第60回 補助ブレーキ義務付けで、エレベータのさらなる安全性向上を
第60回 補助ブレーキ義務付けで、エレベータのさらなる安全性向上を扉が開いたままエレベータが動いた場合、自動的に運転を止める補助ブレーキの取付けを義務付けた改正建築基準法施行令が9月28日に施行、同日以降に着工する建物から適用が始まった。2006年に東京都港区のマンションで男子高校生がシンドラーエレベータ社製のエレベータに挟まれ死亡した事故は、ブレーキ不良で扉が開いたまま急上昇したのが原因だったことから、国土交通省が昨年9月に補助ブレーキを義務付けるよう政令を改正した。エレベータかごを吊るロープを挟み急停止させるロープブレーキを取り付けたり、ロープ巻上げ機の電磁ブレーキを二重化するなどの対策を取った機種がすでに国交省の認定を受けている。
今回の施行に先立つ5月、シンドラーエレベータでは2006年の死亡事故に関する技術説明会を開催、事故原因とされるブレーキ制止力の低下を招いたブレーキライニングの摩耗について、「ブレーキ装置の部品であるソレノイドの電気故障によりブレーキドラムとブレーキライニングが擦れる状態が長く続いたため」という見解を示していた。
エレベータのブレーキには、動力が切れたときや、走行中にドアが開きドアスイッチが切れた場合に作動する電磁ブレーキと、ドアスイッチかごおよび昇降路の出入口のドアが全て閉じた状態でなければ、運転回路を働かせないスイッチがある。まず、ロープ式の一般的なエレベータでは、まず電気的にかごを減速、停止させ、ブレーキはこの停止したかごが動かないよう巻上機を固定する役割を果たす。ブレーキはまた、停止時に、スプリングの力でブレーキパッドがブレーキドラムを押さえつけ、エレベータのかごを保持する仕組みになっている。エレベータが動く場合は、ドアが閉じたことを示すスイッチが入り、安全が確認された後、ブレーキの電磁力でスプリングを押し開き、ブレーキを開放する。もし電源が切れた場合は、電磁力がなくなるため、スプリングの力で強制的にブレーキがかかる。
大手メーカーで新安全基準に対応する機種の認定取得が進む一方で、試験塔など大規模な試験設備を持たない中小企業での認定取得は遅れているというが、今回対象となっている新規物件だけでなく、国交省の昇降機等事故対策委員会では「国内で70万台程度という既設のエレベータにも普及を図ること」を意見、既設エレベータへの補助ブレーキ取付けも数年後には義務付けられる見通しとなっている。中小企業も含めたエレベータメーカー、ブレーキなどの部品メーカー、材料メーカーが一丸となって、さらなるエレベータの安全性向上に取り組んでほしい。