第62回 高機能フィルム市場拡大で注目されるウェブハンドリング技術

第62回 高機能フィルム市場拡大で注目されるウェブハンドリング技術 kat 2009年10月19日(月曜日)

提供:東海大学・橋本 巨研究室提供:東海大学・橋本 巨研究室 ロームでは先ごろ、厚さ0.3㎜で曲げられるフレキシブル有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)照明を開発、巻き取りできる基板を使用しているため、ロール・ツー・ロールでの量産が可能という。近年、紙やフィルム、鋼材などの産業だけでなく、こうしたフラットパネルやフレキシブル回路、太陽電池など最先端技術分野でも、シート基材からロール・ツー・ロール基材へと移行傾向にあり、ウェブハンドリング技術の重要性が増している。ウェブハンドリングとは、新聞などの印刷物や写真フィルム、磁気テープなどの情報記録媒体、金属薄膜、液晶モニターに用いられる光学フィルムなどの柔軟で長尺の媒体である「ウェブ」を搬送し、途中処理工程を経て最終的に巻き取る技術。製紙・印刷技術やフィルムなどの搬送工程で多くの成果を上げてきたが、近年は先述のとおり、フレキシブル電子デバイスの研究・開発が活発化してきている。中でもフレキシブル有機薄膜太陽電池は、ウェブハンドリング工程による生産で、既存の太陽電池パネルよりも安価に生産できるとして実用化が期待されている。

ウェブハンドリング(提供:橋本 巨研究室)ウェブハンドリング(提供:橋本 巨研究室) ウェブハンドリングシステムではウェブはローラを介して搬送され、最終的に巻き取る。このとき、ウェブとローラ間、またはロール層間に巻き込まれる空気層が問題になり、ウェブ浮上量・空気層圧力分布・ウェブとローラ間およびロール層間の摩擦特性などが問題とされる。ウェブは巻き取られて次の処理工程に受け渡されるが、巻き取られたロールにスリップやしわなどが発生し、経済的損失を引き起こしているのが現状。このような不具合は巻き取る際の速度や、ウェブの張力が適切でないことが原因と考えられていることから、東海大学・橋本 巨教授の研究室では、どのような条件で型崩れやしわが発生するか調べ、その防止法に関する研究をトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学・技術)の観点から行っている。

 接触に伴うこうした問題に対し、ソーラーリサーチ研究所では空気を噴出することによりフレキシブル太陽電池、偏向板、フィルムなどを浮かせた状態で懸垂する非接触搬送装置で構成される保持装置と、ワーク進行と同調して走行する非接触支持走行装置を採用した。フィルム送出部ではフロートチャックを用いた空気流による送出機構により、搬送課程ではフィルム先端部に垂れ下がりを生じさせることなく搬送できる。非接触搬送装置により、フィルムにキズ、汚れ、ストレス、静電気の付着が起こらないという。

提供:TDK提供:TDK ウェブ側でもロール・ツー・ロール機構への対応が進む。TDKでは、記録メディアで培ったウエットコーティング技術を応用展開した独自3層構造により、高い透過率を確保しながら、優れた柔軟性・屈曲性・摺動性を有する透明導電性フィルム「フレクリアTM」を開発、デジカメなどに搭載されるタッチパネル向け上・下電極用途や、電子ペーパー、電磁波シールド用途などに利用できるとしている。

 ウェブハンドリング関連市場はフレキシブル太陽電池など環境保全に関わる高機能フィルムの市場拡大で、2015年には30兆円市場とも目されている。ロール表面の摩擦係数や表面粗さの制御による摩擦挙動のコントロールや、先述のようなウェブ側の摺動特性改善、さらにはエア搬送、エア巻き取りのような比接触ハンドリング技術も含め、拡大するロール・ツー・ロール市場に対応するウェブハンドリング技術の進展に期待したい。