわしている。高硬度で耐摩耗性に優れ、低摩擦で潤滑性にも優れる。金型では離型性の改善などに、切削工具ではドライ・セミドライ用途などに、人工関節では耐摩耗性向上などに利用され大活躍だが、その名前からは「ダイヤモンドのまがい物」のイメージがぬぐえず、DLCの先発メーカーではICF(真性カーボン膜)という呼称も使い始めている。

 さて、ガイ・リッチー監督の本作も、本物とまがい物が入り混じったジェットコースター・ムービーである。ロンドンの下町イースト・エンド。非合法ボクシングのプロモーター、ターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)と相棒トミー(スティーヴン・グレアム)は、ノミ屋経営の黒幕ブリック・トップ(アラン・フォード)のために八百長試合を仕組む中で、なくなくパイキー流浪民のミッキー(ブラッド・ピット)を敗戦ボクサーに仕立てることになる。一方、ベルギーでは86カラットのダイヤを強奪した4本指のフランキー(ベニシオ・デル・トロ)がNYのボス、アヴィー(デニス・ファリーナ)に届ける途中で仲間の裏切りに会い、ダイヤを奪われる。ダイヤを受け取るはずだったアビーは凄腕の殺し屋ブレット・トゥース・ハニー(ビニー・ジョーンズ)を雇い、フランキーとダイヤの行方を追う。

 ダイヤをめぐる熾烈な争奪戦と賭けボクシングの裏取引が交錯するなかで、本物のダイヤと人工ダイヤが、八百長のボクサーと実力派のボクサー・ミッキーが、レプリカのガンと最強の自動拳銃・デザートイーグル50が登場する。ダイヤを奪おうとする間抜けな黒人3人組がレプリカのガンですごんでみせるところで、殺し屋ブレットはデザートイーグルを見せる。「こいつは本物だ」と。このガス・オペレーテッド・リピーティング・システムは、高圧のガスをうまく使い銃身を固定、命中精度が高く、その威力はレベル?規格のボディーアーマー(防弾チョッキ)をも貫通するという。たしかにレプリカの銃ではデザートイーグルに太刀打ちできっこないだろう。

 人工ダイヤも宝飾用途としての価値は言わずもがなだが、その高い硬度から、研磨や切削加工など工業用では実に重宝されている。墓石の御影石だってスパッと切断できるのである。

「まがい物といわれたって、ただじゃ終わらない」この映画は、そんなことを感じさせる一作でもある。

第08回『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』

第08回『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』 kat 2008年9月9日(火曜日)

 京都市が、間伐材の燃料化に向けたモデル事業を10月から本格化するそうである。京都市域は7割以上が森林で、毎年230?240ヘクタールで間伐などの森林整備に取り組んでいた。間伐された木材をコースターなどに加工して販売するケースはあったが、使用量はわずかで大半は放置されていたという。間伐材の活用法を検討していた市は、粒状に加工した木材「ペレット」を燃料とする暖房器具やボイラーなどが一部普及していることに着目、間伐材燃料化のビジネスモデルを検討し始めた。加工コストや山からの運搬コストの問題から一般への普及は課題も多いが、木材の燃料は石油など化石燃料に比べ二酸化炭素(CO2)の排出が少なく、地球温暖化防止と森林整備を同時に狙える。大いに期待したい。

 このすばらしい取組みからマズい連想で大変恐縮だが、森林をダイナミックに伐採しながら車が進むシーンをスクリーンで観た。『インディ・ジョーンズ/クリスタルスカルの王国』である。物語はほぼ、エルドラドから500年前に盗まれたクリスタル・スカル、それを手掛かりに黄金郷にたどり着くまでの、インディらとソ連の非情な士官イリーナ(ケイト・ブランシェット)率いる秘密部隊とのチェイスに費やされる。米ソ冷戦の番外編である。

 この中で、ジャングルの木々を伐採しながら進むソ連のホイールソー(丸ノコ)車両が登場する。車の両側で巨大なホイールソーが高速回転して瞬時に大木をはらっていく。このほか、スプラッシュ・マウンテンみたいな水陸両用ジープなど、いろんなメカが出てくる映画ではあるのだが、追跡のためだけの森林破壊や、キノコ雲が上がる核実験、それに巻き込まれながら家庭用冷蔵庫に飛び込み難を逃れるインディ、しかもそれを演じている66歳のハリソン・フォードも痛々しい。

 20年前の前作、第3作までタイムリーに観ていた世代には、『インディ・ジョーンズ』もとうとうスピルバーグ/ルーカス流にSF映画になってしまったから、とあきらめきれない痛々しさである。勢いよく伐採した木材は、橋を作るとか、日本のウサギ小屋を作るとか、木炭自動車の燃料に使うとか、さらに先進的にはバイオマス燃料を作るとかに使われたと考えたい。もちろん、バーボンのグラスを載せるコースターでも結構である。

第09回『スパイ・バウンド』

第09回『スパイ・バウンド』 kat 2008年9月21日(日曜日)

 脱北者を装い逮捕された北朝鮮の女性スパイが実は韓国情報機関に北朝鮮の情報を提供したこともある二重スパイだった、とのニュースが報じられた。まさに韓国映画『シュリ』を地でいく話である。本作『スパイ・バウンド(スパイの絆)』は、モニカ・ベルッチとそのパートナーであるヴァンサン・カッセル共演のスパイサスペンス。フランスで実際に起きた、二人のスパイが一隻の船が沈没させた「虹の戦士号」事件。そのスパイの一人、ドミニク・プリウールの証言に基づく物語である。いったいこの世の中、何人の女スパイが暗躍しているのだろう。

 モニカ・ベルッチ演じるフランス情報機関DGSEの女スパイ、リザは、大物武器商リポヴスキーの取引を中止するため、ヴァンサン・カッセル演じる同僚のジョルジュと夫婦を装いモロッコへ向かい「アニタ・ハンス号」を爆破したが、任務を終えたリザはジュネーブ空港で鞄から麻薬が見つかり逮捕、刑務所に服役中の、リポヴスキーの秘密を知りすぎた手下を暗殺する計画に使われる。組織にはめられたのだ。つまり、DGSEは自分たちに協力的でないリポヴスキーをけん制するために船を沈めただけで、実は裏で手を結んでいた。ジョルジュたちは、諜報員を最大限に利用しては簡単に使い捨てる組織に立ち向かう。

 物語で、船の爆破計画を中止するよう要求していたCIA(アメリカ中央諜報局)が報復としてジョルジュの仲間の一人を始末する(たぶんDGSEが差し出したのだろう)。ジョルジュは組織の諫言を振り切り、CIAの女傭兵を暗殺しようと競技用自転車ロードレーサーに乗って街中へ…。武器はなんと、自転車用のエア・ポンプである。ロードレーサーのチューブラータイヤは、チューブ状のタイヤの中にチューブが縫いこまれた軽量タイヤ。マウンテンバイクのようなトレッドパターンを持たず、空気圧を高圧にできるため路面での転がり抵抗が小さく、高速性能に優れる。10BAR(10.2 kg/cm2)程度と高圧にできるポンプは不可欠。これに矢を仕込む。吹き矢の高速・高圧版である。速くて強力に食い込みそうだが、女傭兵はむちゃくちゃ強く、ポンプ兵器は手落とされて使われることがなかったのだが。

 ところで、かの二重スパイも美女だったようだが、本作のモニカ・ベルッチも「イタリアの宝石」と呼ばれるほどの美女。その容貌もスパイの武器の一つなのであろうか。

第10回『ファム・ファタール』

第10回『ファム・ファタール』 kat 2008年9月29日(月曜日)

 カンヌ国際映画祭が開かれる中、385カラット1,000万ドルのダイヤ・ビスチェを強奪したロール(レベッカ・ローミン=ステイモス)は、仲間を裏切って逃走。仲間の追跡を逃れ、瓜二つのリリーという女性になり代わってフランスを離れアメリカへ。7年後、パリに着任したアメリカ大使の夫人リリー・ワッツとして舞い戻った彼女はこれまでマスコミに頑なに顔を見せなかったが、元パパラッチのスペイン人カメラマン、ニコラス・バルド(アントニオ・バンデラス)にスクープされ、自分の過去を暴かれることを避けようと本能的に罠を仕掛けていく。

 ファム・ファタール(Femme fatale)とは男を破滅させる魔性の女をいう。映画のフィルム・ノワールというジャンルでは、必ず男を堕落させるファム・ファタールが登場する。本作はファム・ファタールであるロールが、自分を通りすぎるすべての男を利用し欲望を満たしていく。その中で「スペインの種馬」と言われるアントニオ・バンデラスさえも手玉に取られるのである。

 ところで本作では、ロールがダイヤ・ビスチェを強奪する際に、仲間の一人が内視鏡のようなツールを使って設備室内を観察していく。いわゆるファイバースコープという柔軟な構造のものである。内視鏡オペで使われるように、目的の箇所に到達したところで、切除する鋏がファイバー先端部に現れる。これで配電盤の配線を切断し会場を停電にしたところで、闇にまぎれロールが逃走するのである。もちろんこの時点では、停電させた仲間はロールが裏切ることを知らない。ファイバースコープでは、管の内部で数本のワイヤーがスムーズに動いて目標地点まで動いたり、先端で作業したりする。このためワイヤーがかじって動かなくなったりしないよう潤滑が必要になるが、医療用でも使われる内視鏡に普通の潤滑剤は使えない。そこでドライの潤滑剤、固体潤滑が使われる。固体潤滑剤には温度条件など環境の変化に強い二硫化モリブデンやPTFE(四フッ化エチレン)などが使われている。

 本作は『サイコ』などヒッチコック監督作品に敬意を評するブライアン・デ・パルマ監督作だけに、ヒッチコック監督『深夜の告白』がテレビ画面として登場するほか、瓜二つの女性が登場する同監督作品『めまい』の効果も使われている。ヒッチコックは螺旋階段を深い深い底に落ちていくようにめまいを覚える効果が使われるが、本作ではロールがアメリカに旅立つ飛行機エンジンのタービンブレードの速い回転で、めまいの効果を作り出している。ジェネレーションが違うだけに、デ・パルマのほうがメカが登場する場面が多い。とはいえ本作はデ・パルマならではのエロチック・サスペンスなので、メカよりも、ロールの魅惑的な肢体に釘付けになる方が多いと思うが…。